なまえをよんで
「星刻」
「はい、天子様。どうなさいました?」
なまえをよんだら、星刻は笑顔で振り向いてくれる。
私は首を横に振った。
「ううん、なんでもないの」
本当になんでもない。
ただ、なまえをよんでみたかっただけ。
「星刻」
「はい」
「星刻」
「はい、天子様」
「星刻」
「はい、どうなさったのです? 天子様」
星刻が首を傾げている。
「ううん、ただ星刻の名前を呼んでみたかっただけだから」
そう言ったら、星刻は少し驚いたあと、ふわりと笑ってくれた。
私の大好きな笑顔。
「では、いつでもお好きなときに私の名をお呼びください。天子様」
「うんっ」
ねえ、星刻。
いつか、あなたにもよんでほしいの。わたしの、なまえを。
あなたの優しい声で、なまえを。
麗華──と。
2010.5.22