09
「「………………………」」
……めっちゃ気まずい。
勢い余っていずに半分抱き着くようなことしちゃったけど…顔が熱くて仕方がない。今にも口から心臓飛び出そう。
頭ぽんぽんしてもらえてよかったけど!何か!?
「えと、その…」
「ごごごごめんね急に!泣いたりして!」
「ぼぼ僕こそ頭なでたりなんか色々諸々ッ…!」
「大丈夫!そッ、そうだ!私お母さんからおつかい頼まれてたの!ちょっくら行ってくるね!あばよ!」
「おッ…おう…!」
ごまかすにはかなり無理があったと思う。なんかお互い訳のわからんことを言いながらいずから離れた私は、そのままの勢いでその場を走り去ったのだった。途中で躓いた。
「はぁ…」
まぁ、お母さんからのおつかいなんてないわけですが。気付けば商店街をふらふらと歩いていた。
くそ…まだ顔が熱いや…冷めろ冷めろ冷めろ…!
「……駄菓子屋行こ」
こういう時はガリガリ君を齧るに限る。ひんやりちべたいガリガリ君はソーダ味の気分。まだまだ春先のひんやりとした風が吹くけれど、そんなもの今の顔の熱さに比べれば屁でもないぜ…!
ふんすッ!鞄を持ち直して、いざ!駄菓子屋へ!!
ーどかぁああんッ!!!
「………………はい?」
なんか、意気揚々と一歩を踏み出した瞬間に近くの路地裏が爆発した。はッ…え!?
「な、何…!?」
「おい嬢ちゃん!早く逃げろ!敵だ!」
「え、敵!?」
振り返ると、なんかヘドロみたいなやつがどっかんどっかんと爆発しながら商店街を練り歩いていた。商店街で買い物をしていた人たちは巻き込まれてはひとたまりもない、と言いたげに我先にと逃げまとっている。そんな人の波に飲まれながらもどうにか商店街の入り口付近まで避難できた私は、群れる人だかりの隙間から様子を窺う。
「わぁ、ヒーローがめっちゃ来た」
人気急上昇中の若手ヒーロー、シンリンカムイを筆頭に最近デビューしたMt.レディ、バックドラフト等々、商店街で暴れている敵を捕らえるべくやってきたのだが…
「わ、私二車線以上じゃないと無理ー!!」
「くッ…俺の個性とは相性が悪い!」
断片的に聞く限り、ここに集まったヒーローたちの個性と、今暴れているヘドロ敵の個性と相性がよくないみたいだ。まだ商店街に取り残された人たちを救助はできるものの、どうしても敵を捕獲することはできないらしい。
…というより、あの敵めっちゃ爆発してるけどどういう個性?ヘドロ化だけじゃなくてそれと同時に爆発もさせる複合個性?
「なんでヒーロー棒立ち?」
「中学生が捕まってて手が出せないんだって」
「中学生…?」
近くの人たちが話す内容に首を傾げる。じゃあ、立ち往生しているヒーローは敵との相性が悪いだけじゃなくて、敵が中学生を人質にしているのも相まって余計に手出しができないってこと?
…いや、それより今すっごく嫌な予感がしてるんだけど。
「ね、ねぇお兄さん!あの敵に中学生が捕まってるって本当ですか!?」
「ん?あぁ。なんでも爆発させる個性を持ってるみたいでさ、その子も敵から逃げようと抵抗してるからあの敵自体が地雷になってるんだって」
「そ…ですか…」
嫌な予感が的中したかもしれない。
私が知る限り、中学生で、爆発する個性を持っている人と言えば1人しか思い浮かばない。けれど、仮にもし彼だとして、助けれるの?私、思いっきり引っぱたいちゃったし、彼の性格から考えると同級生…ましてや女の私に助けられるなんて屈辱以外の何物でもないはず。
「オールマイト!?ここに来てんの!?」
「じゃあそのオールマイトは何してんだ?」
オールマイト…ここに来てるの?けれど、そのオールマイトがここにいないということは、もしかしたら別の場所で事件を解決していかもしれない。彼が来るまで爆豪くんがあのままというのは…些か酷だ。
…私なら、爆豪くんを助けられる。
私の個性は、壁を歩くことだけじゃなくて雷撃を飛ばしたり、物体に電磁加速を加えることによって対象にぶち当てる遠距離攻撃もできる。…けど。
「(さっきのいずに対しての爆豪くんの言葉、忘れたわけじゃない…)」
一瞬でも、自業自得だなんて思ってしまった。
私、すごく最低だ。
クラスメイトを見殺しにするようなことを考えてしまった。
だって爆豪くんはクラスメイトで、いずのたった1人の幼馴染みなのに。
こんなことを考えてしまった私はいずの友達としてきっと相応しくない。
あー、もう…私のバカ…
「何やってんだ坊主!!」
「止まれッ!止まれー!!!」
「えッ…い、いず!?」
不意に視界の端っこを横切った見覚えのあるもさもさが、あろうことかあの地雷ヘドロ敵に向かって無謀にも突っ込んで行った。
誰もがわけがわからないといった顔でいずの背中を見つめてる。かく言う私も絶句してる。けど…一瞬だけど見えた、見てしまった爆豪くんの表情に、どうしていずが飛び出したのかわかった気がした。
「(いずはいつだってそうだ。自分のことなんて顧みないで、困ってる人がいたら助けに行っちゃうお人好し)」
「しぇい!」なんて間抜けな掛け声でヘドロ敵に向かってリュックを投げ付けたいずは、爆豪くんに張り付いているヘドロを両手で掻き分けていく。そして、
「君が…!助けを求める顔してた…ッ!」
「「……!!」」
無個性だからとか、勝算がないとか、相性が悪いとか、そんなの一切関係なしに、ただ爆豪くんを助けたいって思ってる。
…それに比べて私ってば、なんてバカなんだろう。バカみたいにうだうだ考えて、言い訳してた。
ゴーグルを着けて、目を見開く。そうさ、ひれ伏せ。神々の義眼の名の元に、跪け!!
「私に従え、平眼球ッ!!!」
義眼を発動させて、ヘドロ敵の目を支配してぐるぐる回す。すると途端に呻き声を上げながら無差別にヘドロを飛ばし始めた
「ぐぁああああ…!!目が…!目がぁあ…!!」
「(目…!?あの幾何学模様、もしかして…!)ッ…かっちゃん!!」
「もう少しなんだから、邪魔するなぁあ!!!」
「うわ…!」
「いず!」
ヘドロ敵が振り上げた腕がいずに迫る瞬間、個性を発動させた私はいずにぶち当たる寸前で雷撃をヘドロ敵に向かって飛ばす。すると感電したらしいヘドロ敵は動きを止めた。長くはもたない。けど、これはただのほんの時間稼ぎなのである。
「君を諭して己が実践しないなんて…!」
テレビでよく見知った後ろ姿が、爆豪くんといずの腕を大きな手で掴む。
「プロはいつだって命懸け!!」
振り上げた拳が…
「DETROIT…SMASHッ!!!」
巨大な竜巻を巻き起こしながらヘドロ敵を完全に吹き飛ばしたのだった。
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