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14


「いず、ごめん!待った?」

「ううん、僕もさっき来たところだよ」

「そっか。……じ、じゃあ」

「いざ…って感じだね」

「ほんと」


駅前で待ち合わせをしていた私たちは、緊張からか震える手で切符を買って雄英の最寄り駅まで電車に揺られる。…のはいいものの、車内は雄英に入試を受けに行く学生でごった返していて、私たちはどうにか滑り込んだはいいものの端っこでぎゅうぎゅうとおしくらまんじゅうされていた。


「うぐ…いず、ごめん…」

「いや…僕の方こそ…」


あまりにも人が多すぎて壁に追いやられたいずに私がもたれかかってるみたいになっててめっちゃ気まずい。ほんの少しでもいいからスペースがほしくて壁に着いた手に力を入れるものの、カーブに差し掛かったのか大きく揺れた電車に呆気なくいずの胸に逆戻りしてしまった。


「ッ…」


頭の上でいずが息を飲んだのが聞こえた。ご、ごめんよいずぅぅう…!!苦しいよね、重いよね…!!スペースあけたいんだけど…うぅ…がっちりと前後左右でサンドイッチになってるから内臓口から出そう…


「…玲央ちゃん、ちょっとごめん…!」

「わッ…!」


不意に腰にいずの腕が回ったと思ったら、そのまま引き寄せられてくるんッと視界が回った。


「え…えッ?」


背中に壁の感覚、見上げた先ではいずが申し訳なさそうに眉を垂らしていた。


「ご、ごめんね。玲央ちゃんすっごい苦しそうだったから、つい…」

「あ、うん…いえいえ、助かりました…」


そして、無言。
さっきよりスペースができたからかすごく息がしやすくなったけれど、その代わりに別の意味で息苦しくなった。

なんか、いず…がっしりした…?学ラン着てるから見た感じじゃあまりわかんなかったんだけど、さっき腰に回った腕の感じとか、場所を入れ替えてくれた時とか…

てか、これ…壁ドン…?

そういうのを意識した途端ぶわり、急に顔が熱くなった。ばくばくと早鐘を打つ心臓がうるさくてたまらない。てゆーか…


「(こんな密着してたらいずに心臓の音聞こえそう…!)」


くそ…!静まれ…!!静まれ私の心臓ッ!!!
最寄り駅に着くまでの間、私はただただ俯いて春よ来い的な感じに駅よ来い!!と切に祈り続けていた。


「リア充かよ」


どこかでそんな声が聞こえた気がした。





「今日は俺のライヴにようこそー!!エヴィバディセイヘイ!!」


シーン…と静まり返る会場。舞台上では耳に片手を添えて掛け声を待っているであろうボイスヒーローのプレゼントマイクがいる。
これは…


「返してあげた方がいいのかな…」

「返さんでいいわ」


隣に座る爆豪くんが吐き捨てる。いやだって、さすがに誰も返してあげないのはかわいそうじゃない…かと言ってこの静寂の中「ヨーコソー!」と声を張り上げるほど肝が座っていないわたしである。
反対側ではプレゼントマイクの登場に感激しすぎていつものブツブツタイムが出ているいずに爆豪くんの額に青筋が浮かんでいる。ちょ、マジやめようよ…

沈黙の中でもめげずに…むしろ何も気にしていないかのように実技試験の概要を説明してくれるプレゼントマイク。内容としては、10分間の模擬市街地演習をするらしい。演習場には攻略難易度に応じたポイントが設けられていて、各自の個性でその仮想敵を行動不能にしてポイントを稼ぐらしい。
簡単そうで難しいなぁ…。仮想敵と言っても演習場に配置されている数には限度があると思うし、ある意味争奪戦みたいなものでしょ?より早く、より多く仮想敵を倒さなければいけない。開始同時にいかに早くスタートを切るか…ってところかな。
なんて実技試験の作戦をぼんやりと立てていたら、途中で眼鏡をかけた真面目そうな男子が質問を投げかけた。


「プリントには4種の敵が記載されております!誤載であれば日本最高峰たる雄英において恥ずべき痴態!我々受験者は規範となるヒーローのご指導を求めてこの場に座しているのです!!」


うわ、すげーなあの人…よくもまぁ物怖じせずに堂々と…。いっそ尊敬するわ。


「ついでにそこの縮れ毛の君!!」

「!?」

「先程からボソボソと…気が散る!物見遊山のつもりなら即刻雄英から去りたまえ!」

「す、すみません…」


しょぼん、といずが顔を青くしながら項垂れた。まぁ…こればっかはあの男子の言う通りかな…


「静かにしようね、いず」

「玲央ちゃん…」


さらに項垂れたいずであった。
そして眼鏡男子の質問に対して、プレゼントマイクは4種目の敵は0ポイントのお邪魔虫敵だと言う。もっと言えばスーパーマリオブラザーズのドッスンみたいなものらしい。つまり、お邪魔虫敵を避けつつ同時にポイントを稼がないと行けないってことか…
なるほど、俄然わかりやすくなった。



