24
「今日のヒーロー基礎学だが、俺とオールマイト、そしてもう1人の3人体制で見ることになった」
「はーい!何するんですか?」
相澤先生はどこから取り出したのか、手のひらサイズの“RESCUE”と書かれたプレートを掲げる。
「災害水難なんでもござれ。人命救助訓練だ」
「レスキュー…今回も大変そうだな」
「ねー」
「バカおめー、これこそヒーローの本分だぜ!?鳴るぜ!腕が!」
「水難なら私の独壇場。ケロケロ」
「人命救助かぁ…緊張するなぁ」
私を含め、相澤先生の言葉にクラス全体が沸き立つ。そりゃそうだ。ヒーローは敵と戦い、捕まえるのももちろんだけれど、ヒーローが真に輝けるのは人命救助なのだ。
ただ助けるだけじゃない。ヒーローが来て、もう大丈夫だって安心させてあげられるような…そう、オールマイトのようなヒーローに…!
「おい、まだ途中」
ぎろッ!と睨んできた相澤先生にさっきまでざわめきだっていた教室内が一瞬で静かになった。こあい…
「今回コスチュームの着用は各自の判断で構わない。中には活動を限定するコスチュームもあるだろうからな。訓練場は少し離れた場所にあるからバスに乗って行く。以上。準備開始」
「無駄のない超簡潔的説明…」
合理性に命かけすぎじゃね?
てゆーか、演習場だけじゃなく救助訓練もできる訓練場もあるのか、雄英は。やっぱ国立のお金持ち学校はやることのレベルが違うぜ。
雄英の豪遊加減に改めて遠い目をしながら、私はコスチュームの入ったスーツケースに手を伸ばすのだった。
コスチュームに着替えて校舎前に集まると、でっかい大型バスがででーん!と佇んでいた。
「うわ、でか…」
「なーんか、今から訓練って言うより校外学習に行く気分だなぁ」
「それな」
ぽつり、呟いた言葉を響香ちゃんが賛同してくれた。
「あれ、いず体操服なの?」
「あはは…一番最初の戦闘訓練の時にボロボロになっちゃったから…」
「あー…」
ちらっと爆豪くんを見ると、彼は素知らぬ顔で別のところを見ていた。うん、わかってた。あんたって人はそういう人だよ。
飯田くんがここぞとばかりに張り切って皆を誘導しているのを横目に見ながら、私たちはバスに乗り込んだ。
そうして、バス内の構造的に飯田くんが想像していたものとは違ったみたいで、めっちゃ落ち込んでる。「意味なかったなー」三奈ちゃんの容赦ない追い打ちに飯田くんがさらに落ち込んだ。
「まぁまぁ、そういうこともあるよ。飯田くんのそういうところ、私はかっこいいと思う」
「時見くん…!!」
眼鏡を光らせた飯田くんが私を見た。…ちょっと、怖いぞ君…
「救助訓練緊張するねぇ。どんなことするんだろう」
隣に座る轟くんに話しかけると、彼は窓の外を見たまま「さぁな」と答えた。
「この授業の担当3人って誰だろうね。相澤先生とオールマイトと…あと1人誰だろう」
「着けばわかんだろ」
「………」
「なんだ」
「轟くんって、相澤先生みたいだよね」
「は?」
「ほら、受け答えの簡略化とか。もしかして轟くんは相澤先生に感化されて合理性お化けになって…!?」
「ねぇから。何言ってんだお前」
「デスヨネェ」
いやちょっとどうかなとは思ったよ。思ったけど、っぽいんだよ!
