クラスペディア1 | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


▼ 24:真の友達


「ケイ、なぜそいつを連れてきたんだ」


オロチは鋭い眼光をそのままに私に問うた。そいつって…もしかしてマオくんのこと…?


「そいつはオレたちの希望…魔界議長イカカモネを倒すためのオレたち妖怪の最後の希望なんだぞ」

「…なにやらすごく怒っているようですけど…ケイちゃん何かしました?」

「いや、心当たりがないんだけど…。ねぇオロチ、一体どういうこと?」

「教える義理はない、そいつを連れて今すぐ帰れッ!!」


彼の怒号と共にマフラーの龍たちが威嚇する。帰れと言われても、私たちはここで引くわけにはいかない。オロチには悪いけど、ここは力ずくでも押し通らせてもらう。


「…悪いけどそれは聞けない。私たちはこの先に行かないといけないの。…ここを通して」

「言っても無駄か…。仕方ない、力づくでも帰らせるまで!!」


ぐわッと襲い掛かってくる双頭の龍たち。しかしそれらは、私たちに届く寸前にどこからか吹いてきた吹雪によってかちこちに凍ってしまった。


「ケイに手は出させないわよ!」

「ゆ、雪女…!」


ふわり、と青い頭巾を揺らした雪女はぱちんッとウインクすると私たちに背を向けオロチに向き直る。


「…雪女、自分が何をしているのかわかっているのか。そいつは妖魔界の…」

「わかってる…わかっています、けど!!ケイたちは人間なのに私たち妖怪の問題をどうにかしようと一生懸命になってくれてる。自分の危険も顧みずに!真実も知らずにただ一生懸命に!オロチさんの言う通り、私たち妖怪の希望を失うわけにはいかない。けれど、それ以上に大切なこと、もっと他にあるでしょう!?」

「ッ…」

「主よ」


不意に声が聞こえたと思ったら、声の主は地面に揺れる私の影からのっそりと姿を現した。


「…!?」


しかもそれが見覚えのある人だったらなおさら。中々にショッキングな場面を目撃してしまい戦慄いている私を置いて話はトントンと進んでいた。


「影か…」

「主よ、ここは一度ケイに任せてみてはどうだ。主の気持ちもわかるが、今は我々が争っている場合ではない。…こいつらに真実を話してから決めても遅くはないはずだ」


まさかの人物からの擁護にオロチは押し黙る。しばらくの沈黙に私たちは固唾をのみ、そしてオロチはようやく口を開いたのだった。


「…この先に行くのなら、お前たちは真実を知らなければならない。この妖魔界と人間界でいったい何が起こっているのかを」

「…覚悟はできてる。じゃないとこんなところまでわざわざ来たりはしない」

「ふ…いいだろう。それでこそ天野ケイだ」


それでこその意味がいまいちよくわからないけれど、臨戦態勢を解いてくれたらしいオロチに私たち一同もようやく緊張が解けた。雪女、震えるほど怖かったんだね。大丈夫大丈夫。頑張ってくれてありがとう。ぎゅうーっと私にしがみついて嗚咽を漏らす雪女の頭をなでながらオロチの話に耳を立てた。


オロチの話はこうだった。人間よりもはるかに寿命の長い妖怪でもいつかは終わりが来る。エンマ大王が亡くなってしまったあと、悪しき野望を持つ妖怪たちに妖魔界は支配されたらしい。それが、私がりゅーくんの水晶で見た魔界議長のイカカモネとその一派らしい。
そのころにはすでに封印されていたらしいウィスパーが知らなかったもの、人間界に悪い妖怪たちが出てきたものこれで辻褄が合う。


「僕が何度も妖怪に襲われたのも、もしかしてそのせい…?」

「妖魔界の混乱が原因でうぃす」


妖魔界を支配し、人間界までもを乗っ取ろうとたくらむイカカモネを危惧したオロチたちは、亡きエンマ大王の一人息子の力が覚醒するまで、平和な人間界に隠したそうだ。記憶を消し、イカカモネの魔の手が伸びないように…


「それが、マオくん…?」

「、え…?」

「ケイ、お前はほかの人間たちと違い、妖怪の存在を受け入れた。そんなお前だからこそエンマ大王の息子であるマオを任せられると信じたんだ」


普通の人間は妖怪の姿を見ることはできない。しかしそれは”普通”だった場合である。私は妖怪ウォッチを持ち、尚且つ霊力が生まれつき高いため妖怪を見ることができる。マオくんはエンマ大王の息子だから、妖怪ウォッチなしでも妖怪を見ることができたんだね。


