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11


ヘドロ事件があった次の日、いい意味でも悪い意味でも校内で有名人と化した爆豪くんは廊下ですれ違うだけでも不機嫌MAXというのがわかるほどイライラしていた。だから少しでも肩が当たった時は本気で命の危機を感じるくらいには目に見えて悪人面が増していた。何だ、何なんだ。目が吊り上がりすぎてまさに怒髪天って感じ。触らぬ神には何とやらってか。知らんけど。

鞄に机の中の教材を詰め込んでいつものようにいずがいる隣のクラスに足を運ぶ。ドアを開けようと手を伸ばした瞬間、触れる直前でドアが勝手に開いた。


「うおッ」

「わッ!び、びっくりした…!玲央ちゃんか…!」

「お、おう…玲央ちゃんだよ」

「はは、何それ」

「うぐ…と、とりあえず帰ろうよ!さっきのことは忘れて!」

「はいはい」


いつものようにいずと並んで校内を出て、帰路を歩く。昨日の私の葛藤なんて、翼のお説教を聞いてからほんの少しどこかへ行ってくれたみたい。こうして並んで歩けることをやっぱり嬉しがってる私がいる。端から見たらお花でも飛んでるんじゃないかって錯覚されそう。…なさそうでありそうなこの世界である。


「……ねぇ、玲央ちゃん」


不意に会話をやめたいずが、いつになく真剣な表情で私の名前を呼んだ。


「ん?どした?」

「あの…えっと…」


ごにょごにょ、口ごもったままその先を言おうとしないいずに、自然と私の姿勢も正される。多分これは、真剣で本気の話だ。何となく、そう思った。そうして何かを決意したらしいいずは、真っすぐに私の目を見つめた。


「僕、本気で雄英に行こうって思ってる。詳しくは言えないけど、鍛えてくれる師匠を見つけたんだ。ちゃんと鍛えて、胸張って雄英に行けるように頑張るから…!」


「だから、今みたいに玲央ちゃんと登下校できなくなる、んだ…」語尾に連れて尻すぼみ&俯きがちになるいずの旋毛を見つめる。…いずが朝からなんだかそわそわしてたのって、これを私に伝えるためだったんだ。妙に納得した。いずは、私が怒るとでも思ったのかな。そんな申し訳なさそうな顔してさ、私がそんなことで怒るわけないじゃん。


「いず、いず顔上げて?」

「…怒らない、の?」

「なんで?…前にも言ったけど、私はいずのこと応援してるんだ。お師匠さん見つけれたんだから、むしろよかったじゃん。今のいず、ひょろっちいからその人にビシバシ鍛えてもらわないとね」

「玲央ちゃん…」

「…それに、私もいずに謝らなきゃいけないことがある」

「え?」

「昨日のヘドロ事件の時、私もそこにいたんだ」

「……」

「けど、邪な考えが私の中にあって、爆豪くんを助けるために飛び出したいずを見て自分がすごく恥ずかしくなった。いずにでかい口叩いておいて、自分が何もしないんじゃ意味ないって。…こんな卑怯な私がいずの友達でいいのかなって、思っちゃった」

「そんなこと…」

「そんなことないって、いずが言ってくれるのもわかってた。だから、余計に自分が不甲斐なく感じたの」

「玲央ちゃん…」

「…けど!!その後翼に怒られちゃった。そうしたら少し気が晴れた。…自分が後悔しない生き方をしようって。だから私、頑張るから…こんな私でもまだ友達でいさせてくれますか…?」


支離滅裂に言葉を紡いだ。後半なんて自分でも何言ってるかわかんなくて、ただスカートの裾を握りしめて爪先に視線を落とす。そうしていると、やんわりと両手を握られ名前を呼ばれた。


「玲央ちゃん、顔上げて?僕の目を見て」

「ぅ…」


そろり、顔を上げる。いずの目は真っ直ぐだ。真っ直ぐで、キラキラしてて、すごく眩しい。あまりにも眩しいから、ほんの少し目を細めてしまった。


「あそこに玲央ちゃんがいたこと、僕知ってたよ」

「!」

「けど、君はちゃんと助けてくれたじゃないか。ヘドロ敵の目に幾何学模様が浮かんだ瞬間、あいつの動きが止まったのって玲央ちゃんがやったんだろ?その一瞬の隙があったおかげでオールマイトの攻撃が通ったし、僕もかっちゃんもこうして無事にいられるんだ。…だから僕は、玲央ちゃんにそんな寂しい事言ってほしくないよ」

