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「「「個性把握テストぉぉおお!?」」」
「入学式は!?ガイダンスは!?」
「ヒーローになるならそんな悠長な行事出る時間ないよ」
「!?」
ずぅううん…。目に見えて落ち込んだお茶子ちゃんの背中にそっと掌を置いた。
「国は未だ画一的な記録を取って平均を作り続けている。合理的じゃない」
相澤先生曰く、まずは自分の最大限の力を知るべし、だそうだ。
今の自分に慢心するべからず。自分の力を知り、これからの学校生活でどう成長していくかが大事だよね。今の力を知らないと、どう磨けばいいかわかんなくなるし。
そして、今回の個性把握テストは中学でしていた個性禁止の体力テストの個性ありのバージョンなのだとか。
個性を使った爆豪くんのソフトボール投げの記録はなんと約705m。化け物かよ…。
「なんだこれ!すげー面白そう!」
「個性思いっきり使えるんだ!さすがヒーロー科!」
「…面白そう、か…。ヒーローになるための3年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるのか?」
じっとりと私たちを見つめる相澤先生の眼力に誰かの生唾を飲む音が響く。プロの威圧感…ぱねぇ…
「よし、トータル成績が最下位の者は、見込みなしと判断し除籍処分としよう」
「「「はぁぁああああ!?!?」」」
戸惑う絶叫、困惑の声が上がる。当然だ。あれほどの難関を苦労して突破したにも関わらず、入学式はおろか入学初日で除籍なんてされちゃたまったもんじゃない。
「生徒の如何は先生の“自由”。ようこそ、それが雄英高校ヒーロー科だ」
…けれど、私たちがなんて異議を唱えようと決まってしまったことは覆らない。
「これから3年間、雄英は全力で君たちに苦難を与え続ける。“Plus ultra”さ。全力で乗り越えて来い」
挑発的に人差し指を動かす相澤先生。とにかく、除籍にならないよう全力でかかっていくしかないよね…!
1種目目は50m走だった。1回の測定に出席番号順に2人ずつ走るんだけど………私は気付いてしまったのだ。
このクラスは全員で21人。私の出席番号は21番。…おわかりだろうか。
「私1人…!?」
そう、そうなのだ…!!奇数であるがための最後の運命…!!
「あ、相澤先生…!」
「なんだ、時見」
「私、1人で走るんですかね…」
「そうなるな」
「玲央ちゃん、私が一緒に走ってあげるわ」
「ほんと!?」
「蛙吹、甘やかすな」
「…だそうよ」
「ぐぅ…!」
結論。ワンマン独走します。
「玲央ー、頑張れー!」
「こけんなよー!」
「からかわないで!?」
三奈ちゃんを筆頭に応援してくれるのは嬉しいんだけど、どうして私がこけること前提なのか…。こけない、よ…?
「位置について、よーい、ドン!」
「よっと!」
ほんの少しだけ筋肉に電流を流し、走り出す。入試の時みたいにすれば全身が痛くなるから、コントロールが難しけど今回はどうにかうまくできたみたいだ。
「4.16!!」
まぁ、初めての測定じゃ中々なんじゃなかろうか。まだまだ安定していないから、距離があけばあくほどタイムラグが大きくなるけれど、50mならこんなものだと思う。
そうして体力テストは滞りなく行われた。握力は26キロ。障子くんが540キロとかいうゴジラ並の数値を叩き出したのにはびっくりしすぎて白目むくかと思った。立ち幅跳びは普通に飛んで、ボール投げに関しては電磁加速の出力を調節してどうにか射程を伸ばすと、自己最高記録を出せた。
…これまで、いずは大きな記録を出せていない。顔は蒼白を通り越して真っ白だった。
オールマイトから授かった個性が体に馴染んでいないのか、まだ制御しきれていないのか…。どっちにしろ、このままじゃ除籍になってしまう。
「いず…」
「緑谷くんはこのままだとまずいぞ…」
「ったりめーだ、無個性の雑魚だぞ!」
「無個性!?彼が入試時に何を成したか知らんのか!?」
「は?」
どうやら飯田くんは入試の実技試験会場がいずと同じだったようだ。いずがその時に何をしたのかは私はわからないけれど、飯田くんがあんな風に言うってことはきっとすごい事をしでかしたんだと思う。かれは時々、誰もがびっくりするような事をする時があるから。
ボールを片手にサークルの中に入るいずの背中を見つめる。腹が決まったような顔をして、大きく振りかぶったいずはボールを投げた。
「46m」
しかし、結果は思わしくないものだった。
「な…今確かに使おうって…!」
「個性を消した。つくづくあの入試は合理性に欠くよ。お前のようなやつらも入学できちまう」
相澤先生の言葉に戦慄く。個性を消した…!?そんな個性があるのか……って、あれ、ちょっと待てよ。あのゴーグルすごく見覚えがあるんだけど、なんだったけ…
「末梢ヒーロー、イレイザーヘッド!!」
あ、そうそれ!前にいずから聞いたことがある!その目で視ただけで人の個性を抹消する個性を持つヒーローがいるって。相澤先生の事だったんだ。
「イレイザー?俺知らないや…」
「ねぇ、玲央は知ってる?」
「あるていどは…」
多分皆がイレイザーヘッドを知らないのも無理ないかも。私はいずから耳にタコができそうなくらい聞いたから知ってたけど、なんせイレイザーヘッドは、メディアへの顔出しをあまり好まないことでも有名なのだ。
「見たところ、個性を制御できないんだろ?また行動不能になって、誰かに助けてもらうつもりだったか?」
「そ、そんなつもりじゃ……!」
「どういうつもりでも、周りはそうせざるを得なくなるって話だ」
相澤先生のマフラー代わりにしている捕縛武器がいずを締め付ける。
私たちがいるところからいずと相澤先生の話の内容は聞こえないけれど、雰囲気的によろしくないのは目に見えてわかる。オールマイトから授かった個性を使えばいずの体はボロボロになり、まだいくつか残っている測定にも師匠が出る。けれど、このままの成績のままだと確実にいずが除籍処分になってしまう。
円の中で顔面をもはや真っ白にさせたいずだけど、一瞬前を見据えた後大きく振りかぶった。
そして…
「…705.3m」
爆豪くんとほぼ変わらない距離。
右手の人差し指を紫色に変色させたいずが、きっととんでもないほどに激痛であろう指の痛みを歯を食いしばりながら相澤先生を見ていた。
「んじゃ、ぱぱっと結果発表」
持久走は普通に走ったため、普通に死ぬかと思った。中学の時から持久走だけはずっと嫌いだったわ…
ついに来たドキドキの結果発表は、相澤先生が合理性を求めすぎて一括開示されることに。…てか、あの人って合理性を極めた化身かなにかじゃなかろうか。
「ちなみに除籍は嘘な」
「…………………………ん?」
一瞬私たちの時が止まった気がした……ってか、え?今なんつった?
「君らの最大限を引き出す合理的虚偽」
「「「はーーーーーーーー!!?」」」
「あんなの嘘に決まってるじゃない…ちょっと考えればわかりますわ…」
呆れたように言い放つ百ちゃん。いや、いやいやいや…!!あの時の先生の顔は本気だったって!!飯田くん見てみなよ、びっくりしすぎて眼鏡割れてるしいずに関してはなんかもう近代的絵画みたいになってるんだけど!?
いや、ね?そりゃ除籍なんて言われたら誰だって必死こくよねって話。
…まぁ、つまるところ…
「いず!」
「玲央ちゃ…」
「また、一緒に頑張ろうね…!」
「!う、うん…!」
こういうことだよね!
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