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21




百ちゃんから頂いた講評はそれはそれは厳しいものであった。
タイムラグあっての私の潜入は、轟くんと対峙するところまではよかったものの、轟くんとの戦闘に気を取られすぎてもう1人の存在を忘れていたこと。一点に集中しすぎて周りをよく見れていなかったこと。核兵器がある場所での大掛かりな攻撃は愚策中の愚策。核兵器をハリボテではなく本物と認識していたのならそんな攻撃はできないはず。


「はぁぁ…」


ぐでぇーん。机に寄りかかりため息を吐き出すと、近くにいた三奈ちゃんと梅雨ちゃんが寄って来た。


「どうしたどうした?重たいため息なんて吐いてさ。幸せ逃げちゃうよ?」

「うーん…百ちゃんの講評が的確過ぎて辛い…」

「落ち込んでいても仕方がないわ。これを反省して、次に活かさないと」

「そうだねぇ…」

「あ、そういえばさ!講評と言えば玲央、ずっと轟にお姫様抱っこされてたよね!」

「ぶふぉッ」

「あぁ、私も気になっていたの。指摘するべきか否か迷ってたんだけど…」

「いや指摘して!?あの人椅子がないから体が動くまで抱えててやるっつって下ろしてくれなかったのに!!」


そう、そうなのだ…!モニタールームに着くまでの間だけのお姫様抱っこかと思いきや、まさかの講評が終わるまで継続されていたというね!!彼曰く「椅子がないだろ。ある程度動くようになるまで抱えててやるから遠慮するな」らしい。いや、いやいや、いやいやいや!!!おかげであの時の空気がおかしかったからね!?オールマイトもどうしていいかわかんなくて困惑してたからね!?おかげで体が動くようになったんだけど…


はッ…!もしかしてあいつ…天然か…!?


「おーい、今から反省会するんだけど、そこの3人も参加しねぇかー?」

「やるやるー!梅雨ちゃんと玲央もするでしょ?」

「そうね。参加させてもらおうかしら」

「あ…ごめん、私パスで」

「えー!?なんでなんでー?」

「ちょっとね…いずの様子を見に行きたくて」

「いずって…緑谷か?」

「うん。あんだけ大怪我してるから心配で…」

「わかった。ここは気にしないで行ってきてやれよ」

「ありがとう切島くん」


私の鞄といずの荷物を手に教室を後にする。向かう先は保健室だ。まだ完全に校舎の中を覚えたわけじゃないから、ちょいちょい校内掲示板を見ながら歩いていると少し時間がかかってしまった。


「や、やっと着いた…」


あまりにも校内が広すぎて迷子になって餓死するかと思ったんだけど…。てか、雄英お金かけすぎね。戦慄くわ。


「失礼しまぁす…」

「おや、どうかしたかい?」


きぃ、と事務椅子を回して振り返ったのは保健室の教諭であるリカバリーガール。「そんなところにいないでお入り」ちょいちょい、と手招きをする彼女に従って保健室に足を踏み入れた。


「あの、いず…緑谷くんはいますか?私、彼と同じクラスで…荷物とかもろもろ持ってきたんですけど…」

「悪いねぇ、あの子ならついさっき教室に戻って行ったよ」

「え゛ッ」

「完全に入れ違いだねぇ」


きっとあれだ、保健室にたどり着くまでに迷ったからだ…!うわー!私ってばなんでこんな…!鬱んなるわ。


「まぁ、下手に追いかけるよりかはここにいたほうがいいだろうねぇ。あんたが慌てて教室に戻ったとしても、クラスメイトから事情を聞いた緑谷くんがまたここに戻ってくる可能性もあるからね。待ってておやり」

「あ、はい…」

「どれ、お茶でも入れてやるよ」

「お構いなく…」


そういうものの、リカバリーガールはじょぼじょぼと急須にお湯を注ぎ始めた。おうふ…強引だぜマダム…大人しくお呼ばれしますとも。

リカバリーガールから受け取った湯呑みを両手で持ち、少し息を吹きかけて冷ましてから口をつける。緑茶のいい匂いとほんのりと甘い味にほっと一息つくと、リカバリーガールがまじまじと私を見つめていることに気付た。


