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03




期末テストを終え、1学期は終業式を残すだけになってクラス内はすでに夏休みモードである。苦手だった数学はいずの必死のコーチによってどうにか赤点を回避できた私は嬉しさで今なら何でもできそうな気がする。本当ありがとういず…!感謝してもしきれない!


「玲央ちゃん、テストどうだった?」


斜め前に座るいずをこっそり拝んでいると、当の本人が予告もなしに振り返って来た。


「……」

「……」

「…何してるの」

「拝んでた」

「なんで!?」


今日も突っ込みが冴えてんな!キレッキレじゃねーか!
あははー、目を逸らすといずはじっとりと半目で見てきた。なんだその目は。玲央ちゃん悲しいじゃないか。


「む…そういういずはどうなの?」

「え、僕?僕は…」


そう言って見せてくれた成績表に「うわ…」とドン引いた声が出てしまった。


「な、なんだよその声…!」

「いや…学年2位とかバケモンかよとか思ってないよ…」

「思ったんだ!?」


もうすでに半泣きなんだけど、いずってば涙腺ほんと緩い…
未だにうだうだ言ってるいずを横目に、夏休みどうしようかと思いを馳せる。やっぱりいくつになっても夏休みって楽しみだよね。今年はどこに行くんだろ。去年は家族で沖縄行ったもんね。今年も行きたいなぁ。


「あ、ねぇいず!帰りにアイス食べよ!駄菓子屋でアイスの当たり棒当てたんだ!」

「わ、すごいね!」

「2本当てたから1本いずにあげるね」

「本当にすごいね!?」


ふふん、そうであろうそうであろう!もっと褒めるがよい!
当たり棒を見せびらかしながらふんぞり返る私の気分は天狗である。さぁ駄菓子屋にいざ行かん!拳高らかにいずの袖を引っ張った瞬間、いきなり近くの机が爆発した。えぇ…


「おいデク、ちょっとツラかせや」


いずと2人で爆発した机をガン見してると、ヤンキーも涙目になりそうな形相で手のひらをバチバチ言わせている爆豪くんが立ちふさがった。さっきの爆発あんたかッ!危ないじゃんかよ!


「あ゛ぁ?」

「ヒェッ…」


鬼か。爆豪くんの前世鬼か修羅だろ怖すぎるんだよ顔がッ!!
まぁ、そんな風に突っ込む余裕なんて今の私たちにはないんだけれど。いずにツラかせって、そんなのついてったらいずがまたサンドバックまがいになるのは目に見えてるじゃないか!
爆豪くんたちは怖いけど、私だって大人しくいずを行かせるほど腐ってない!


「だ、ダメだよ爆豪くん…!私たち今から駄菓子屋行くんだ。君に構ってる暇はない…!」

「てめぇに言ってねぇんだよ、ゴーグル女!うせろ!」

「ぴッ…!」

「あっれぇ?これアイスの当たり棒じゃん!」

「あ、ちょっと!」

「しかも2本!」

「返してよ!」


くっそぉ…!さっきまで見せびらかして手に持ってたのがいけなかった…!爆豪くんといつもつるんでる2人組に手に持っていた当たり棒を取られてしまった。彼らは当たり棒を私が取れないように高く掲げる。心小さすぎかよ!


「か、返してあげてよ…!それは玲央ちゃんのだよ、人のものを取るなんて…」

「いず…」

「返してほしきゃ奪い返してみろよクソナード」

「う、…」

「どうした緑谷ぁ?わざわざ目の前に持ってきてやってんだ、取りに来いよ」


なんでこの人たちはいつもいつも…!げらげら笑う声が耳障りだ。本当は使いたくなかったけど、正当防衛ってことで!


