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01




「おーい緑谷ぁ、まだヒーローなんかに夢見てんのかー?」

「やめとけって。無個性なんだから割に合った夢みろって」


げらげらとクラスメイトの笑い声が響く中、僕はリュックの持ち手を握りしめ視線を爪先に落とした。こういうのは、今に始まったことじゃないから慣れてる。…いや、嘘。ちょっぴりへこんでる。
世界の総人口の約8割が個性という特異体質を持って生まれてくるこのご時世で、僕は無個性という特異体質を持っていない約2割に振り分けられてしまったらしい。小さい頃から憧れているヒーローは、個性がなければなるのはかぎりなく難しいとされているのだけれど、例え無個性だったとしてもヒーローになりたいという夢は早々に諦めれるものではない。

…だからと言って、言われ放題というのはやっぱり悔しい。


「何してんのさ、あんたら!!」


せめて一言でも…!そう思って口を開こうとすれば、それよりも早くに飛んできた僕より高い声に口を噤む。そうして僕とクラスメイトの間に割って入って来たこげ茶のもふもふは、オレンジのゴーグルを光らせて目の前のクラスメイトを睨みつけた。


「お前らこそ割に合った夢みろよ!そんな人を見下すことしかできないクソ心の狭い人間がヒーローになれると思ってんのか!バーカバーカバーカ!!」

「ちょッ、玲央ちゃん何煽ってんの!?」

「はぁ!?時見お前女のくせにしゃしゃり出てんじゃねーよ!無個性庇ってヒーロー気取りかよ!滑稽だな!」


―ぶちッ


…あれ、今なんかすっごい不吉な音が聞こえた気が…
恐る恐る玲央ちゃんの顔を覗き込んでみれば、彼女の両手はクラスメイトたちに向いていて…って、


「わー!わー!玲央ちゃんそれはダメ…」

「吹っ飛べ!!」


どんッ!!
玲央ちゃんから一瞬青白い電流がほとばしったと思ったら、次の瞬間には目の前のクラスメイトたちは後方に勢いよく飛んで言って、地面に転がってもんどり打っていた。


「何ぼさっとしてんの!行くよ!」

「う、え…!?」

「お、おい待て時見、緑谷ぁ…!」


喚いている彼らを無視して、僕の手を引きながら進んでいく玲央ちゃんの背中を追いかける。そうして僕らが辿り着いたのは、今の時間帯なら人通りが少ない体育館の倉庫裏だった。


「ッ、はぁああー…!怖かったぁ…!」

「その割にめっちゃ啖呵切ってたよね…」

「し、しょうがないよ!いずがあんなこと言われてちゃ…ってゆーか、何で言い返さないの!?」

「あー…あはは…」

「笑わない!」


ぴしゃり、言い放つ彼女に思わず口を閉ざす。オレンジのゴーグルを反射させて、玲央ちゃんはぽこぽこと怒りながらほっぺを膨らませてた。こういう子供っぽいところがかわいらしいって思う。


彼女…時見玲央ちゃんは中2の時に折寺中に転校してきた女の子だ。当時から変わらず着けているオレンジ色のゴーグルは良くも悪くも目立っていたけれど、話してみれば案外普通の子でクラスに馴染むのにそう時間はかからなかった。同じクラスだったとしても、今ほど親しくなかった僕らがなぜ名前で呼び合うようになったのかというと、それは彼女が折寺中に転校してきて3日目の時だった。
今日みたいに無個性である僕を、幼馴染みであるかっちゃんを筆頭に色々言われていたところに乱入してきたのが玲央ちゃんだった。


「…あ?」

「は、恥ずかしくないの…?将来ヒーローを目指す人間が弱いものいびりなんてして、恥ずかしくないの!?」


かっちゃんに睨まれて、怖いはずなのに震えながらも僕の前に立ち、両腕を広げる玲央ちゃんは誰よりもかっこいいと思った。
その日から僕と玲央ちゃんは少しずつ話をするようになり、登下校もお昼も何をするのにも一緒にいることが多くなった。お互いを“いず”、“玲央ちゃん”と呼び合うようになるころには、彼女は一番の秘密を僕に教えてくれた。

常備着けているゴーグルの奥、瞼の裏に存在する複雑な幾何学模様が浮かぶ青い目を彼女は“神々の義眼”と呼んだ。初めはとても珍しい個性だと思ったけれど、どうやらそれは個性ではないらしい。彼女には神々の義眼とはまた別の個性を持っていて、曰く、神々の義眼は“預かった”ものらしい。義眼を預けるって一体どういうことだ、なんて頭を悩ませた時もあったけれど、そのへんはなんだか触れてほしくなさそうだったから、僕は「そうなんだ」と相槌を打っただけで終わったのを覚えている。

玲央ちゃんの秘密を知っているのは僕だけという事実に、友達として心を許してくれているんだと嬉しく思った。


「いず!聞いてる?」

「わッ…き、聞いてるよ玲央ちゃん。いつもごめんね」

「あ、謝らないでよ…」


途端にわたわたと慌てだす玲央ちゃんの手を取ると、きょとり、と僕を見上げる。


「帰ろっか」

「うん」


ゴーグルの奥でふんわりと細めたであろう目を見ながら、僕らは夕日の中を2人で歩いた。







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