3月が始まって約1週間が経つというのにこの寒さは何なのだろう。どこから来ているのか全く想像できない。今日も冷たい風が頬を鞭打つ。
それにしてもサッカー部のみんなは元気だ。半袖だというのに汗すらかいている。…わたしもみんなを見習わないと。凍ってしまいそうな手足を奮い立たせた。

この部活のマネージャーになってわかったことがひとつある。それは剣城くんが意外にも優しいということだ。多分本人に言ったら怒るだろうけど。
この前は重くて持ち上がらなかったクーラーボックスを軽々と持ち上げてそのままスタスタとキャラバンに向かって行ってしまった。唐突な出来事だったので一瞬呆けてしまったが、慌てて追いかけて『あ、ありがとう?』と疑問形ながらもお礼を言った。そしたら彼は『勘違いすんな。お前のためじゃねーから』とつっけんどんな言葉を返された。でもわたしはほんのり赤くなった耳を見逃さなかった。
その前は試合の資料を取りに行ったのだけれど、棚の一番上で無残にも身長が足りなかった。何か台や脚立があれば良かったのだけれどその場には無かったのだ。仕方なく円堂監督か鬼道コーチを呼びに行こうとしたらふらっと剣城くんが現れて無言で取ってくれた。その時も耳がほのかに赤く染まっていた。
この他にも色々とある。それにしても剣城はわたしが困っているときふらっとタイミング良く現れるけど何でだろう。全く持って謎だ。
そんなことを考えながらふと視界に入った剣城くんを見た。するとバッチリと目が合ってしまった。わたしは手を振ろうと手を挙げたら目を逸らされてしまった。そういえばこんなこと、何度もあったかもしれない。前は目が合ったら「なんだよテメー」って睨んできたというのに。
…もしかしたらわたしは剣城くんに嫌われているのかな。だとしたら、かなりショックだ。わたしは小さく溜息をついた。


部活が終わり、みんながそれぞれ着替えをしに雑談しながら部室へ向かう。わたしもそうしたいが、後片付けがある。マネージャーというのも結構大変だ。
そこに噂の剣城くんがやって来た。「どうしたの?」深刻そうな顔をしているけれど、具合でも悪いのだろうか。心なしか顔が赤い気がする。

「…空野」
「なに?剣城くん」
「えっと…か、帰る前に河川敷に来てくれないか?」
「うん…いいけど」
「ぜ、絶対来いよ!」

そう捨て台詞を吐いて走って部室へと行ってしまった。一体、何の用があるのだろうか。「変なの」そう呟いて後片付けを続けた。

やっと後片付けを終えて河川敷に向かうと本当に剣城くんが待っていた。いつもの制服(腕まくり)にマフラーって遠目から見てもかなり目立つ。寒くないのかな、と思いながら歩み寄った。
目の前に立つと剣城くんは真っ赤な顔でこちらを振り向いた。寒いどころか暑いみたい。

「で、どうしたの?」
「…こ、これ。ホワイトデー」

そう言って突き出してきたのは可愛いラッピングがされた少し大きめのプレゼントだ。包装だけでは何が入ってるかわからないが、わりと大きい。
いや、その前にホワイトデーは来週だ。一週間もフライングしているけどどうしたのだろう?そのことを伝えると困った顔をした。

「気持ちが昂ぶって…その、早く買ってしまったんだ」
「ホワイトデーまで待てばいいじゃない」
「ラッピングぐしゃぐしゃになるの嫌だから…」

そこまで話してわたしは思わず吹き出してしまった。剣城くんはちょっと泣きそうになりながらも「な、なんだよ!」と怒った。わたしはごめんごめん、と謝った。すると剣城くんは腑に落ちない顔でこちらの顔色を伺った。

「剣城くんって、面白いね」
「それ褒め言葉か?」
「うん。褒め言葉!ありがとうこれ、嬉しいよ」
「…実はさ、早く渡すのお前だけなんだ」
「え?」
「まだ他の二人のマネージャーには買ってない」
「早く買ってあげたほうがいいよー」
「え、ちょ…わからないのか?」
「なにが?」

剣城くんの言ってることが全然わからない。わたしは首を傾げた。すると剣城くんは耳まで真っ赤にしてふるふると震えた。どうしたのだろう、やっぱり風邪なのかもしれない。心配していると、鋭い目つきでこちらを睨んだ。思わず驚いた。

「だから!てめーのことを特別だと思ってんだよ!」
「…特別?」
「…………そ、そうだ」
「ああ!同じ学年のマネージャーだからだね!」

そう言うと剣城くんはがっくりとうな垂れてしまった。もしかして違ったのかもしれない。どういうことか聞こうとしたら「もういい」と言われてしまった。もしかして怒らせてしまったのかと剣城くんの顔を覗き込んだら真っ赤な顔で顔をしかめてた。怒ってるのとは違うみたい…な気がする。

「もっと、自信がついたらハッキリ言うから。それまで待っててほしい」
「…う、うん?」

そう言って剣城くんは去って行ってしまった。ズンズンと歩く姿はやっぱり怒っているようだったけれど、どこかスッキリしているようだった。
剣城くんの背中が見えなくなったあと、ラッピングをほどいて中身をみてみると、可愛らしいぬいぐるみだった。
これを剣城くんが選んで買ったのだろうか。だとしたら大変だっただろう。男の子が、ぬいぐるみを買うなんて。ホワイトデーなんてお菓子とかでいいのに。わたしのために?なんで?
…なんで、こんなにも気持ちが安らぐんだろう。剣城くんの課題は、山積みだ。

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