じっとり、轟くんをねめつけた。轟くんにダメージはない。私は心が折れた。
「派手で強ぇっつったら、やっぱ轟と爆豪だな!」
前から聞こえてきた切島くんの声にそっちの方を向く。どうやら個性の話をしていたみたいで、話の中心に挙げられた爆豪くんは「けッ」と吐き捨てるとそっぽを向いた。
「爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気でなさそ」
「んだとコラ出すわッ!!」
「ほら」
「この付き合いの浅さで既にクソを下水で煮込んだような性格と認識されてるってすげーよ」
「てめぇのボキャブラリーは何だコラ!殺すぞ!!」
「(かっちゃんがいじられてる…!!信じられないような光景だ…!!)」
「爆豪くん、そんなクソクソ連呼してるから下水とか言われるんだよ。度し難い人間のなんとやら、だよ!」
「てめぇはなんだ後ろから!!途中で切んな最後まで言ってみろコラぁ!!」
「(玲央ちゃああああああんんん!!!?!?)」
こうしてこの騒ぎは、相澤先生の謎の圧力がかかった一声で収束したのだった。
バスが止まり、ぞろぞろと降りた先にはどこぞのテーマパークみたいな入り口とそこから見える数多くのアトラクションのような建物などに今度こそ口をあんぐり、と開けた。
「やべぇ…雄英マジやべぇ…!!」
「すっげー!!!USJかよ!!」
誰かがそう叫んだそれに思わず頷く私であった。
「水難事故、土砂災害、火事etc…あらゆる事故や災害を想定し、僕が作った演習場です。その名も…ウソの災害や事故ルーム!!」
本当にUSJだったっていう。略称であれ大丈夫なのかこんな名前付けて!
てか、作ったの!?マジか!!
3人体制である最後の1人とはなんとスペースヒーロー13号だったようで。隣でいずとお茶子ちゃんのテンションがうなぎ登りになってる。
「えー、始める前にお小言を1つ2つ…3つ4つ…」
増える…どんどん増えてく…
「皆さん、ご存知だとは思いますが、僕の個性はブラックホール。どんなものでも吸い込んで塵にしてしまいます」
13号先生の身が引き締まる言葉に自然と私の背筋も伸びた。
個性は誰かを助けたり、守ったりできる反面、人を簡単に殺すことができる力でもある。
私の個性なんかも、使い方によっては感電死させたり、心臓麻痺を起こすのだって簡単にできる。
誰かを傷つけるためじゃなくて、誰かを助けるためにある、か…。かぁっこいい!!!
誤った使い方をしないよう、今回の授業はしっかりと学ばないと!!
「一かたまりになって動くな!!」
ふんすふんす、と13号先生に感化されて意気込んでいると、突然相澤先生が鋭く叫んだ。
「え?」
「な、何…どうしたの?」
相澤先生が睨みつける方向を同じように見てみると、長い階段の下に広がる広場の所に大きな靄が渦巻いているのが見えた。
「何だありゃ!?また入試んときみたいなもう始まってるパターン!?」
切島くんが言う。…いや、あれは多分…
「動くな!!あれは敵だ!!」
ぞくぞくと靄の中から現れる大勢の敵たち。
「13号に…イレイザーヘッドですか…。先日頂いた教師側のカリキュラムではオールマイトがここにいるはずなんですが…」
「やはり、先日のはクソ共の仕業だったか」
「先日って…」
「マスコミが校内に侵入してきた時んだろ。そもそも、ただのマスコミが雄英生徒しか通れねぇあのゲートを攻略できるはずがねぇんだよ。もしできるとしたら、学校側の人間が招き入れたか、あるいは…」
爆豪くんはそこで言葉を切って、敵たちを睨みつける。…つまり、あの敵側の誰かがゲートをこじ開け、マスコミたちによる混乱に乗じて教師のカリキュラムを盗んだ…ってこと?
「どこだよ…せっかくこんなに大衆引き連れて来たのにさ…。オールマイト…平和の象徴…いないなんて…子供を殺せば来るのかなぁ?」
全身に手を模した装飾を着けた敵が言う。その威圧感に、その悪意に、私たちは言葉を失った。
[ 26/72 ]
[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]