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08


桜が満開に咲く季節。3年生へと進級した私は、2年の時は同じクラスだったいずと違うクラスになってしまった。登下校やお弁当を食べる時は一緒ではあるが、去年の1年間ほぼ毎日一緒にいたからわりかし違和感がすごい。


「進路希望の紙配るぞー」


担任の気怠げな声を聞きながら、前の席の子から回されてきた進路希望の紙と睨めっこ。


「(いずはきっと雄英ヒーロー科って書くんだろうなぁ)」


いずのサイドキックになりたいって言うのは本当だし、他に行きたい高校とかないから雄英って書いておこう。第2希望は雄英サポート科っと…

隣同士話し合ったり、思い思いに談笑するクラスメイトを横目に用紙に書き込んでいると、隣のクラスから爆発音と騒々しい声が聞こえてきた。一発目の爆発音は爆豪くんだな、きっと。校内で個性使うのは原則禁止なのに何やってんだか。


「……あ、私も人の事言えないか」


驚きの事実である。





「時見さん、じゃあね」

「うん、また明日」

「ばいばい!」

「ばいばい」


クラスメイトたちに別れを告げて掃除すること30分。あとはゴミを持っていくだけとなったので、残りの掃除は他の掃除当番の子に任せて私はごみ捨てに赴く。新学期早々にフル授業とか泣きそう。

ガサガサとゴミ袋を鳴らしながらゴミ捨て場目掛けて歩く。大きな緑のコンテナの蓋を開けて、ゴミ袋を放り投げればあとは帰り支度をして帰るだけだ。


「あいたッ」


不意に私の脳天に何かが降ってきた。擦りながら落ちてきたものを拾うと“将来の為のヒーロー分析No13”と書かれた見覚えのありすぎるノート。


「なんでいずのノートが落ちてきて…てか、危ないじゃん!私だからよかったものの、他の人だったらなんてどやされるかわかんないよ」


仕方ないなぁ、玲央ちゃんが配達してあげようじゃないか。
ノートが落ちてきた教室の窓を見上げ、個性を発動させて壁を駆け上がる。壁から発せられる電磁波を利用することで私自身がマグネットみたいになり、こういうコンクリート状の壁を歩行することができるのだ。
たんッ。いずのクラスの窓のサッシに降り立ち、教室内を見ると私を背にして立ついずと、今まさに教室を出ようとする爆豪くん&その取り巻き2人組。


「いずー…」

「あぁ、そんなにヒーローに就きてぇんなら、効率のいい方法があるぜ?」


…一体なんの話しをしているんだ。いずを呼ぼうとしたら爆豪くんが話し始めたから思わず口を噤んだ私。首を傾げる私は次の瞬間あまりにも衝撃的な爆豪くんの発言にそのままの状態でフリーズした。


「来世は個性が宿ると信じて、屋上からのワンチャンダイブ!」


「…………………………は?」


今…なんつった?
あまりにもびっくりしすぎて、単語どころか平仮名一文字しか口からこぼれ出なかった。私の口から飛び出した平仮名が聞こえたらしいその場の人間は、サッシに佇む私を振り返って目を引んむく。


「てめぇ、いつの間に…」

「玲央ちゃ…」


サッシから降り、私の名前を呼ぶいずの声を振り切り、ツカツカとただ一直線に爆豪くんめがけて歩を進めた私は爆豪くんの胸倉を引っ掴み大きく振り上げた右手を彼の頬にフルスイングさせた。


「ッ…!!」


―ばちぃいいんッ!!


引っ叩いた右手がジンジンと痛い。彼の取り巻きといずの顔がサッと青くなるのを横目で見た。爆豪くんは倒れ込みこそしなかったものの、よろけた体制を立て直しまるで殺人犯みたいな眼光で私を睨みつけた。


「ッ…てめぇ、何しやがる…!!」

「君はッ…!!」


体が震える。爆豪くんが怖いから?違う。


「君は口や素行こそ悪いけど、決して根が腐っている人じゃないと思っていた!不器用に誰かを助ける事ができる人だと思っていた…!」


爆豪くんだって人間だもの。彼は確かにすごいし頭だっていいし個性だって派手でヒーロー向きで、誰かを見下してしまうのも仕方がない。

…けど!!


「そんな簡単に人の命を捨てるようなこと言うなよッ!!!」



視界がぼやけるけど、これを今ここでこぼすわけにはいかない。ぐッと唇を噛んで堪えて、俯いたまま立ち尽くすいずの手を掴んで教室から飛び出した。
自分の教室に言ったん鞄をとりに行ったら、私を待ってくれていたらしいクラスメイトたちが今にも泣きそうな私を見てぎょッとしてたけど、先に帰る趣旨と後ろにいるいずを見て何かを察したらしく「気を付けてね」と見送ってくれた。


「……」

「……」


いずの手を引いたままずんずんと進む。


「…玲央ちゃん…」


学校を出てしばらく歩いたところで、今まで無言だったいずが私の名前を呼んだ。


「玲央ちゃん…」

「………ぐす、」

「…!?」


あ、もうだめだ。
ぶわり、堪え切れなくなった涙が堰を切ったようにしとどに流れる。着けたままだったゴーグルの中に涙がたまっていくのが煩わしくてぐいッと首元に下げる。


「うッ…うぅ〜…!」

「どどどッ…どうして泣くの!?」

「なんでいずは泣かないんだよぉ…!悔しくないの!?あんな好きかって言われて!平気なの!?」

「、…平気なわけ、ないじゃないか…!」


ぎゅッ…!
いずの手が私の手を強く握りしめる。でっかい目玉いっぱいに涙をためたいずは、けどそれをこぼさずにしっかりと私を見つめていた。
わかってる。言われたいずが一番悔しくて傷ついているくらい。私が八つ当たりなんてしていいわけないって。でも、やっぱり悔しくてむかついたから。


「ごめんんん…!!」

「僕こそ、女の子泣かせてごめん…」

「謝んなよぉ…!」

「えぇ…」

「……ずず…いず、しなないで…」

「死なないよ。ヒーローになるまでは絶対に死なない」


いずの肩に頭を預けると、ぽんぽんといずが私の頭をなでてくれた。ばか、お人好し、すかぽんたん。






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