ノイズが出現したことによって兄さんとの食事がおじゃんになった昨日。今日はその振りかえと言うことで、比較的人の行き来が多い通りを歩いていた。
私は学校帰りだから制服だけれど、兄さんは今日は非番なのか私服だった。
「青珱、見て見て!あれ可愛くない?青珱に似合いそう!」
「えー、私にそんな可愛いの似合わないよ」
「何言ってんのさ!!青珱は可愛いつまり天使であって似合わないものなんてなぁーいッ!!!」
ざっぱーん!と背後に荒波をたたえながら声高らかに言い切った兄さん。ちなみにここは人通りの多い通りである。
「ちょ、ちょっと兄さんッ!!大声でそんな恥ずかしいこと言わないで!!みんな見てるじゃない!!」
「僕は事実をだな…」
「兄さんッ!!!」
また何か口走りそうな兄さんの口を慌てて塞ぐ。手のひら越しに兄さんが何かもごもご言ってるけれど今はそれどころじゃない。恥ずかしい…!なんてことをするんだこの人は…!
周りの人に怪訝な目で見られながら、恐る恐る兄さんの口から手を離す。
…心なし兄さんの顔が緩みきっている気がするのだけれど…
「兄さんってば…どうして昔からそうなの?」
「昔から変わらず青珱が可愛いのが悪い。そ・れ・に!!」
そう言って私から少し視線を下げた兄さん。
「?にいさ…」
そして気付く。兄さんの視線の先に。バッと両腕で胸を隠すように自分の体を抱く。
こ、この人はッ…!
「やっぱり大きくなったよね」
「せ、セクハラだわ…!」
今も昔も、時々兄さんが言ってることがよくわからないときがある。正直わからないでもいいかな、なんて思ってたりするのだけれど。
つん、と兄さんから顔を逸らしてみる。すると兄さんは「怒んないでよー」なんて言いながらおどけたように私の手を握るのだ。
「ごめんって。機嫌直してよ。ね?」
「むぅ…」
「後でアイス買ってあげるからさー。青珱ー」
「…こ、今回だけなんだから」
「やっぱ可愛いわお前」
再び飛びついてきそうな勢いの兄さんを手で制していると、兄さんの通信機がけたたましい音を立てて鳴り響いた。
「え、誰…司令?」
もしもし、と通信をつなげる兄さん。今日非番なんですけど…とか何やら聞こえているが、兄さんの雰囲気が徐々にぴりぴりと変わり出した。
そして「了解です」の一言の後、通信を切った兄さんは渋い顔をしながら私に振り返った。
「ど、どうかしたの?司令はなんて…」
「ノイズだ」
「え、」
「場所はすぐ近く。せっかくの青珱とのデートなのにノイズとかほんとついてない…きっと呪われてるんだ」
「兄さんってば…司令に戻って来いって言われたんでしょう?早く行かないと、怒られちゃうよ」
「うぅ…行ってくる…青珱も気をつけてね!!」
「大丈夫、任せて!」
ダッと駆けだした兄さんを見送っていると、私の通信機にも着信がきた。きっと司令だ。
「はい、青珱です」
《青珱、話は青舜から聞いてるな?》
「すぐ近く…ですよね?」
《あぁ…》
微妙な声音で言葉を切った司令。
「?どうかしましたか?」
《…ノイズとは別の高エネルギー反応を確認した》
「高エネルギー反応…?どういうことですか?」
《その波形が…ガングニールと一致した》
「ッ!?」
え…どういうこと…?ガングニールは奏さんのシンフォギアなはず…なのにどうして。
ぐるぐるといろんなものが頭を駆け巡る。かくん、と崩れ落ちそうになる膝を無理やり立たせて、絞りきるように言葉を吐いた。
「…とにかく今はノイズの討伐を優先します。詳しくはその後で」
《わかった。翼も向かっている。二人とも、気を付けてな》
ぷつん、と途切れた通信機をカーディガンのポケットにしまう。
…ガングニールの反応がどうしてあるのか気になるところだけれど、今はこれ以上被害が出ないよう何とかしなくちゃ。
首にかかる赤いペンダントを握りしめ、私は歌う。
「Cemyuleis Tyrfing tron―」
聖遺物のエネルギーがギアへと再構成されるのを見計らって、高く跳躍する。すると、少し先でノイズがうごめいているのが見えた。
…まずはあそこから。
腰のギアから二刀の剣を出し、柄の部分を連結させる。そうすると刀身が膨張し、双頭の剣へと変形する。それを握りしめ、再びコンクリートを蹴ったのだった。
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