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28




回転の鈍い頭でどうにか状況整理をした。相澤先生をボコボコにしてくれた脳ミソ丸出しの脳無って怪物はついさっきオールマイトがぶっ飛ばしたところである。


「うぐッ…」

「玲央ちゃん、意識が戻ったんだね…!よかった…あぁ、ダメだよ動いちゃ!」

「い、ず…」

「うん、そう…僕だよ」


どうやら私はいずに抱きかかえられているらしい。申し訳ない、自分もいっぱいいっぱいなはずなのに私の面倒まで見てもらって…

不甲斐ない、なぁ…。翼の眼を取り返したかったたけなのに、爆豪くんと切島くんに啖呵切ったわりにあっさりと返り討ち。おまけに副産物みたいに知らない記憶が次々と浮かんでは消える。

おまけにいずも、隠しているだろうけど左指が折れているはずなのにこうして私を抱えてくれている。
そっと見上げたいずは、ひび割れた義眼のせいで亀裂が入っているように見えた。


「主犯格はオールマイトが何とかしてくれる!俺達はほかの連中を助けに…」


ふと切島くんの声に混じってブツブツと呟く声が聞こえた。紛れもなくいずである。


「切島くん玲央ちゃんをお願いッ!!」

「わッ…!」

「うおッ、て…おい!緑谷!?」


私を切島くんに押し付けたいずは、瞬きした瞬間に目の前から消えた。…否、オールマイトと弔の間に割って入った。


「オールマイトから、離ろぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


しかし、広がった靄の中からワープされた弔の腕がいずに伸びる。


「いず…!!」


空中にいるいずは、あの手を避けることができない…!震える腕を伸ばし、磁石の要領でいずを引き寄せようとした瞬間…


ーどずッ!!


「「「!!!」」」


弔の手に銃弾が突き刺さった。
ひび割れて若干機能は衰えたけれど、どうにか発砲源を辿ることができた私はそっちに目を向けた。


「1-Aクラス委員長飯田天哉!!ただ今戻りました!!!」

「飯田くん…!」

「あいつ!間に合ったんだな!」


スナイプ先生が放つ銃弾の雨がUSJ内にいる敵たちを制圧していく。弔も両腕両脚を撃たれたようで地に伏せ動けない様子。


「全く、世話の焼ける子ね!」


グラースが弔の前に立ち、焔丸で銃弾を払っていく。


「グラース…!!」

「おっと…!う、動くな時見!お前は今動けるような体じゃ…!!」

「離して切島くん…!グラース!まだあんたには聞きたいことが山ほどあるんだよ!!翼の眼も!!焔丸も!!」

「ったく、焦らなくても、近いうちにまた会えるわよ」

「義眼はいらないのですか?」

「ひび割れた不良品なんていらないわよ!…でも、綺麗に元通りになったその時に、改めて奪いに行ってあげるわよ。それまではせいぜい大切に扱う事ね。レオナルド・ウォッチの欠片ちゃん」


そうして弔とグラースは黒い靄に包まれて消えてしまった。





「今回は事情が事情なだけに小言も言えないね」


真っ暗な視界の中でリカバリーガールの声だけが聞こえる。
ここは保健室だ。あの後、やってきた警察の事情聴取を受ける前に私といず、オールマイトはほかの先生方の手によって保健室に運ばれたのだった。


「時見さん、あんたも随分無茶をしたようだね。義眼が粉々にひび割れているよ」

「そう、ですか…」


包帯で覆われている目元にそっと手が触れる。多分これは、リカバリーガールの手だ。
私の神々の義眼の事は、オールマイトやいずだけじゃなく入学する際に校長先生や相澤先生、そしてリカバリーガールだけに伝えてある。…けれど、今回はゴーグルなしでモロに義眼を多様してしまったから、クラスメイト全員にはバレたことだろう。