「ケイ、どうかイカカモネを倒してくれ…」

「わかってる。ちゃんと倒して見せるから。それに…大口叩いときながら尻尾撒いて逃げるなんて私はしないよ」

「そうか…お前を信じてよかった。戦いの中で力が必要になったときはオレを呼んでくれ。力を貸そう」


差し出されたオロチのメダルを両手で受け取る。きっと彼の力はすぐに借りることになるだろう。啖呵を切ったからにはちゃんとやり切って見せる。自分で決めたことを途中で投げ出すのは、やっぱり居心地悪いから。


「…ケイちゃん、あの…僕…」

「変わらないよ」

「え…?」

「変わらない。マオくんはマオくん。エンマ大王の息子さんだったとしても、私が知ってるのは桜第一小学校に通う5年2組の、私の友達の日影マオくんだから」

「ケイちゃん…!」


マオくんは私の両手を握ったまま目を閉じ、ありがとうと小さくつぶやいた。
少しの間そうしていたマオくんだったが、徐にオロチに向き直り口を開く。


「僕は、どうすればいい?」

「マオくん、あなたは人間界に帰ってください」


意気揚々とオロチに問いかけたマオくんだったが、ウィスパーが落とした唐突な爆弾のせいで一同はびきり、と石化した。


「え、ちょ…ウィスパー何言って…」

「イカカモネを倒すくらい、ケイちゃんなら朝飯前です!今だけは人間界で待っててほしいでうぃす」

「ちょっと何言ってんの!?今は一人でも多くの戦力がほしいんだよ?そんな…」

「だからこそ、でうぃす」

「…どういうこと?」

「イカカモネを倒すのはケイちゃんだけで十分に戦力になります。しかしイカカモネを倒したあとの妖魔界は、ケイちゃんではどうにもならないでうぃす。そのときに本当に必要になるのが、マオくんなのです」

「でも、だからって…」

「…わかった、僕は小学校で帰りを待ってるよ」

「マオくん!?」

「確かに白オバケくんの言うことも一理ある。妖怪ウォッチを持ってない僕がケイちゃんと一緒に行っても、多分足手まといになるから…」

「でも…」

「ケイちゃん、僕に言ったよね?友達が怪我をするのは嫌だって。揚げ足を取るようで嫌だけど、友達が怪我をするのが嫌なのは僕も一緒だから。…待つことしかできない僕だけど、人間界でできることをやってみる。だからケイちゃんは、妖魔界をお願い」

「…わかったよ。ちゃんとイカカモネを倒して、みんなで人間界に戻るから」


マオくんと固く指切りを交わし、オロチに視線を送るとわかっていたように彼は頷いた。


「マオは俺が送っていこう。お前たちはイカカモネを頼む」

「任せて」


ぽふん、と紫煙を残し、オロチとマオくんはこの場から消えた。未だ漂う紫煙をぼうっと見つめていると、雪女が小さく私の服の裾を引いた。


「ケイ、大丈夫…?」

「責任重大ですよ、ケイちゃん」

「大丈夫、大丈夫だから…。ただ、妖魔界と人間界の運命を私が握ってるんだって思うと、震えが止まらなくてさ…」


変だよね…。
カタカタと震えの続く腕を反対の手で掴む。おかしいな、さっきまで何ともなかったのに急にこんな…
はは、と空笑いを漏らすと、ぽすりと私の頭に手が乗せられた。顔を上げると、存外穏やかな顔をした影オロチが私を見下していた。


「案ずるな。お前はたったの一人ぼっちじゃない。俺たちがついているだろう」

「そうよ!そんな顔するなんてケイらしくないわ!確かに不安でいっぱいかもしれないけど、ケイには私たち友達妖怪がこーんなにたくさんいるのよ?」


雪女がそう言った瞬間、ぽふり、ぽふりとあちこちで紫煙が立ち込める。周りを見渡すと、そこには私が今まで友達になった妖怪たちがずらりと並んでいて。


「みんな…」

「水臭いぞ、今更一人で、なんて思ったりして。ワシらはあの日、ケイにメダルを託したその日からずっとお前の友達だと誓ったのだ。・・・なんでも一人でやろうとするな。友達を頼れ」

「…!うん、うん…!ありがとうヤマト…みんなも、来てくれてありがとう…!」

「当然じゃない。あなたは危なっかしいんだから、私たちがちゃんと傍で見ておかないと」


そう言っていたずらっぽくウインクする八百比丘尼に思わず笑みがこぼれる。私は人間だから、私がやらないとって思ってた。けど、人間だとか妖怪だとか、実はそんなもの関係なかったんだ。種族が違っても、友達には変わりはないんだもの。


「…もう、平気でうぃす?」

「うん、大丈夫…。私、迷わないよ。だからみんな」


どうか、私に力を貸してください。


そういうと彼らはにっこりと、それでいて力強く頷いてくれた。






prev / next

[ top ]