ムカつくヤツ
「ちっくしょおおお!」
ガンッ! と何かを蹴り飛ばす音とともに、エドワードの叫び声が轟いた。
「まあまあ、落ち着きなよ、兄さん」
「うるっせえ! これが落ち着いていられっか!」
やれやれ、とアルフォンスが兄をなだめるが、エドワードは憤慨を収めない。
ちなみに、彼の足元には蹴り飛ばされたゴミ箱が転がっている。これを片づけるのはエドワードではなく、アルフォンスだろう。
「かーっ、ホンットにムカつくぜ、あの大佐!」
「うーん、あれは大佐なりのお祝いだったと思うけどなぁ」
「なんのだよ!」
「兄さん、今日がなんの日か覚えてないの?」
「はあ?」
「覚えてないんだ」
アルフォンスはふうと息を吐くと、言った。
「今日は兄さんの誕生日でしょ?」
エドワードは目を見開いた。
「……忘れてた」
ああ、だから。
『何? 今日はこれから西部に行くだと? いかん、いかんな、鋼の。きみは今日、これからリゼンブールに行きたまえ。──反論は許さんぞ。これは上官命令だ。逆らえばどうなるか、もちろんわかるだろう? ハハハ、なんとでもいいたまえ。撤回はせんからな』
だから、あの人は。
エドワードは空を見上げ、呟いた。
「……やっぱムカつくヤツだ」
2010.6.4