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「おーい、いずー!」
「ごめんね、急に呼び出したりして…」
「ううん、気にしないで!それよか、どうしたの?こんな時間に…」
入学式を翌日に控えた今日。突然のいずからお呼び出しを受け、さっさと晩ご飯を食べて海浜公園に来ていた。とりあえずということでベンチに座り、ここに来る前に自販機で買ってきたココアをいずに手渡す。
「わ、ありがとう!わざわざごめんね」
「いーえ」
そして、沈黙。
…なんだろう、すごく気まずいような何とも言えない空気が流れてるんだけど。そもそも話しがあるって聞いてきたからこうして来たものの、口ごもるいずを見る限り言いにくいことなんだろうか。あまりの静寂に耐えれなくなってココアのプルタブを開ける。甘い匂いが漂って目尻が下がった。
…とにかく、タイミングとかあるだろうし急かさずにのんびり待っていよう。
なんて思いながら缶に口を付けた瞬間、ぐりんッと勢いよくいずの顔がこっちに回ってきて危うくココアを吹き出すところだった。
「玲央ちゃんッ!!」
「ぶほッ…!」
「えッ!?ご、ごめん!」
「げほッ。い、いや、大丈夫…びっくりしただけだから。こっちこそ、なんかごめん」
「…あの、さ。さっきもメッセで送ったと思うんだけど、今日ここに玲央ちゃんを呼んだのは、君に聞いてほしいことがあるからで…!」
「うん」
「去年、玲央ちゃんは僕に神々の義眼のことを教えてくれた」
「うん」
「誰にも知られたくない秘密だって、言ってたよね」
「言ったねぇ」
「けど、今回翼くんの件で不可抗力だけどオールマイトに話しただろ?玲央ちゃんは教えてくれたのに、僕が何も話さないのは、なんて言うか…嫌だなって。…っていうか、僕が玲央ちゃんに嘘をつきたくないって思った」
真っ直ぐといずの緑色の目が私を見据える。月の光に反射してキラキラ瞬くいずの目はエメラルドの宝石みたいだなって思った。
一度、深く深呼吸したいずは「オールマイトからはちゃんと許可をもらってる」とこぼし、口を開いた。
「僕、個性が発現したんだ」
「……へッ?」
「正しくは、授かった個性だけど…」
ぽつり、ぽつり。いずは語る。遡るは、爆豪くんがヘドロ敵に捕まった事件の時。
警察やヒーローからのお説教から解放されたいずは、帰宅途中でオールマイトに会ったらしい。その前にもオールマイトに助けられたり何やりと色々あったらしいのだけれど、ここではいったん割愛。
オールマイトの後継者として彼に選ばれたらしいいずは、オールマイトの特訓メニューのもと雄英入試に向けて猛特訓していて、入試当日、ついにオールマイトから個性を授かったのだそう。…けれど、それはあくまで“急造品”であるため、今のいずが使えば肉体への反動はバカみたいに大きいのだとか。
…ざっくりと説明すればこんな感じらしい。あまりに突飛な話でいまいちピンとこないのだけれど、いずが嘘を言っていないのだけはわかる。
「せっかく掴み取ったこのチャンス、そして…オールマイトがくれた全部を無駄にしたくないんだ」
決意。覚悟。不安に焦り。いろんな感情が綯い交ぜになっているいずの目。こんな大事なこと、きっとオールマイトもいずも、知られてはいけないと隠し通さないといけなかったのに、なのになぜ私に言ってしまったのか。
「…いず、本当にそれ、私に言ってよかったの?」
「え…?」
「もし私が誰かに言いふらしたら?ネットに書き込んだら?そんなこと考えなかったの?」
「考えなかったよ」
「、…」
「君はそんなことは絶対にしないって、僕は知ってる。君だから…玲央ちゃんだったから嘘をつきたくないと思ったし、むやみやたらと吹聴しないって知ってるから信じたんだ。…玲央ちゃんはどうして僕に義眼のことを教えてくれたの?」
「それは……。いず、だったから。人の痛みを知ることができるいずだったから、知ってほしいって思った」
「うん。僕も同じ気持ちだよ」
「あ…」
「あ、でもなんか押しつけがましかった…!?よくよく考えたら急に呼び出されてこんな話暴露されたら困るよね!?ごめんね無神経で…!」そうお得意のノンストップでなんやかんや言いまくるいずを私は「どう、どうどう…」と制する。とりあえず、落ち着け。
「まずは、びっくりした…かな」
「あはは…」
「…けど、話してくれて嬉しかった。そこまでいずが私のこと信用してくれてるとは思わなかったし、なんせ内容が内容だったからさ。…私の場合、オールマイトに義眼のことを言って後悔はしていないよ。だからそんなに重たく捉えなくてもよかったのに」
「う…」
「…けど、うん。ありがとうね、いず。私もいずのこと、ずっとずっと信用してるし、誰よりも信頼してるよ」
「玲央ちゃん…!」
「よぉーっし…!明日から私たちは雄英生だからね!緊張するなぁ」
「頑張ろうね…!僕も今以上に努力しないと…!」
「体壊しちゃ元も子もないよ?」
「う…ぜ、善処します…」
「よろしい」
海浜公園を後にした私たち。手に持つココアはすっかり冷めていて、一気に流し込むとひんやりと喉が冷えた。
「ねぇ、明日一緒に行こうよ!入試終わるまではずっと別々だったし、なんか久しぶりって感じだし…」
「え!?」
「い、嫌…?」
「いやいやいやいやいやそんなこと!!!ないですからッ!!!!」
「ならよかった!じゃあ明日、駅前で待ち合わせね!」
「うううううんッ…!!(玲央ちゃんと久しぶりに登校…!!)」
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