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4:叫ぶ



ぶわっと。不意に突風が吹き荒れた時だった。


『ッ…すっげぇ風…おい、大丈夫か…』


腕で顔を覆った瞬間、あいつは忽然と俺の後ろからいなくなっていた。周りを見るも、ついさっきまでいた白色は見当たらない。

…どこに行った。


『おい、どこだ!』


焦燥感に駆られてあちこちを探した。人間の子供が行きそうな場所も、気乗りはしなかったが周りにいる人間にも声をかけてみた。

それでも、あいつの消息は掴めないまま。


『くそ、どこ行ったんだよ…!』


焦りばかりが募っていく。なんで俺はたかが人間の子供一人にこんなに必死になってるんだ。馬鹿じゃないのか。
そんなことを思いながらも走る足は止めない。
きっと少し前の俺なら探すという事すらしないまま、放置していただろう。

けどあいつは…レイチェルだけは、どうしてもそうできないでいる。
これが“心配する”という事なのだろうか。


『絶対、見つけてやる…!』


ぽつり、ぽつりと雨が降り出した。





ぶわっと、風が吹いた。
激しい突風はぼくのワンピースの裾を巻き上げ、それを押さえていると頭が急に涼しくなった。


「ッ…!」


高く舞い上がる帽子。ふわふわと風に流されるそれは、今にも見えなくなりそうで。
飛ばされた。と理解した瞬間、ぼくは帽子を追って駆け出した。

あれは、ディーノがぼくに買ってくれたやつだ。ぼくのために選んでくれた帽子だ。
絶対になくしたくはない。


「、…ッ…」


必死に足を動かすものの、一向に追いつく気配がない。むしろどんどん離されていってる気がする。

やだ、待って…行かないで!


「はッ…はぁ…」


走っても走っても追いつかなくて、ほくはついに立ち止まった。膝に手をつき、鉄の匂いがする喉に顔を顰めつつも息を整える。


「見て、あの子…」

「やだ、気味が悪い…」

「ッ!」


そういえば、ぼくは帽子をかぶってないから、この真っ白い髪と赤い目が丸晒しなんだっけ…
ハッとして顔をあげると、視線、視線、視線、視線…

いろんな感情の篭った目が、ぼくを見ている…
顔をあげたことによって、ぼくが今知らない場所にいるとこに気付いた。

ここ、どこだろ…
夢中で走ってたからわからない…
いやだ、こわい、やめて…見ないで…
ぼくを…ぼくをそんな目で見ないでよッ…!

こわくてこわくて仕方がなくて、とにかくここから早く立ち去りたくてどこに向かってるのかわからないまま走った。

ぽつり、ぽつりと雨が降り出す。ぼくの頬を濡らすのは一体なんだろう…。





ぼくが駆け込んだのは、小さな公園だった。公園の隅っこの茂みの影。そこに体を滑り込ませ、小さく蹲る。
どうか誰にも見つからないように…

小ぶりだった雨は、いつの間にか本格的に降り出していた。ずぶ濡れで、レノックスにもらった服はどろどろのびちゃびちゃ。
なんだか、とても惨めだ…

ディーノ、どこにいるんだろう…
怒ってるかな、怒鳴られるのかな…

目を、合わせてくれなくなるのかな…


「にゃあッ」

「!!」


いきなりぼくの前を猫が駆け抜けた。本当にいきなり過ぎて、少しの間ぼうっと猫が去っていった方向を見ていた。


「…!」


その先にある木の枝に、白い物が引っ掛かっていた。もしかして…
どきどきと逸る胸を押さえて木のすぐ下まで駆け寄る。見上げるとそれはやっぱりぼくの帽子だった。

あった…帽子…ディーノからもらった帽子!

雨が降っているのも構わずぼくは無我夢中で木を登った。帽子のある枝まで登りきり、手を伸ばす。


とれ、た…!
よかった、見つかった!


そこでふ、と下を向いた。夢中で登ったから気付かなかったけど、今ぼくがいる場所は地面から程遠い。ふらり、と倒れそうになるのを堪えて枝にしがみつく。

こ、こわいよ…降りられない、どうしよ…

ぼろぼろ溢れる涙を、帽子を持っていない方の手で拭う。ギュッと目を瞑って、帽子を胸に抱いて…

ディーノ

ディーノ…

でぃー、の…


『レイチェル!』


ディーノ…?
一瞬空耳かと思ったけど、何回かぼくの名前を呼ばれ、怖いのを押さえ込んで下を覗き込む。そこにはぼくと同じようにずぶ濡れになったディーノが、ぼくを見上げていた。遠目でも、赤い髪からぽたぽたと雫が滴り落ちているのがわかるくらいに。
…そんな風になるまで、ぼくを探してくれたんだ…


『レイチェル、来い!』


そう言ってディーノは両腕を広げた。つまり、飛び降りろ…ってこと…?


い、いやだ…こわいよ…
ディーノを信用していないわけじゃない。けど、足が竦んでどうしようもないの…


『大丈夫だ。俺を信じろ。絶対に受け止めてやるから』

「ッ、」

『レイチェル』


もう一度、ディーノがぼくを呼ぶ。
ぼくは覚悟を決めた。ぎゅうッと帽子を抱きしめ、なけなしの勇気を振り絞り、高い枝から飛び降りた。

少しの浮遊感。そして、衝撃。温かいものに包み込まれ、ぼくの冷えきった体に少しずつ熱が移る。

ディーノはちゃんと、ぼくを受け止めてくれた。


『探しただろ…!』


うん…


『お前がいなくなって、スパークが止まるかと思った…』


うん…


『頼むから…黙って俺の前からいなくならないでくれ…!』


うん、うん…!
ごめん、ごめんなさいディーノ。

話せない代わりに、ぼくはぎゅうッとディーノの首にしがみついた。小刻みに揺れるディーノの肩。


『…帽子を探してたのか?『』

「(こくん)」

『そんなの、また買ってやるのに』

「(ふるふる)」


違うの、ディーノ。ぼくは、この帽子が大切なの。ディーノがぼくにって、プレゼントしてくれたこれがいいの。


『…そうか』


とうやらぼくの思ってることが何となく伝わったらしい。ありがとな。そう言って笑うディーノに、ぼくも釣られて笑った。


『さて、ロッカーに預けた荷物取って帰るか』


そう言って、ぼくを抱えたまま歩き出したディーノに、心の中でもう一度ありがとうと言った。





ーーーーー

長い上に色々おかしかった…
今回は初めてディーノさんが夢主ちゃんの名前を呼ぶ回でした。
ちなみにディーノさんがあったかいのは表面温度をあげてるからですよ!




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