「え?」

「“まだ友達でいさせてくれますか”って。それこそ、翼くんが聞いたら激怒するんじゃないかなぁ」

「あー…」

「ね?」

「…ごめんね」

「だから気にしないってば!今度謝ったらくすぐりの刑だからね!」

「…いず、触るの?私の体を?」

「え……………えッ!?!?!いや、ちがッ…!別にやましいことなんて微塵もクソほども思ってないよ!?」

「知ってるぅ」

「へッ…」


「もぉおおお…!!!」首まで真っ赤に染めたいずが面白くてこっそり笑ってると、それに気付いららしい彼はぷりぷりと怒り出した。かわいすぎかよ。


「…いず、雄英頑張ろうね。私、いずのことずっと応援してる。友達だもん。頑張ってる友達を応援したいって思うの、ダメ…?」

「ダメくない…!全ッ然ダメくない!!むしろよろしくお願いしますッ!!」

「ふふ、何だそれ!」

「えッ!?あ、えと…えへへ」


何がいずを焚き付けたのかはわからないけど、雄英合格に向けて頑張ろうとしているんだ、私も負けてられない。一緒に登下校ができなくなるってことは、朝も夕方もめいいっぱい使って特訓するってこと。同じく、その時間は私にもできることになる。ならば私がやるべきことはただ1つ。

“雄英合格”!!この旗掲げて突き進むのみ!!


「お互い頑張ろうね、いず!」

「うん!頑張ろう!」

「…あ、でもたまにはどっか遊びに行ったりしようね。じゃないと寂しいし」

「う゛ん…!」





◇◆◇



いずとお互い頑張ろうね宣言してから着実に雄英入試までの日程は減っていっていた。
私は毎朝1時間のランニングをしてから登校というのを日課にしていた。夕方は筋トレやら体幹を鍛えつつ勉強。合間に個性の精度アップ。おかげで多少体力やら筋肉やらが付いてきだしたんだけど、どういうわけか個性の伸びしろは自分でもわかるくらいによろしくなかった。


「どうしたものやら…」


両手の人差し指からバチバチと弾ける電流のコントロールに勤しむ私。気を抜くと思った以上の高出力が出てしまい真っ黒の黒焦げになってしまうから、思いのほか集中力が必要なのだ。


「特訓は順調かい?」

「お父さん」


ひょっこり、いつの間にか帰って来たらしいお父さんが背後から私の手元を覗き込む。


「物体を電磁加速させるときにね、すぐに摩擦とかで溶けちゃうから出力調整して距離を伸ばしたいんだよね。コツとかってある?」

「んー、そうだなぁ…僕もほとんど感覚だったからなぁ…あ、そうだ」


お父さんは、台所で夕飯の支度をしているお母さんを呼ぶ。そして振り返ったお母さんに、ほぼ爆弾みたいな言葉を落とした。


「母さん、玲央に実践してあげたらどうかな?」

「実践って…え?」

「え〜?もう何年も前だから自信ないわよぅ」

「大丈夫だよ。母さん強いんだから…」

「ちょちょちょ…!ちょい待ち!待って!何の話!?」

「あれ、言ってなかったっけ?」

「何が!?」

「玲央、“サイ”ってヒーロー知ってるかい?」

「サイ?もちろん知ってるよ、救助や敵捕獲共に活躍し、物腰の柔らかさと独特な雰囲気で老若男女からの高支持率を誇るスピリチュアルヒーローで、何年か前に急遽引退を発表して世間を騒がせた……………ん?」


何かが引っかかった。小魚の小骨のような、鼻に逆流したお米のような。何とも言えない引っかかりに首を傾げる。てゆーか、なぜこのタイミングでサイのことなんて…
ふと、1つの可能性が脳裏を掠めた。いやそんな、まさか、ね…?

恐る恐る、コンロの火を消してこっちに来たらしいお母さんを見上げる。そんな私の視線に気付いたのか、照れたように頬に片手を当てながら笑うお母さんに疑問が確信へ変わる。


「お母さん、もしかして…」

「私がその“サイ”なのよねぇ〜」


うふふ、とのんびり笑うお母さんとドッキリが成功したいたずらっ子みたいな笑みを浮かべるお父さんに頭が痛くなった。


「いやぁ、懐かしいなぁ。僕も相棒としてよくタッグ組んでたよねぇ」

「お父さんの“電気を操る”個性がなきゃ危ないところもたくさんあったわねぇ」


お前らプロヒーローやったんかい。
思わず突っ込みを入れざるを得ない両親であった。とにもかくにも、私は週に3回お母さんから個性のご教授を受けることになったのだった。






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