研修日一日目。私と兄さんを含め班員約4人。本日は侍女官殿の御指導の下王宮の侍女と一緒に廊下掃除だ。今更ながら研修というか禁城であたりまえなことをここでもしている気がするのだけれど…ハッ、も、もしかして皇子は私がにぶちんだからここで腕を上げてこいと!そういうことなのですね皇子ッ!!
「へっくしょーんッッ!!」 「どうしました白龍?」 「い、いえ、ただの風邪かと…」 「…青舜も青珱もいないとなると、とても静かですね」 「はい…いつも聞こえる青珱の泣き声が聞こえないとなると向こうで何か粗相を仕出かすのではと少々心配です」 「……まぁ、青舜もついてますし大丈夫ですよきっと」 「…………(余計心配になってきた)」
「んしょ…兄さん、私お水を変えてきますね」 「ああ、お願いするよ」
監督をしている侍女官殿に断りを入れ、汚れた水の入った器を手に王宮を出る。 王宮を出るとここにまで町の賑やかな音が聞こえてくるなんて、とてもすごい。それにとてもいい天気だ。
「うーんッ…ひゃわッ」 「おっと!大丈夫かいお嬢さん?」
以前にも同じことが起こった気がする…と角から飛び出してきた人物を見て目を見開く。なんとシンドバッド王ではないか。 彼は尻餅をつきそうになっていた私の腰を支えてくれていて、なんというか…
「ひいぃぃぃぃぃぃいい!!!!すみませんすみませんすみません!!!王とは知らず何たる粗相を…!!」 「え…」 「もう…ッ、もう皇子に顔向けできない…!!皇子!ごめんなさい!!私が前を見ていなかったばかりに皇子の顔に泥を塗ってしまうなんて!!!」 「ちょ、落ち着くんだ君…!」 「ふえええええええん!!!」
「シンんんんんんんんッ!!!!!」
頭がパニックを起こして半狂乱に陥っていると、前方から先日宿舎を案内していただいたクーフィーヤの方(じゃーふぁる殿…だった気がする)がぽこぽこ怒りながらやって来た。 そして彼は私を見るなりギッと眉を吊り上げシンドバッド王をすごい形相で睨み付けた。こ、怖いよこの人優しそうだと思ったのにすっごく怖いおおおおおおおおおおおおおおお!!!
「シン!!あなたって人はこんな幼気な少女を泣かすなんて!!もう人間やめちまえ!!」 「ひどい!!」
えええ私が原因ですかああああああ!!!? それにしてもジャーファル殿、人間やめちまえは少々ひどいと思います…シンドバッド王が影を背負ってのの字を書いてます…!
「すいません、うちの馬鹿王が…大丈夫ですか?」 「はひッ!?い、いえ!むしろ私の方がこの方に助けていただいたのです!!すみませんごめんなさい!!ややこしくしてすみません!!」 「あ、そうだったんですか…でもまあ、どのみちこの人には多少お灸を据えないとと思っていたのでちょうどよかったです」
え、笑顔がとっても黒いですジャーファル殿…! ふと手元の存在に気付く。そういえば私水を変えに来たんじゃなかったっけ…?
「ひいいいいいいい!!!」 「!?」 「あ、あのあのあのッ!!私これで失礼します!!シンドバッド王助けていただいてありがとうございました!!ジャーファル殿心配してくれて嬉しかったです!!!ではッ!!!」
ばびゅんッと脱兎のごとく駆けだした私を二人は呆然と見ていたらしい。 後に仲良くなったヤムライハ殿が語っていた。
「ご、ごめんなさい!遅くなってしましました…!」 「そんなに時間はかかってないわよ。迷ったの?」 「え、えっと…恥ずかしながら…」
そういうと侍女官殿はおかしそうに笑い、ありがとうね、と私から水の入った器を受け取り去って行った。 ……あれ、どうすればいいんだろう私。
「青珱、少しの間休憩時間だって」 「え、そうなんですか?」 「うん。監督殿が食堂で昼食をとって来いと」
食堂… その言葉を聞いてくぅっとお腹が鳴り、カッと顔に熱がたまった。そんな私の頬を面白そうに突く兄さんは意地悪だ。
「かーわいーなぁー青珱は」 「兄さん…からかわないでくださいよぅ…!」 「ははは、ごめんごめん」
悪いと思ってないくせに。むっと頬を膨らませると、兄さんは「もうみんなは先に食堂に行ったみたい」と私の手を引き言う。 ……兄さんは私を待っててくれたのだろうか。
「…ありがとう、兄さん」 「ん?何が?」 「ふふ、何でもありません」
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