初めて、本気の恋をした。
 時々、どうしてこの人なんだろうと思ってしまうけれど、それでもあたくしは彼が好きだった。
 綺麗な横顔は見ていて好きだし、とても傲慢だけれど、とても素直な一面もある。だから、あたくしは彼を嫌いにはなれないのだ。
 ──いつから、だったのだろう。
 彼の目が、『彼女』を見ていることに気がついたのは。
 彼女の好きな人は、彼のお兄さん。とてもそっくりで、二度と触れられないひと。
 彼女はいまも忘れていない。きっと、永遠に忘れられない。
 あたくしが彼に本気の恋をしたように、彼女も本気の恋をしていたから。
 それなのに、彼は彼女を見ている。
 ご自分ではまだ気づいていらっしゃらないようだったけれども、あたくしにはわかってしまった。だって、あたくしは彼が好きだから。
 どうして、あたくしではなくて、彼女なのかしら。どうしてあたくしを見てくれないの?
 そんなことを思ってしまうあたくしは、とても醜い。彼女みたいに、まっさらではいられない。
 だから、嫌いよ、と思ってしまうのだけれど。
「真砂子、いらっしゃい!」
 彼女の笑顔を見ていると、そう思ってしまった自分が恥ずかしくなる。
 やっぱり、あたくしは彼女が好き。大切なお友だちだもの。それから、彼も。
「こんにちは、ナル」
「……どうも。麻衣、お茶」
「りょーかい。真砂子はいつものやつ?」
 いつか、麻衣は気づくのかしら。
 ナルの視線と、あたくしの醜さと。
 麻衣はそのとき、何を想うのかしら。
 そのとき、あたくしは、
「いえ、今日は紅茶をお願いしますわ」
「へえ、めずらしいね」
「たまには、と思いまして」
「オッケ、淹れてくるね」
「ええ」
 あたくしは、何を想うのだろう。
 それはまだ、わからない。


何を想うの


 いまはただ、そのとき何があっても、すべて受け止められたらいいと。
 あたくしは想う。



2010.5.17


 
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