10
ヒーローたちや警察官にこっぴどく怒られているいずと、その反対にヒーローたちから相棒として勧誘されている爆豪くんを横目に、私はこっそりとその場から離れた。
なんとなく、今あの2人に合わせる顔がないって思っただけ。いや、別にあの2人のせいとかそんなんじゃない。ただ、本当になんとなく、どうしようもなく自分が惨めに思えて仕方がないんだ。
ヘドロ敵に捕らわれてもなお抗い続けれた爆豪くん。誰も手足が出せなかったあの中で、普段どれほど罵られようが爆豪くんを助けるために1人、飛び出したいず。
…かく言う私は、飛び出せない理由をつらつら述べた挙句、ほんの微塵でも爆豪くんを見捨てるようなことを考えてしまった。
結果的には、義眼の力でヘドロ敵の目を支配して、一瞬でも隙を作ることができたわけだけど。
「過程がだいぶよろしくない…」
「はぁぁああ〜……」着いたため息はひたすらに重い。重すぎて地球のプレート突き破りそう。
「多分いずは、こんなこと気にしないと思うけど…」
そういうところが辛いんじゃないかぁぁぁあああ!!!!
「ジーザスッ…!!」
「姉ちゃん?」
「おわッ!?つ、翼!?こんなところで何を…!?」
急に声かけられて、振り返ったら翼がいた。ちょッ、おま、ビビるじゃねぇか!!
ばくばくと変な風に(恐怖的な意味で)早鐘を打つ胸を押さえながら翼をねめつけると、心底わけがわからん、といった風に顔を顰めた。アッ、やめてその顔…姉ちゃん辛い…
「何って、母さんから買いもん頼まれた帰りだよ。…にしても、今日はなんだかついてないよ。商店街で敵が出たからってあの辺一体封鎖されて遠回りさせられるし」
「おう…」
「たまたま電気屋の前通ったら大画面に出久さん映ってるし」
「ん…?」
「てか、ギャラリーの中に姉ちゃん見つけたんだけど、何やって……何落ち込んでんの?」
「うるさい…落ち込んでなんかないやい…」
「意味わかんないし…」
うぅ…。本人はそんなつもりさらさらないんだけど、なんか弟にまで責められてる感が半端ないんだけどぉ…!姉ちゃんはメンタル強くないんだぞぅ…。なんか、泣きそう…てかもう半分泣いてる。鼻の下こそばゆいから鼻水出てるきっと。「うわ、鼻水やばいよ?」知ってるぅううう…!!
ぐしぐしと鼻を啜りながら翼に手を引かれるまま歩く。これじゃあどっちが年上かわからんな。
「…姉ちゃんさ、友達として相応しくないとかわけのわかんないこと考えただろ」
「お前…心の中“読んだ”なぁ…!?」
「心読まなくても、あの映像と立ち尽くした姉ちゃんと今さっき鉢合わせた姉ちゃんの様子見てりゃなんとなく察しがつくっての。わかりやすいんだよ」
「わかりやすい…のか…」
「…まぁ、読んだけど」
「貴様」
「てか、僕は姉ちゃんが何を思ってそんな風に考えたりしてるのかは微塵も興味がないとして」
「知ってる。お前ってやつはそういう人だよ」
「横槍入れないで。…別に説教垂れるつもりないんだけど、僕から言わせてもらうとさ、友達って何か特別な資格がないとなれないもんなの?」
「…と、言いますと?」
「すぐに資格とかなんだの考え込む悪癖やめなよ。考えすぎなんだよ、姉ちゃんは。もっと気楽に行こうぜ」
「…だって」
「…誰だって怖いことの1つや2つくらい余裕であるし、逆に何にも恐怖を感じない人なんていないよ。怖いものに対して一歩を踏み出すのって、すごく勇気のいることだと思う。けどさ、姉ちゃんいつも言ってんじゃん。“光に向かって一歩でも前に進もうとしている限り、人間の魂が真に敗北することなど断じてない”って」
「けど、それは…」
「受け売り。知ってる。受け売りだろうが何だろうが、その言葉が姉ちゃんの胸の支えになるんなら、自分を信じれなくてもその言葉だけは信じてあげてよ」
ぽかん。まさに目から鱗。言葉を信じる、とか、考えたことなかった。口癖のようにずっと言ってきた言葉だったけど、いずに説教するみたいに放った言葉だったけど、自分自身がちゃんと信じてあげられてなかったのか。そりゃ、光が見えないわけだよ。
ふぅ。鼻から息を抜く。いつの間にか涙も鼻水もすっかり止まっていて、ゴーグルがしっとりと濡れそぼっていた。着けたまんまで泣いたらそら濡れるわな。ゴーグルを首元まで下げて、制服の袖でぐいッと目元を拭う。
「吹っ切れた?」
「…吹っ切れたかそうじゃないかで言ったら、正直まだ微妙。けど、うじうじ考え込む自分がバカらしくなるくらいには気分が晴れた」
「そっか」
「うん。…ありがとね、翼」
「言いたいこと言っただけ。…でもまぁ、頑張れよ。亀の勇者(トータスヒーロー)」
「それやめろよぉ…!かっこ悪いじゃん!」
「えー?なんでだよ、いいじゃん。亀」
「いくないよぅ…」
いつからか、翼は時たま私のことを亀の勇者(トータスヒーロー)って呼ぶ。私的にはこの呼び方は非常に不満であるし、やめてほしい。だって、亀だよ。遅いしのろまじゃん。私そこまでどんくさくないよ。前にそう本人に言ってやったのだけど、どういうわけか頑なにやめようとはしなかった。今は文句を垂れつつも半分諦めている。もう、好きにしてぇ…
項垂れる私。そんな私を笑い飛ばすかのように、赤い夕陽が乱反射した翼のアイスブルーの目が楽し気にきゅッと細められたのだった。
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