「…あの、何か…?」

「あんた、何か悩んでいるね?」

「え?」

「悩んでいるというより、迷っている、の方が正しいね。あんたさえ嫌じゃなければ聞かせてくれないかい?」


ことり、湯呑みを机に置いてリカバリーガールに向き直る。私のこれは、悩みや迷いと言ったものに分別されてもいいものなのだろうか。きっと1人よがりであろうこの思いを吐き出してもいいものなんだろうか。


「…わからないんです」


そう考える頭とは裏腹に、私の口は素直に言葉を落としていく。


「いず…緑谷くんとは中学の同級生で、私の大事な親友なんです。…親友だからこそ、彼が個性を使えば使うほど大怪我をするのが嫌で…けど、彼の思いも今までしてきたことも全部知ってるからそんなこと言えなくて…。ヒーローを志すのなら怪我とか危険なこととか当り前なのに、こんなことを思ってしまう私は彼の友人失格でしょうか…」


いずがボロボロになる姿は見たくない。何もしてあげられない自分が不甲斐なくて、嫌で、どうしようもなく虚しくなるときがあるのだ。


「愛、だねぇ…」

「へ?」

「いや、こっちの話さ。そうさなぁ…友人失格うんぬんの前に、お前さんは大事なことを忘れているよ」

「大事なこと…?」

「そうさ。…心配することは悪いことではないよ。ただ、そっとそばで見守ってやることも必要さ。特に男にはね」

「どういう…」

「男ってのはね、無茶してなんぼさ。まぁ、あの子みたいにしすぎるのはよくないけどね。…女はいつだって、心臓縮ませながら男をそばで見守ってやるもんさ。お前さんなら、できるだろう?」


リカバリーガールがそう言い終わるのと同時に、がらがらッ!と保健室のドアが勢いよく開かれる音を聞いた。


「玲央ちゃんッ…!」

「いず…!」


ぜぇぜぇと、肩で息をするいずに駆け寄り体を支えてやる。ふと見下ろす彼の腕には分厚いギプスが施されていて、人知れず唇を噛んだ。


「ご、ごめんね…!なんか入れ違いになっちゃっちゃみたいで…僕の荷物まで持ってきてくれてありがとう」

「ううん、いいの。私がしたかっただけだから」

「そっか」

「…怪我、大丈夫?」

「へ?あ、あー…まぁ、ね…」

「……すっごく心配した」

「う…」

「ほんとの本当に、平気?」

「う、ううぅぅうん……………」

「嘘言うんじゃないよ。今度無茶なんてしたらしっぺしてやるからね」

「ヒェッ…」


しっぺて。報復がかわいすぎでしょリカバリーガール。
思わず漏れた笑い声に気付いたらしいいずが、すねたように口を尖らせながら怪我をしていない反対側の手で後頭部を掻いた。


「…あ、そうだ玲央ちゃん!急いで着替えてくるからちょっと待ってて!」

「え?」

「一緒に帰ろう!」


そう言っていずは瞬く間に保健室から走り去っていった。再び降りる沈黙を先に破ったのは、なんだか朗らかに笑うリカバリーガールだった。


「思ったより元気そうでよかったよ。あの調子じゃ、腕も数日もしないうちに治るだろうさ」

「…そう、ですね」


ふと、先ほど見たいずのふにゃん、とした笑顔が脳裏によぎる。なんだか、いずの笑顔を見たらさっきまでうだうだ考えていたことがどうでもよくなったかもしれない。


「お待たせ…!」

「そんな急がなくてもよかったのに…」

「いや、入れ違いしたあげくまた待たせるのは悪いし…」

「入れ違った件は気にしないでってば!私が勝手にしたことなんだから、いずが責任感じることはないんだよ」

「うーん、でもなぁ…」

「私がいいって言ったらいいの!おわかり?」

「ふふ、はいはい、わかったよ」

「わかればよろしい」


いつもの会話だ。じゃれるような言葉のキャッチボールに胸のもやもやが晴れた気がした。
リカバリーガールに一言挨拶をして、私たちは保健室を後にしたのだった。





「愛されてるねぇ、緑谷くん」


誰もいなくなった保健室で、リカバリーガールがこぼした言葉は誰の耳にも入ることなく静寂に溶けた。







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