*DE風丸のおはなし


壊してやりたかった、この手で。君を、円堂を。

『風丸、お前戦えるのか?』
『…半田こそ。俺は大丈夫だ』
『…この試合に出ることは、円堂と対峙するってことなんだぞ』
『わかってる。だからこそなんだ』
『どういう意味だ…?』
『…いつまでも、背中を追いかけるわけにはいかないんだよ』


気がつくと、見慣れた天井が視界を支配していた。起き上がろうとしたら、頭に痛みが走る。ここの所、体力の消耗が激しく身体は怠く、頭痛が酷い。でも、「これ」さえあれば、俺は走り続けられる。「エイリア石」さえあれば、あれば、円堂の隣に。


「もうすぐだな、試合」
「なに?染岡ビビってんの?」
「ビビってねーよ!茶化すのはやめろ!」

練習の休憩中、染岡とマックスが談笑しているのが見える。なんだろう、試合が近づくにつれて、俺の心がくすんでいくような気がする。まるで黒い染みが広がっていくように。

「…風丸?大丈夫?」

いつの間にかボーッとしていたようだ。笑顔だったマックスがこちらを心配そうに見つめている。染岡にしてはまるで父親のような表情をしている。大丈夫だ、そう頷いても二人は安心の色を見せることはない。どこにも、不安なんてないのに。
どうして俺はこんなにも胸が痛むのだろうか。


そして試合当日。最初は俺たちが有利だった。でも、やっぱり円堂はすごくて。きらきらしていて。円堂のその輝きに俺はエイリア石から助けられたけれど、やはり円堂の隣に立てそうにないかと思うと、悲しかった。
俺は無意識に、河川敷に足を運んでいた。川の水がオレンジ色に染まっていて、何となく円堂を連想させた。そう思っていると、来るもんだ。

「風丸、隣いいか?」

オレンジ色のバンダナが特徴的の幼馴染がやって来た。小さく頷くと円堂は俺の隣に腰掛けた。草が冷たくて気持ちいい。
しばらく沈黙が流れる。でも居心地の悪い沈黙ではなく、気持ちの良い自然な沈黙だった。その沈黙を先に破ったのは円堂だった。

「…俺、風丸が離脱したとき悲しかった。風丸がいなくなったことと、風丸を理解できてなかったこと」

円堂が、人前でここまで深刻になることは珍しかった。もちろんサッカーのときは別だけど、円堂は普段人の前であまり弱音を吐いたりしない。だからここまで言ってくれるのは、俺を信用してくれているか、余程悲しかったのだろう。俺は思わず下を向いた。
円堂がここまで言ってくれたのだから、俺も本当のこと、言おう。深呼吸をしてから口を開いた。

「…ずっと円堂が眩しかった。どんなに走っても、円堂に追いつけなくて。背中しか見えなくて。その焦りが勝てない焦り、不安と合わさっちゃったんだ」

これが俺が言いたかった全てだ。強くて、恐くて、追いつけないエイリア学園の奴ら。あいつらに勝てない焦りを俺は感じていた。これでも俺は、足の速さが自慢だった。その足の速さが、まるであいつらには歯が立たないことに、不安を感じた。本当に勝てるのかって。
でも円堂は俺が感じてる不安を一切感じていない風に見えた。きっと、多少なりとも不安を感じていたはずなのに。俺よりも重い、重い「キャプテンマーク」を背負っているというのに。
だから、壊してやりたかった。焦りを、不安を。強さを手に入れたかった。円堂の隣に居れる強さを。それが何時の間にか、円堂に牙をむいていた。

「俺はそんなすごい奴じゃない。いつだって弱くて、不安だらけで。それを言葉で埋めてるだけだ」
「…そんな、こと…」
「風丸。俺の傷、受け止めてくれないか。俺もお前の傷、受け止めるから」
「受け止め、合うってことか?」
「そう。名付けて…幼馴染同盟!」
「はは、ありきたり過ぎ」

俺が笑うと、円堂もいつものように明るく笑いだした。そして何時の間にか笑いは収まって、お互いの顔を見つめていた。
「…好きだよ、その長い髪も、風丸」「それって告白?」「うん」「俺も好きだから、恋人同盟になるな」「あはは、そうだな」
何時の間にか、俺たちはお互いの唇を合わせていた。

今まで俺は君のことをすごい人だと思ってた。でも本当は、俺と同じだったんだ。違う人だった。だから今までの君は俺がこの手で壊すことにする。新しい君を、見続けていく。
でも君も今までの俺をその手で壊してくれた。新しい俺なら、君の隣に居てもいいかな。

「いいに決まってるだろ」

円堂はオレンジ色の夕陽を浴びながら、にかりと笑った。

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