「玲央ちゃん…?」


ゴーグルを目元まで上げて、目を開く。


「視野混交(シャッフル)!」


青が目の前で弾ける。彼らは目に義眼と同じ幾何学模様を浮かばせ、尻餅をついたり床に這いつくばったりと各々が呻きながら目を抑えていた。


「目がッ…!なんだこれはぁ…!?」

「おぇ…!」

「ぐッ…!く、クソゴーグル女ぁ…!今何しやがった…!!」

「これッ、返してもらうから!」

「待ちやがれッ、クソがぁあ!!」

「いず!」

「う、うん…!」


皆してもんどりうっている今がチャンス!手早く当たり棒を回収して教室を飛び出した私たちは、そのまま商店街までノンストップで走り続けた。
商店街に辿り着くころには、体力のなさが災いして私たち2人は死にそうになりながら荒く呼吸を繰り返していた。


「ぜッ…ぜぇ…ぜぇ…」

「はぁ…はぁ…あー…!つっかれたぁ…!」

「玲央ちゃんってばッ…!君も大概、後先考えないよね…!」

「だ、だって!せっかく翼がくれた当たり棒なんだもん!取られたら取り返す!常識だよ!」

「…当てたんじゃなかったっけ」

「あ……」


ば、バレたぁああ…!くっそぉ、それもこれも爆豪くんたちが取らなきゃバレなかったのにー!
がっくり。項垂れるといずがぽんぽんって背中を叩いてきた。やめろやい、惨めになる…
しくしくと悲しみに暮れながら(いずはわたわたしながら慰めてくれた。かわいい)駄菓子屋で当たり棒をアイスと交換してもらった私たちは、それをしゃくしゃくと齧りながら帰路を辿る。ソーダ味が涙でしょっぱいよぅ…


「…あれ、いず?」


不意にいずが一点を凝視したまま立ち止まった。踵を返しいずの隣に並んでそれを見てみると、掲示板にでかでかと貼られている“花火大会”のポスター。


「へぇ、花火大会やるんだ。そういえばしばらく見に行ってないなぁ」


去年は沖縄行ってて、一昨年は風邪拗らせたんだっけ。2年も見逃してるんだ、私。今年こそは見に行きたい。いつもは弟の翼と一緒だけど、今年はせっかく仲良くなれたいずと行きたいなぁ。
綿菓子にかき氷にいちご飴。うわーアイス食べてんのにめっちゃおなかすいてきた。食いしん坊かよ、私!


「ああああああの、あのッ、玲央ちゃんッ…!」


涎が垂れそうになりながら屋台に並ぶ食べ物に思いを馳せていると、なんかいずがすっごいどもりながら私を振り返った。お、おぅ、なんだい少年よ。


「えっと、もしよかったらって言うか無理しなくてもいいって言うか玲央ちゃんさえよかったらなんだけど、あッ、用事とかあったら全然断ってくれてもいいんだ、ただ僕がその…」

「いず」

「ッ…」


いずの顔は今にも爆発しそうなくらいに真っ赤っかで、きょろきょろと忙しなく動く目はようやく腹を括れたのか、真っすぐと私に向けられる。
とくり。なんだか心臓が小さく跳ねた気がした。


「ッ…玲央ちゃん、ぼぼぼ僕と一緒にッ…!花火!行きましぇんか…!」

「……」

「……」

「ふッ…行きましぇんかってッ…噛んでるし…あはは!」

「わ、笑うなよ…!」

「だってッ、面白くて…!」


肝心なところで噛むとか、いずってばやっぱりいずだなぁ。
いつまでも腹を抱えて笑ってるといずが泣きそうになってたから、どうにか無理矢理笑いを鎮める。…けど、やっぱ思い出しちゃう。ふふ。


「はぁー、面白かった」

「ひどい…」

「ごめんって!…あ、そうだいず。さっきの返答なんだけどね」

「!」


ぶらぶら、所在なさげに揺れるいずの右手を捕まえて両手で握りしめると、これまた面白いくらいに顔を真っ赤にさせた。かわいい。ヒロインかよ。


「ぜひ、一緒に行きましょう緑谷出久さん。私も君と一緒に行けたら楽しいだろうなって思ってた」

「…!こ、こちらこそ、不束者ですが…!」

「それ、いずじゃなくて私が言うセリフなんだけど」

「はッ…」


いずは相当テンパっているらしい。こんな私と一緒に行く花火大会に、ここまで嬉しそうにしてくれるなんてこっちが照れてしまいそう。かく言う私もだいぶ嬉しいけど!
花火大会までまだまだ先だけど、今から夏休みがとっても楽しみになってきた。

早く夏休み来ないかなー。







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