「俺からは以上だ!最後にリスナーへ我が校“校訓”をプレゼントしよう!かの英祐ナポレオン・ボナパルトは言った!“真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者”と!“Plus ultra”!!それでは皆、良い受験を!!」


更衣室にてジャージに着替えたあと、予め指定されていた演習場に向かうとすでに大勢の受験者が集まっていた。
演習場には同じ中学の子はいない。友達同士で協力し合うのを防ぐため、なのだろうか…。だとしたらいず、大丈夫かなぁ…。ちょっと心配だけど、オールマイトに鍛えてもらってんだもん、大丈夫だよね!


「てか、広ッ!」


何これほぼ街じゃん!雄英って敷地内に街がいくつもあんの!?やべぇ…雄英やべぇ…


「ハイ、スタート!」


雄英の豪遊加減に戦慄いていると、不意にそんな放送が流れた。


「……んッ!?」

「おいおいどうしたぁ!?実践じゃカウントなんざねぇんだよ!!走れ走れぇー!!賽は投げられてんぞ!!」


………………………え?


「はッ…!」


一緒にあまりの衝撃に呆けたけど、それは他も同じで、どうにか一番に我に返った私は大きく一歩を踏み出した。


「とにかくまずは仮想敵を探さないと…!」


とある建物を曲がった瞬間、ちょうどよく近くの建物の影から“2”と書かれた仮想敵が現れた。


「よっしゃ、飛んで火に入るなんとやら!!」


多分意味は違う。機械音を響かせながらアームを振り上げる仮想敵の攻撃を躱し、そばに落ちていた瓦礫の欠片を数個手に取る。


「ぶっ飛べッ!!」


バキッ!!と仮想敵の胴体を貫通した電流を纏った瓦礫片。
これは物体に電磁加速を加えることによって、弾丸のように撃ちだすことができる技だ。

まずは2ポイント。とりあえず電磁力を利用してビルの壁を駆け上がった私は、屋上から市街地全体を見下ろした。仮想敵を見つけ、瓦礫片を電磁加速で撃ちだす。そしてさっきの要領でじゃんじゃか仮想敵を倒していく。
時々挟み撃ちにされたら、片方の仮想敵に瓦礫片を打ち出し、もう片方に電撃を食らわす。そうしていると、鼻の下がなんだかこそばゆくなった。手の甲で擦ると、赤く滲んだ血が付着した。


「使い過ぎってか…」


使い用ではチートに見える私の個性だけど、多用すると鼻血が出るのだ。電撃と電磁加速を同時に使うと特に早い。
…けど、これしきのことで使うのをやめるわけにはいかない!
ぐいッ!とジャージの袖で鼻血を拭うと、すぐそばで大きな轟音。振り返ると、予想通りお邪魔虫敵…!


「ついに来ちゃったか…!」


なんにせよ逃げないと…!
私と同じことを考えたらしい受験生たちと同じように走る。…と、突如背後でバチバチッ!!と激しく電気が弾ける音がした。思わず振り返ると、ばっちんばっちんと電気を纏うお邪魔虫敵。…だが、電気に屈せず止まることなく普通に歩いているお邪魔虫敵の足元にフラフラと足元が覚束無い人が……って!!


「ちょっと、何してんの!?危ないよ!!」

「う、うぇぇ〜〜〜い」

「へ…」

「うぇ〜〜〜い」


両手をサムズアップして振りまくる金髪のこの男子は何をしているのだろうか。いや、いやいやいや…!


「踏み潰されるよー!?」

「うぇ?うぇえ〜〜い」


あ、アカンやつや。
あっちへフラフラ、こっちへフラフラ。上限以上の出力を出すとアホになる、的な何かだろうか。


「あぁ、もぉッ!!」


とにもかくにも目の前で死人とかマジ勘弁!!


「視野奪取(ジャック)!!」


機械だろうがなんだろうが、“眼”と定義されるものにおいて神々の義眼の上に出るものはいない。
お邪魔虫敵の視界を右に向くように支配して進行方向をずらす。そして自分自身の瞬発力をあげるべく筋肉に電気を流し無理矢理動かす。一瞬で金髪くんの元へたどり着き、そのままの勢いを殺さずに金髪くんを抱え、お邪魔虫敵の後方に向かって飛んだ。


「終ッ了ー!!!!」


そうして、10分間の実技試験は幕を閉じたのだった。






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