「ほかの箇所は完治できたんだけど、義眼だけは元に戻らなかったよ」

「玲央ちゃん、それ大丈夫なの…?」

「大丈夫、しばらく使わなきゃ元に戻るから」

「それならいいんだけど…」

「…ただ、その間目が見えないから不便なんだけどね」


義眼を使わない。つまり、いったん機能停止させて自己修復に集中させるから、それをしている間は目が見えないのだ。


「失礼します」


ふとドアの方から聞き覚えのある声が聞こえた。この声は…


「オールマイト、久しぶり!」

「塚内くん!君もこっちに来ていたのか!」

「オールマイト…!え、いいんですか!?姿が…」

「あぁ、大丈夫さ!なぜなら、彼は最も仲良しな警察、塚内直正くんだからさ!」

「はは、なんだよその紹介」


やっぱり、塚内さんだった。
彼は去年、グラースに翼の眼を奪われた時に担当してくれた警察の人だ。今回の襲撃の件は、どうやら彼も関わっているらしい。

ふいにぽん、と頭に大きな手が乗せられた。


「やぁ、玲央ちゃん」

「塚内さん…お久しぶりです」

「まさかの玲央ちゃんとも知り合い…!?」

「塚内さんは去年、翼の件でオールマイトに紹介してもらった刑事さんなんだよ」

「…それより、あれほど関わるなって言ったのに君、グラースと戦ったんだって?」

「う…だって…」

「だってしゃない!はぁ…今回はあまり問い詰めないけど、事情はしっかりと聞かせてもらうからな」

「あい…」


こうして塚内さんから、クラスメイトのことや相澤先生、13号先生のことについて教えてもらった。生徒はどうやらわたしといず以外は軽傷らしく、相澤先生や13号先生も命に別状はないらしい。

ほっと胸をなでおろした。


「敵もバカなことをした、1-Aは強いヒーローになるぞ!」


きっと笑っているであろうオールマイトが想像できる。私は誰にも気付かれないようこっそりと口元を緩めたのだった。





「ごめんね、いず。おぶってもらって…」

「見えてないんだから気にしないで!それに、両親が2人とも仕事なら仕方ないよ」


ゆらゆら、いずが歩く度に宙に浮いた脚が揺れる。私は今、いずにおぶってもらって家まで送ってもらっている途中である。眼が見えないのと、体の筋肉に電流を流して無理矢理動かしていたのがたたって上手く動かせないのだ。本当は塚内さんが送ってくれるって言ってくれたんだけど、次から次へとひっきりなしにやってくる部下の人たちの気配を感じて断ったのだ。
代わりにプレゼントマイクが、私といずの最寄り駅まで車で送ってくれて今に至る、というわけなのだ。
彼も今回の件で忙しいはずなのに、とても申し訳ない。

口を閉じると、思い出すのは昼間のこと。


『それまではせいぜい大切に扱う事ね。レオナルド・ウォッチの欠片ちゃん』


また、レオナルド・ウォッチ。しかも今度は欠片ときた。いや、それ以前にグラースの多種多様の個性。恐らく魔術と、血法、そして、目を取り替える力。
もはやグラースのあれは個性の一言だけでは片付けられない。

レオナルド・ウォッチなる人物と私の関連性。
多種多様の力。
知らないはずなのに知っている物事。
執拗に狙う神々の義眼。
グラースの真の目的。

…これは、いよいよ本当に“異世界”というものを前提に推測していくしかなさそうかもしれない。


「玲央ちゃん!!」

「ぅえ…!?」

「もぉ…聞いてた?」

「ご、ごめん…考え事してた…」

「…だと思った」


くすくすと笑ういずになんだか悔しくなって、大体このへんだろうと見当付けて揺れるもさもさをぎゅッと引っ張った。


「いて、いででで…!痛い痛い玲央ちゃん痛い…!」

「いずが笑うから」

「報復が大きくない!?」

「そんなことないよ」


ゆらゆら、ゆらゆら。


「……いず」

「ん?」

「背中…」


いずの髪から手を離して、こつん、額を彼の肩に乗せた。一瞬いずの肩がびくついたけど気にしない。


「いずの背中…おっきくなったね」

「……そう、かな」

「うん、なんだか…」


置いていかれそうな気がした、なんて。

私にはまだまだわからないことが多すぎた。仮説はたてられるけれどそれはあくまで“仮説”にすぎなくて、決して“答え”ではないのだ。

先生も、友達も、お母さんも、お父さんも、翼も、答え合わせをしてくれるわけじゃない。

…グラースなら、きっと知っているはず。レオナルド・ウォッチって人のことも、混濁している私の記憶のことも。
なぜかそう確信している。変な話だ。翼の眼を取り返さないといけない敵であるはずなのに、結局はその敵に教えを請わなければいけない。

けれど、それは最終手段だ。できるだけ自分で情報を掻き集めるんだ。確かなピースを揃えて、叩きつけてやる。


「今度は、絶対に…」

「、…………」


俯いている私は、いずが唇を噛み締めていることになんて気付かなかった。






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