(青舜side)
「兄さん!」
訓練場で姫様と手合せをしていると、入り口から可愛い可愛い妹である青珱がてってってと駆けてきた。なんだ、妖精か。
「ッ…どうしたんだ?」
姫様に断って一度中断させてもらう。すると青珱はもともとハの字を書いていた眉をさらにハの字にさせ、おずおずと切り出した。なんだ、天使か。
「あ、ごめんなさい白瑛様、兄さん…一度出直しますね」 「構いませんよ。急ぎの用事なんでしょう?」 「そ、そこまで急いでないんです!ちょっと兄さんに聞きたいことがあって…」 「私のことは気にせずに」 「は、はい。ありがとうございます」
姫様に頭を下げ、ちょこちょこと私のもとへやって来た青珱の顔は心なし少し赤く色付いていて、胸の前で指をもじもじさせながら視線を彷徨わせる。天使だ。天使が私の目の前にいる!!
ぐああああ!!!と内心青珱を抱きしめて愛で倒したい衝動を抑え込み、あくまで冷静な風を装って笑顔を保つ。荒ぶる私の心臓よッ!!静まれッ!!!静まるんだッッッ!!!!!!!
「あ、あのね、兄さん…」 「どうしたんだ?」 「あの、えっと………」
真っ赤な顔にさらにプラスで涙目が追加された。うおおおおおおおおおおおおお!!!!耐えろ、耐えてくれ私の理性いいいいいいいい!!!!!例えこの身が滅びようとも理性だけはあああああああ!!!!
「わ、私と一緒にシンドリアに行きませんかッ…!!」 「もちろん」
光の速さで即答した私に青珱はキョトンとした顔を向ける。 もうッ…もう我慢できない…ッッッ!!!!!!
「はあああああああ青珱が一緒なら私は例え火の中水の中宇宙の果てまでどこまでも行くからなああああああああ!!!」 「うッ…に、兄さん苦しいよ…!」
姫様の前だけれど失礼ながら青珱に最大級の愛の抱擁をかました。 はあああああああ可愛いよおおおおおおおおおおおおお!!!! あんな風にプロポーズさながらのお誘いを青珱からされたなら例え白龍様でも断ることはできないだろう!その前に私以外の人間に見せることなんてしないけど!
「姫様!青珱と一緒にシンドリアへ行ってもよろしいですか!?」 「いいですよ」 「よっしゃああああああああああああ!!!」
姫様直々に了承を得た私。もう嬉しいを通り越して狂喜乱舞である。
「そういえば、シンドリアには研修として行くのでしょう?二人で観光する時間はあるのですか?」
ナンダッテ…?
「え…け、研修?」 「は、はい…皇子に一週間でもいいからシンドリアに行ってみたいと言ったら、来週に煌帝国の人間がシンドリアに派遣されるらしく、研修としてなら行ってもいいと」
にこにこ。私の腕の中で嬉しそうに微笑みながらそう言う青珱に少し眩暈がした。その研修、実は私行ったことがあるんだよな… 行き先はシンドリアではなかったけれど、その研修は煌帝国の従者は必ず行かなければいけないもので。そういえば青珱はまだだったことを思い出した。旅行ついでに研修を終わらせてこいと言うことですか白龍皇子。
「…兄さん?」 「ハッ…あ、いや…うん、研修か…」 「だめ、ですか…?」
言えない…うるうると涙目で見上げてくる可愛い青珱にだめだなんて言えるわけがない…!!!
「…いや、行こう!さっきも言った通り 青珱と一緒なら例え火の中水の中深海の中紅炎様の部屋の中…!」 「死に急いでます兄さん!!」
きっと白龍様がめったに会えない私たちを思ってこの研修を提案してくださったんだ。そういうことにしておこう。
「それなら問題ないですよ、姉上」 「皇子!」
訓練場に白龍様がやって来て、それを見た青珱は嬉しそうに皇子を呼んだ。 …あ、ちょっと殺意が…
「ッ!?(なんだ、急に悪寒が…)」
「そうなのですか?」 「はい。夏黄文から聞いたところ、五日間のうち二日は歓迎会と称しての祭りがあるそうです。運が良ければシンドリア名物の謝肉宴が見れるかもしれませんよ」 「本当ですか!?」 「ああ」
我ながらすごく現金だと思う。けれどそれほど青珱と一緒にいる時間は今となってはとても貴重なのだ。
「出発は確か一週間後でしたよね?」 「はい」 「ならば用意は早いうちにして損はありません。さっそく必要なものを揃えに行きますよ!」 「あ、姉上!?」 「姫様!?」
「行きますよ青珱、青舜!」 「はい、白瑛様!」
さっさと去ってしまった女性陣に強い既視感を覚えた。皇子を見ると彼も同じだったようで、どちらとも言わず苦笑いをこぼし、すでに遠くに行ってしまった姫様と青珱を追いかけた。
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