白いカーテンを開けると眩しい日差しが俺を襲う。いつも通り、なんら変わらない一日が始まろうとしている。今日も今日とて、学校だ。
俺はマサキ、中学一年生だ。特に自慢しているわけでもないが、実家はお金持ちだ。廊下を歩くとメイドがいて、挨拶をしてくる。本当は着替えとかを手伝う執事がいるのだが、あいにく休養を取っているらしい。朝ご飯を食べに向かうと、すでにヒロトが着席していた。

「おはよう」
「おはよう、ヒロトさん」

ヒロトさんは俺の義兄であり、吉良財閥の社長でもある。いわゆるお偉い人だ。普段この家に居ることすら少ないのに朝から居るのはかなり珍しい。何かあったのだろうか。

「実はね、マサキに仕えてた執事が辞めちゃってね〜」
「えっ、そうなの?」
「うん。だから今日から新しい執事さんだから」

執事くらいいいのに、と思いながら奥から出てくる執事をまじまじと見る。出てきたのは桜色の髪の毛が印象的の執事(?)だった。顔はそこら辺の美少女にも負けないくらいの美貌だ。これで男だと言われても信じられない。サファイアのような瞳が美貌をより際立たせている。

「初めまして、霧野と申します」

不思議な執事は「霧野」と名乗った。



「霧野さん…だっけ?」
「はい」
「その、よく女みたいって言われない?」
「よく言われますね」

上品に顔を綻ばせる様子はどう見ても女性にしか見えない。身体も細身で男だと華奢な方だと思う。
そんな霧野さんには早速仕事をしてもらっている。車の運転だ。毎朝車で投稿しているが、俺の家では運転手をわざわざ雇うのではなく、運転も執事が行っている。
学校に着くとわざわざ霧野さんは出てきて桜色の髪を揺らして「行ってらっしゃいませ」と恭しく頭を下げる。執事ならこういうことをしなければならないのだが、されてる身としてはこの瞬間少し気恥ずかしい。「行ってきます」と普通なら玄関先で言うセリフを校門を通りながら言った。しばらく歩いてたら肩をポン、と叩かれた。後ろを振り向くとほっぺたに指が突き刺さる。その指を辿ると、太陽のような明るい笑顔を浮かべる少年に辿り着いた。

「狩屋おはよ!」
「…おはよう、天馬くん」
「おはよう!」
「…おはよう、信助くん」

下を見るとチームメイトの信助くんが居た。普通にしていると視界に入らないので気づきにくい。二人は「ひっかかったね〜」と楽しそうに話している。
ところで、と天馬くんが話を切り出した。

「執事さん変わってたけどどうしたの?」
「辞めたから新しい執事雇ったらしいよ」
「なんか綺麗な人だったねー」
「ねー」
「言っとくけど男だからな」
「えっ」
「えっ」

女だったら普通メイドだろ、とツッコミを入れながらグラウンドへ向かった。今日も今日とて朝練習だ。



そんな一日もすぐ終わってしまう。ハードな部活もすぐ終わってしまい、時刻はもう6時半をまわっていた。
正門へ行くといつから居たのかすでに霧野さんが待っていた。「お帰りなさいませ」しゃなりと腰を曲げる。暗闇の中でもライトブルーの瞳はきらきらと輝いて見えた。本当にこのひと男なのかなあ…と不躾にもそう思った。

帰ってひとりで夕食を過ごし、大量に出た宿題をするため自室に篭った。中学生になってからなんでこんなに勉強が難しくなるんだろう。ヒロトさんが「ちゃんと勉強はするんだよ」と口を酸っぱくし言うからやるけど。俺は頭をがしがしと掻きながら記号と数字を書き続ける。

「マサキお坊っちゃま、そこの問題はx=3でございます」
「うわっ!!!」

後ろを振り向くと机に広げたテキストをじっとみる霧野さんが居た。ここです、と指さされた問題を解き直すと確かに間違っていた。

「お坊っちゃん…非常に言い辛いのですが、思っていることを申してよろしいでしょうか」
「なに?」
「お坊ちゃんはこんな簡単な問題も解けないのですか?」

沈黙が流れる。
こいつ、何て言った?執事と名乗る者から出る言葉じゃなかったよな?とにかく、俺も思っていることを言ってみようと思う。

「クビ!クビクビ!お前なんかクビだーッ!」
「そうお怒りにならずに…」
「怒らずにいられるかっ!」

思わず立ち上がって叫ぶ。なんだこいつ、むかつくむかつくむかつく!執事か?こいつ本当に執事なのか!?ありえない。

「しかし…旦那様であるヒロト様にマサキ坊っちゃんの勉強を見るように言われてるのですよ」
「うぐ…」

ヒロトさんめ、余計なことを…ってそのことを除いても今の暴言は許されることじゃない!そう言おうと思ったら「さあ続きを始めましょう」と逃げてしまった。

「はいこの問題も違う!こんな簡単な問題でミスなどあり得ません!」
「………くっそー!」

どうやら麗しい外面とは裏腹に、ドSな一面を持ち合わせた執事だったらしい。

「そういうお坊ちゃんはツンデレとお見受けしました」
「勝手に人の心を読むな!」

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