Please make a family



 アスランはラクスのお願いに滅法弱かった。
「アスラン、お願いがあるんですの」
 だから、手を組んで、不安に揺れた瞳で見つめられながらお願いされちゃったりなんかしちゃったら……
「なんですか、ラクス。おれにできることならどんなことでもかなえてみせますよ。なんでもおっしゃってください」
 そう答えるのは必須だった。
「どんなことでも……なんでもかなえてくださいますの?」
「かなえます」
「では、どうかお願いですわ、アスラン。ひとりはさびしいんですの、家族を作ってあげてくださいな」
「は……?」
 家族を『作ってあげて』ください? それは……どういう意味だ。
 ひとりがさびしいと言うのはわかる。確かにひとりはさびしい。
 孤児院にはキラもカリダもマルキオも子どもたちもいるし、家族同然に暮らしてはいるが、厳密にはやはり違うのだ。
 だからこう……言うのはなんだが、家族になってくださいと言われるならわかるのだが。
 しかし、あげてくださいというのはどうも……
 アスランはハッと肩を揺らした。
 ──まさか、本当に愛想尽かされた!?
 いつぞや、カガリから言われた恐怖がじわじわと胸に忍び寄る。
 確かに、このところようやく周りからそれなりに認められるようになって、カガリの護衛に勤しんでいたからラクスとの時間があまり取れなくなっていたことは認めるけれど! それはザフトにいた頃とたいして変わらない状態だ。いきなりそんな愛想尽かされるなんてことは……いや、それとも愛想はいきなり尽かされるものなんだろうか。
 でもだからって、いまさらおれにラクス以外の人間を選べと言うのか!?
 ……そんなこと、おれにはできない!
「ラクス!」
「はい?」
「申し訳ありませんが、そのお願いは……聞けません」
「まあ! どうしてですの!? アスランにできることならどんなことでも、なんでもかなえてくださるとおっしゃいましたのに! わたくしはアスランにできると信じてますからお願いしておりますのに!」
 ラクスの瞳が悲しげに曇る。
 アスランだって彼女のそんな顔は見たくない。
 ラクスの願いならなんだってかなえてやりたい。
 それでも、これだけは無理なのだ。
「本当に本当にすみません……おれは、あなた以外の人とは」
「ひどいですわ……! ピンクちゃんひとりだけだなんて、あんまりにもさびしいではありませんか!」
「すみませ…………ピンクちゃん?」
 なおも謝罪しようとしたアスランは、会話が噛み合っていないような気がして顔を上げた。
 ラクスは瞳に薄い涙の膜を張り、そうですわ、震えた声で答える。
「プラントにいたころはピンクちゃんにはたくさん家族がおりましたわ。アスランがおうちにいらっしゃるたびに贈ってくださいましたもの」
「は、はあ」
 馬鹿の一つ覚え、とかつてのルームメイトに言われたようにアスランは馬鹿みたいにハロを贈りつづけた。
 ラクスが喜んでくれる──ただそれだけで作りつづけ、気がつけばラクスの周りでハロの軍団が大合唱する有様になってしまった。さすがにやりすぎたと少し後悔している。
「わたくし嬉しかったですわ。ピンクちゃんにたくさん家族ができていくのが。それに、増えるハロがあなたとの逢瀬の証でしたもの」
 さらりと言われた言葉に動揺するアスランには構わず、ラクスは瞳を伏せる。
「あの状況下ですもの。ピンクちゃんひとりでも連れ出せただけよかったと思います。ですけどね、アスラン。わたくしにはあなたがおりますのに、もうピンクちゃんにネイビーちゃんはおりませんの」
 そこで、アスランは初めて自分の誤解に気づいた。
「あの、家族を作ってあげてというのは、ハロの家族をという意味ですか?」
「そうですわ。ほかになにがございますの?」
「いっ、いいえ!」
 ぶんぶんとアスランは首を左右に振った。
 ……こんな誤解をしてしまうなんて、おれはなんて馬鹿なんだろう。
「できましたらね、ネイビーちゃんだけじゃなくて、イエローちゃんもグリーンちゃんもオレンジちゃんも……パープルちゃんも作ってあげてほしいんですの」
 潤んだ瞳に真下から見上げられて、アスランの理性はプッツンとキレた。ザフトのエリート軍人もびっくりのキレっぷりである。
 アスランはがばちょ! とラクスを抱きしめた。
「はいっ! すぐに作ります、ネイビーもパープルもイエローもグリーンもオレンジも!」
「本当の本当ですの!? うれしいですわ、素敵ですわ! 大家族になりますわね! アスランはやっぱり、なんだってかなえてくださいますのね! ああ、愛しておりますわ、アスラン!」
「ええ! おれも愛しています、ラクス!」
 二人は固く抱き合い、いちゃいちゃとハートマークを周囲に飛ばしまくる。
 そのハートマークをガンガン後頭部にぶつけられながら、最初から最後まで、つまりアスランがラクスからのお願いを誤解し、それが解けていまにいたるまでのすべてを目撃する羽目になったキラは、スィッと自分の肩に止まった緑色の鳥型ペットロボットに対し、ボソッと呟いた。
「ぼくもトリィに家族がほしいなぁ……」



2011.10.30


 
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