ゴールデンウイーク最終日、ナルにお茶を持っていったあたしは決意した。
 本を読むナルに告げる。
「ナル、デートしようよ」
「断る」
 即答かよ。
 期待はしてなかったけど、即答されると意地になるってもんだよ。
 あたしはぶうっと頬を膨らませると、机に身を乗り出すようにして言った。
「えー、たまにはいいじゃん! せっかくのゴールデンウイークなのに、どっこも行ってないんだよ?」
「ぼくは忙しい」
「忙しいったって、本読んでるとこしか見てないよ。別に調査があるわけでもないんだし、数時間くらいいいじゃんか」
 ぶつぶつと呟けば、ナルはようやく顔を上げた。
「ぼくが麻衣に付き合うことにどんなメリットが?」
 漆黒の瞳が、不機嫌さを秘めてあたしを見た。
 反射的に怯んじゃったけど、キッと見返してやる。ここで負けたらダメだ。押して押して押しまくれ。
 あたしは人差し指を振り、チッチと笑った。
「たとえばー、ナル、お茶が飲めなくなったら困るんじゃないかな〜?」
 ナルの眉間に皴が寄る。
「……ぼくを脅す気か?」
「まっさか! あたしは誘ってるだけだよ、デートしようって」
 にっこりと、まどかさんばりの笑顔を見せる。
 ナルは顔を逸らし、ため息をついた。
 お、これはいけるかもしれない。
 よし、ちょっち恥ずかしいけど、言ってやりますか。あたしだって乙女だもんね。
「それにね、ナル」
 ナルがこっちを見るのを待って、あたしは続けた。
「ナルを好きになった時点で、普通のカップルみたいなデートとかは諦めてるよ。理想より、ナルのほうが好きだから」
 うー、やっぱ恥ずかしいぞ。
「でもね、あたしだって女の子なの。好きな人と仕事以外で出かけたいって、思ったりするんだよ」
 恥ずかしさをこらえて、ナルの目をまっすぐ見つめる。
 ほんと憎たらしいほど綺麗だなー、なんて思いながら。
「だから、ナルとデートしたいの。一緒に遊園地行きたいとかショッピングしたいとかは言わないよ。ナルが行きたいなってとこでもいいから、デートしようよ」
 しばらく、あたしとナルでにらめっこが続いた。
 やがて、ナルが本を閉じた。すっと、白い指を二本立てる。
「──二時間だ」
 やった!
 あたしは顔を綻ばせて、所長室から顔を出した。
「安原さん! ナルと二時間くらい外に出てきてもいい!?」
「ええ、構いませんよ」
 安原さんは笑顔を返してくれた。
 嬉しくなって、あたしは振り返る。
「行こ、ナル!」


デート


「う、うう……。麻衣〜……」
「まあまあ。いいじゃないですか、滝川さん。谷山さんらしくて。ねえ、リンさん」
「ええ、まあ……」
「滝川さん、今日はもうお帰りになったほうがいいと思いますよ。多分、もう帰ってこないでしょうし」
「何!?」
「恋人にあんなこと言われたらいくら所長でも、オフィスに帰ろうとしますかねぇ。谷山さんの好きにさせて、そのままご自宅にお帰りになるんじゃないですか?」
「な、なにぃぃぃっ!? リン! お前さんナルにどんな教育してんだ!」
「ちょっ……落ち着いてください、滝川さん!」
「麻衣〜っ!」
「あはははは、滝川さんってば心配性だなぁ」



2010.5.5


 
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