いくら悔やめども、それはもう
やめろ、やめろ……やめるんだユフィ!
君はそんなことをしなくてもいい! 血に濡れるのは俺だけでいいんだ!
君は穢れを知らぬ無垢な、穢れなき春のごときお姫様でいてくれるだけでよかったのに!
なのに!
「日本人はみんな、みぃんな殺さないといけないの。だって、あなたと私の幸せを脅かすんだもの。そんな存在は消さなくちゃ。あなただって、黒の騎士団なんてものを持っているから私のところに来られないんでしょう? だったら、全部私が殺してあげるわ」
そう言いながら愛しい妹は、愛しいひとりの少女は銃を日本人に向けて撃っていく。
ああ、こんなこと、望んではいなかったのに。
どうして、こんなことになった。
ユフィ、どうしてここに、このエリアに来てしまったんだ。
君は本国で幸せに、穏やかに暮らしていてくれていればそれだけでよかったのに。
この手は血に濡れている。後戻りなどできぬほどに。
だけど、君の血だけには濡らしたくなかった。
君を殺したくはなかった。
あいしていたから。
「ルルーシュ! よかった、来てくれたのね!」
君は俺を見て、嬉しそうに叫ぶ。
「私と一緒に日本人なんか皆殺しにして、ずっとずっと一緒にいましょう!」
ゆっくりとユフィに近づく。彼女は俺を撃たない。
近づいて、ユフィの華奢な身体を抱きしめた。マントが血に濡れて重くなるが、気にしない。
「好きだった、愛していたよ、ユフィ」
「ええ、ルルーシュ。私もあなたが大好きだわ」
俺は自分の唇をやわらかなユフィのそれに押しつけ……ユフィをゆっくりと離した。
「ルルーシュ……?」
ユフィの瞳が、俺のとは少し色素の違う紫の瞳が俺を見つめる。
俺はユフィにやわらかく微笑んだ。最後にせめて、笑顔で。
「さようなら、ユフィ」
ユフィに、銃を向ける。
「ルルーシュ、何をするの?」
君のその、無垢な眼差しが痛くて。
ぱぁん。
銃声が辺りに響き渡り、ユフィが腹部を血で真っ赤に染めて倒れ伏す。
「ル、ルーシュ……ど……して……」
ユフィが、かそけく呟いた。
「……すまない、ユフィ。でも、これできみは楽になれる」
「楽……に……?」
「もう……苦しまなくて、いいんだ……」
つうと、涙が頬を伝う。それを見たユフィがゆるゆると手をのばしてくる。
「やだ……泣かないで……ルルーシュ……」
ユフィは俺の涙をぬぐいながら、ふわりと微笑んだ。
「愛しているよ、ユフィ。俺だけの姫君」
「先に逝って……待ってるから……ルルー、シュ……」
そう言って、閉じられた瞼。
ユフィの微笑みはとても美しかった。
もはや開くことのない瞼に口づけて、俺は一人呟く。
「……ああ、待っていろ。すべて終わらせたら、君のもとに逝くよ」
愛しい少女の骸を前に、俺は狂ったように高らかに笑う。
「君は、俺のものだから」
なあ、ユーフェミア。
血に濡れた、慈愛の姫君よ。
俺は愚かだ。
俺はブリタニアを必ず壊す。
俺は狂っているのかもしれないな。
でも、当たり前だろう? だって俺は。
不老不死の魔女と契約した男なのだから。
まだ世界の醜さを知らなかった頃にそっと交わした約束。
「ねえ、ルルーシュ。私たち、ずっとずっと一緒よね」
「うん、ユフィ。僕たちはずっとずっと一緒だ」
「お姉様もナナリーも、マリアンヌさまも」
「うん。姉上もナナリーも、母さんも」
「約束ね」
「うん、約束だ」
いまにして思えば、決して叶うことのない夢物語。
けれど確かに信じていることのできた幸福な日々。
あの頃に戻れたのならどんなによかったか。
決して叶うことのない──。
2008.3.21