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研修一日目、二日目は王宮内の掃除や厨房のお手伝い。そして王宮内の見学など。三日目は町でのとある果物屋さんで商売について勉強。そして四日目、つまり今日は黒秤塔と白羊塔の整理兼見学だ。
実際問題国政の場になんて他国の人間が見学をしてもいいのかと聞いてみたのだが、別に問題はないそうだ。
それでいいのでしょうかシンドリア……
そして私はわりと何の研修をしているのかわからなくなってきました。


「おや、青珱ではありませんか」
「ジャーファル殿!」


一日目の件があってからというものの、よくジャーファル殿とお会いする機会が多く、今ではこうして会話をするまでに仲良くなった。あと魔導士のヤムライハ殿も。
ジャーファル殿はとても優しくて、失礼ながら度々彼を「母上」と呼びそうになってしまうのはきっと私だけではない…はず…


「今日はここの見学ですか?」
「はい!不束者ですがよろしくお願いします!」
「(なんだこの可愛い生き物は)使うところ間違えていますよ」


苦笑いしながらぽんぽんと私の頭をなでるジャーファル殿。最近みんなが私の頭をなでるのだけど、何かご利益があるのでしょうか。
兄さん然り、ジャーファル殿やヤムライハ殿然り…


「といっても、すぐに銀蠍塔へ行くんですけれど…」
「?そんなところで何かするんですか?」
「はい、私たち3班はシャルルカン殿の指導の下剣の稽古をするそうです!」
「!そうですか…頑張ってくださいね」
「はい!」


剣の稽古、と言ってわずかに目を見日開いたジャーファル殿は、すぐにその表情を消し去りいつもの優しい笑顔で声援をいただいた。


「青珱、行くよ」
「はい兄さん!ではジャーファル殿、失礼します」
「ええ」


すでに動き出している班員の最後尾にいた兄さんの横に並ぶと、苦笑しながら兄さんは言った。


「シンドリアに来てから青珱は知り合いがいっぱい増えたね。なんだか妬いちゃうなー」
「わ、私はいつでも兄さんと皇子と白瑛様が一番です!!でもやっぱり兄さんは一番好きです!!」
「ッ!!!青珱――――!!君ってやつはああああああああああああああ!!!!」
「ぐッ…く、るしいで…にいさッ」
「青舜殿おおおおおおおおおおお!!!!青珱がッ!!青珱の首が締まっています!!!死んでしまいますよおおおおおおおおおおおお!!!」


力いっぱい兄さんに抱きしめられた私は同じ班の彗(スイ)殿に無事救出されたのだった。





*****


銀蠍塔にはたくさんの兵士の方たちが訓練をしていた。弓、剣、槍、多種多様にきらめく武器の切っ先がシンドリアの太陽できらりと輝いている。
そんな場所で各々得意な得物を手に二人一組で打ち合いをしていた。兄さんは双月剣。私は東の島に伝わる刀、神楽。彗殿は少し大ぶりの剣。4つ年上の女の子汐(セキ)殿は組み立て式の槍。


「ッ…」
「脇が甘いぞ青珱!」
「わッ」


足を払われて受け身を取る前についっと首元に槍の切っ先を向けられる。一本…とられてしまった…


「うぅ…参りました…」
「あっはっは、あんたってば武器握った瞬間目の色変えるんだもん。ビビったよ。にしても、太刀筋がやっぱり兄妹だね」
「はい。私を鍛えてくれたのは兄さんですから」
「だろうね。いやあ、青舜のシスコンぶりにはまいったよ」


汐殿は豪快に笑いながら私を立たせてくれた。汐殿は女性にしては強い方だと思う。極希に、皇子と槍術の稽古をしている姿も見受けられるし。

ふと、急に騒がしくなった彼女の背後に疑問符を飛ばしながら顔を見合わせる。


「…何かあったんでしょうか」
「さあ…行ってみようか」
「はい」


大勢の兵士の間をするする横切って行く汐殿を見失わないように必死に追いかける。ある程度進んだところで不意に彼女に腕を引っ張られ、最前列と思われるところに引っ張り出された。


「わわッ」
「青珱、見てみな」
「え?」


す、と彼女が指差す方向。そこにはシャルルカン殿と兄さんと思われし(というか確実に私の兄だ)人物が剣を交えていた。
え、えッ?兄さん何やってるの!?


「ににに兄さん!?」
「お、青珱!来たか!」
「来たか!じゃありませんよ彗殿!こ、これは一体どういう状況…」
「いやあ、俺と青舜殿で鍛錬してたんだけど、いきなりシャルルカン殿が青舜殿に手合せを申し込んできて、んでこれ」
「な、なんと…」


冷静だけれど時々ネジがぶっ飛ぶ兄さんのことだ。しょうもない挑発に乗せられたということはないと信じたい。でないと白瑛様に合わせる顔がない。


「ほら青珱!あんたも兄上のこと応援してやんな!!」
「ぴッ」


どんっと汐殿は力いっぱい私の背肩を押した。その反動でギャラリーから一歩前に出ることとなった私は周りの盛り上がりにすっかり萎縮してしまっていた。うう…こ、怖いよ…!


ふと兄さんを見る。シャルルカン殿と剣を交える兄さんはいつもより数倍真剣な顔をしていて、ああ、私はこの顔に憧れて剣を取ったんだ、そう思って大きく息を吸った。


「兄さーん!!頑張ってくださーいッ!!!」
「ッ!!」


目いっぱいの私の声援。兄さんは気付いてくれたみたいで、ちらりとこっちを見た後にフッと笑みを浮かべた。


「眷属器、双月剣ッ!!」
「うわぁッ」


兄さんが振るった双月剣から風を纏った斬撃が飛ぶ。それにシャルルカン殿は驚きつつも、笑みを絶やさずに避け、間合いを取る。


「ッやるじゃねえか!」
「恐れ入ります」
「んじゃこっちも…眷属器、流閃閃(フォラーズ・サイカ)!!」
「ッ!」


鞭のように撓った剣が兄さんを襲う。間合いを取り、避け、打ち込み…
そしてシャルルカン殿の剣が兄さんの足を掠り兄さんが体勢を崩したことによって彼らの手合せは終わりを迎えた。周りの大歓声と拍手喝采。
私の周りに迷宮攻略者が多いだけで、兄さんも十分に強いんだ。そんなことを改めて思った。


「はぁ…ありがとうございました、シャルルカン殿」
「いや、こっちこそありがとな。中々楽しかったぜ!」

「兄さん!」


シャルルカン殿と握手を交わす兄さんに彗殿と汐殿とで駆け寄ると、兄さんは頬を掻きながら苦笑した。


「兄さん!すっごくかっこよかったです!」
「青舜ってばあの八人将相手に頑張ったじゃないかッ!!ちっこいくせに!」
「汐!ちっこいは余計だって!」
「それでもすごかったですよ青舜殿!」

「まぁ、負けちゃったけどね」
「そんなこと関係ありません!!兄さんは兄さんです!!私の憧れる兄さんは何があっても兄さんです!!」
「〜ッ!!!青珱―――――――――!!!!!」
「ひゃッ!!」


ズガンッと猛烈アタック(兄さん曰く愛ある抱擁)をぶちかまし、相も変わらず私に頬ずりする兄さんはいつもより数倍笑顔が素敵だった。





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汐(せき)…19歳。青舜と同期。槍術の使い手として腕は確か。ちょっと男勝りで豪快。
彗(すい)…17歳。汐の後輩。お兄ちゃん気質だが汐の酒豪っぷりに胃を押さえる苦労人。


以上オリキャラ説明でした!




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