ポンッと軽い音を立て、何もない空間から薔薇の花束が現れた。
 真砂子は思わず息を呑み、まじまじと薔薇を差し出す男を見つめた。
「……安原さんが手品がお上手だとは、知りませんでしたわ」
「越後屋ですから」
 にっこりと安原は笑う。
「どうぞ。お誕生日おめでとうございます、原さん」
「ありがとうございます」
 真砂子は微笑んで、安原から薔薇の花束を受け取った。
 香りを嗅いで、鼻を突き抜けるその香りを楽しむ。
「いい匂い。……でも、薔薇の花束だなんて、お高くありませんでした?」
「まあ、薔薇ですからね。少々値は張りましたけど、原さん、ぼくがどこでバイトしてると思ってるんです?」
「そうでしたわね」
 クスクスと真砂子は笑った。
 SPRの給料は破格だ。これくらい、真面目に働いていればいつでも買える。
「それに」
 安原は茶目っ気たっぷりに、ウインクしてみせた。
「愛しい人の誕生日を祝うためなら、薔薇の花束の一つや二つ安いものですよ」
「まあ」
 真砂子はうっすらと頬を染めた。
「お上手ですこと」
「嘘偽りない本音ですよ?」
「もちろん、存じ上げておりますわ」
 言って、二人はクスクスと笑い合った。
「ねえ、原さん。これから、二人で出かけましょうか」
「え?」
「滝川さんたちが来るまでまだ時間があるでしょう。だから、それまで」
 ね、と安原は笑む。
 このあと、滝川たちいつものメンバーが真砂子の誕生日を祝ってくれることになっているのだ。確かに約束の時間までは、まだしばらくある。
 いいですわね、と真砂子は頷いた。
「では、行きましょうか」
 立ち上がり、安原は手を差し出した。
「お手をどうぞ」
「ええ」
 安原の手を取り、真砂子も立ち上がる。
「どこへ行きましょうか」
「どこへでも。あなたとなら」
「光栄ですね、姫君」
 カランカラン、とドアベルを鳴らし、ブルーグレイの扉は閉まった。


赤い薔薇を


 チャッと資料室の扉が開き、麻衣とリンが顔を覗かせる。

「……真砂子たち、行った?」
「そのようですね」
「あ〜、甘かった。この薔薇、どうしましょうか、リンさん」
「デスクのほうに置いておきましょう。原さんが持ち帰るでしょうから」
「ですね。ナルにお茶淹れてきます。リンさんは?」
「お願いします」
「了解しました」



2010.7.24


 
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