熱
「天子様!」
派手に扉が開き、血相を変えた星刻が飛び込んできた。
呆れたように香凛が声をかけた。
「お静かに、星刻様。天子様が起きてしまわれます」
「あ、ああ……すまない、香凛……天子様が熱を出されたと聞いたが」
「ええ、ただの風邪だと侍医が言っておりました。薬を飲んで休んでいれば、すぐ治ると」
「そうか……」
星刻はホッと息をつく。
そんな星刻に香凛は笑みを浮かべ、天子の寝室とを区切る紗幕に手をかけた。
「中へどうぞ。天子様は先ほどからうわごとで、ずっと星刻様を呼んでおります」
星刻は目を瞠り、頷いた。
「星刻……?」
ふ、と目を覚ました天子は、目の前にあった顔にその名を呼んだ。
「はい、天子様」
「……最近、星刻はわたしに会いに来てくれなかった」
「それは……忙しかったものですから」
だからね、と。
天子は花がほころぶように笑った。
「今日は、わたしのそばにいてね」
そして、熱で潤んだ瞳のまま少女は続けた。
「手も、握って、ずっと」
星刻は天子の小さな手を優しく握り、微笑んだ。
「そばにおります、ずっと」
2010.5.30