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02




「もしかして、オールマイトグッズまた増えた?」

「…やっぱわかる?」

「それなりにね」


1学期の期末を控えている現在、私はいずの家にお邪魔して勉強会を開いていた。というのも、ヒーローオタクであることを抜きにしてもいずは頭がいいのだ。学年トップとまではいかなくても、上位に切り込むくらいには。羨ましい。その頭脳を私にも分けておくれよ…


「証明なんて消えてしまえ…」

「もー、すぐそういうこと言う…」

「うー…いず助けて…」

「はいはい。僕も手伝ってあげるから、この範囲終わったらいったん休憩しようか」

「いずやざじぃ…!」


神レベルにわかりやすいいずの説明のおかげで、どうにかこうにか範囲の復習を終えた私はもう血涙のごとく喜んでいる。神様仏様緑谷様…!これで本番のテストで私は頑張れそうです…!

ひとまず勉強道具を脇に寄せて、ここに来る前に買ってきたドーナツをいずが入れてくれたオレンジジュースと一緒に頬張る。うんまぁー!


「はぁー、やっぱりドーナツが世界で一番おいしい…」

「物見事にポンデリングしか入ってない…」

「ポンデリングに勝てるものはないと思ってる」


あの砂糖がかかったほんのりさくっと感に噛むともっちりやわい生地がたまんない。チョコレートのかかったオールドファッションも好きだけど、やっぱりポンデリング一択にかぎる!
もっちゃもっちゃと3つ目のポンデリングを頬張ると、ふといずの目が私に向いていることに気付いた。こてん、首を傾げるとこっちに向かって伸ばされる手は、私の頬を掠める。


「………」

「………はッ…!?ごごごごめん!ほっぺにドーナツついてたからつい…!いやついってなんだ僕は女子の顔に触るとか変態かッ!いや変態になりたいとかそんなんじゃなくてぼくはただドーナツがついてたからとろうとしただけで別に他意はないって言うかごにょごにょごにょ」


始まってしまった、いずのブツブツ独り言タイム。こうなってしまうと自分で自己解決するか外的に意識を逸らすかしないと戻ってこない。悪い癖だ。


「いず、いず」

「いやでももし変態だなんて言われた暁には僕はもう死ぬかもしれ…」

「緑谷出久!」

「は、はいぃい!!」

「おかえり。死なないでね、私悲しい」

「……ただいま」


ようやっと帰って来た。全く、何かあるとすぐにこうなんだから。いずとはまだまだ付き合いが短いけれど、こうして一緒にいることが多くなった今ではなんとなくいずのことがわかってきた気がする。

緑谷出久。性格はほんのちょっぴりビビりで控えめ。けれど正義感は強く、困っている人がいれば後先考えずに真っ先に飛び出してしまう性質。自分のことじゃなく、人のことで怒ってくれる誰よりも本質がヒーローの私の自慢の友達。

ふふ、と笑うといずはなんだか恥ずかしそうに目を逸らした。ヒロインかよ。


「ねぇ、いずは高校どこ行くの?」

「えッ…な、なんで急に…」

「いや、なんとなく。というより、他の子たちが高校受験に向けて色々対策してるみたいだから、私もそろそろ進学先決めて頑張らないといけないかなーって思って」


それに、高校もまだどこに行きたいかも決めてないしね。将来何になりたいかもわかんないし…
とりあえず一番仲がいいいずに聞いてみよって思って。


「…笑わない?」

「笑われるようなところに行こうとしてんの?」

「いや行かないけど!?」

「…まぁ、言いたくなかったらいいんだけど」

「う…い、言いたくないわけじゃなくて、ただちょっと烏滸がましいというか、僕みたいなのがいいのかなとか色々諸々…」

「わかった、雄英でしょ?」

「ヒェッ…!」

「わっかりやすいなぁ。そっか、いずは雄英志望かぁ…ならヒーロー科かな?オールマイトの母校だもんね。でも超難関なんでしょ?実技試験もあるって聞いたことあるし…そんなひょろっちぃ体じゃ合格できないよ?」

「…笑わないの?」

「なんで?」

「だって僕、無個性だよ…?なのにヒーロー科、しかも雄英だなんて…」

「関係ないよ、そんなの。無個性が雄英受けちゃダメだって言うルールなんてないし、力を持っていないから弱いなんてことはない。力を持っていたって弱い奴は弱いんだよ。私だって、個性は皆みたいに上手に使えないし、大それた義眼を持ってても怖いときは足が竦むし、逃げ出したくなる。けどさ、いずって怖くたってそれを飲み込んで立ち向かえる勇気があるじゃん。それって誰にでもできることじゃないし、とってもかっこいいことだと思う!」


転校したてのときも、いずはゴーグルをバカにされて言い返せなかった私の前に立って代わりに言い返してくれた。爆豪くんにいびられてる姿を知ってたから、びっくりしたんだよ。どもりながらも真っすぐ前を見据える背中に憧れたから、私はあの時怖くても爆豪くんに啖呵切れたんだと思う。


「光に向かって一歩でも進もうとしている限り、人間の魂が真に敗北することなど断じてないんだよ!」

「…!」

「受け売りだけどね。…よし、決めた!」


ゴーグルを首元に下げ、いずに向き直る。いずはまんまるい目にいっぱい涙を溜めて私を見ていた。


「私も雄英に行く。雄英に行って、プロヒーローになったらいずのサイドキックになりたい!だから一緒に頑張ろう!」

「…うんッ…!」

「その前に、泣き虫治さなくちゃね」

「うぐッ…」


遠い記憶のどこかで言われた言葉のおかげで、私は臆病でも頑張ってこれた。いずにも諦めてほしくなくて、目を閉ざしてほしくなくて言い放った思いの丈が少しでもいずの糧になってくれればと願う。







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