綾子がドアを開けると、妹分たちの姿があった。
カジュアルな格好の麻衣と、いつものように絹の着物を着た真砂子だ。
あら、と思う綾子に、麻衣がにっこりと笑った。
「綾子、誕生日おめでとー。入れて?」
「あたくしたちと、滝川さんたちからのプレゼントを持って参りましたわ」
「あら、何かしらね。イイモンなんでしょうね」
真砂子が掲げた紙袋を見て、綾子がぬけぬけと言う。
「それは見てからのお楽しみってやつ」
「ま、せっかく来てくれたんだしね、入りなさいよ」
綾子が中に促せば、麻衣と真砂子は揃って軽く頭を下げた。
「んじゃ、お邪魔しまーす」
「お邪魔いたしますわ」
「どーぞ」
リビングに通すと、二人は早速紙袋からプレゼントを取り出した。それはさらにビニール袋に包まれている。
そのビニールの形状からなんとなく予測をつけていると、麻衣があのね、と前置きする。
「プレゼント、何にしようか、すごーく悩んだの」
「ですから、皆さんで考えて、お金を出し合いましたのよ。あたくしと麻衣と、滝川さんと安原さん、ブラウンさんとリンさん──それから、ナルも」
これには驚いた。
「あのナルが、アタシのプレゼント代を捻出したって?」
「うっわ、ナルってばひどい言われよう。まー、気持ちはわかるけど、ナルもそこまでケチじゃないと思うよ?」
「そりゃ、そうだろうけどね、驚くわよ、やっぱ」
「そんなわけでね、これ」
ガサ、と麻衣がビニール袋を取り去る。
現れたのは、植木鉢。
「あら、カスミソウね」
「うん、『清らかな心』。樹の声を聞ける綾子にはぴったりだと思って」
そこで、真砂子が口を挟む。
「まあ、賛否両論ございましたけれど」
「あっらぁ、それはどういう意味かしらぁ?」
「ご自分の胸にお聞きになったら?」
「もー、せっかくの誕生日なんだから、喧嘩しない!」
仲裁に入った麻衣を、綾子がじろ、と眺める。
「で、プレゼントがカスミソウだけってことはないわよね? カスミソウの値段なんてたかが知れてるじゃない」
「……やっぱり綾子にカスミソウは合わない気が……」
「何か言った?」
「イイエ、何も」
ふるふると首を振り、麻衣は頷いた。
「当たり、これはプレゼントの一部。本星はね、こっち。真砂子」
「こちらですわ」
真砂子が取り出したものに、綾子は目を丸くした。
「アメジスト?」
それはアメジストでできたブレスレットだった。
「そ。綾子って結構怖がりっしょー?アメジストって魔よけになるらしいし、恋人とか家族とか友人とか、そういう絆を深めてくれるんだって」
「ですので、松崎さんにぴったりだと思いましたのよ」
「天然石だからそこそこ高くてさ、だからみんなでお金出し合ったの」
えへへ、と麻衣が笑う。見れば、真砂子もほんのりと笑んでいた。
少し、いやかなり気になる単語があるけれど、ここは素直に喜んでおこう。大人のオンナとして。
綾子はブレスレットを手に取り、少女たちを見返した。
「ありがたくいただいておくわよ、麻衣、真砂子」
HAPPY BIRTHDAY AYAKO
「アメジストの提案はぼーさんなんだよ」
「ふうん」
2010.6.14