▼ 23:その先
ウィスパー曰く、マオくんの持つ鍵のエレベーターはおおもり山のご神木のところにあるらしく、ひとまず私たちはそこへ向かっていた。…というか、そのご神木っていうのが何の縁が働いたのかすっごく見たことのあるものでして。
「ここって…」
「私とケイちゃんが出会った場所でうぃす」
大きな木の下に佇む石のガシャガシャ。夏休みが始まったころだっけ。ここでガシャを回したのは。ウィスパーとヤマトに出会ったこの場所が、まさか妖魔界に通じる道だったなんて思いもよらなかったなぁ。
「ここ、見たことある…。夢の中のぼくは、ここから妖怪たちの世界に行ってたよ」
「…本当に行けるの?」
「はいはいちょっとお待ちを…えーっと、確かこの辺に…」
何やらゴソゴソと地面をたたくウィスパーは、しばらくそうしたのち何かを見つけたのか「うぃすー!」と奇声を上げた。ほんと、そういうのびっくりするからやめてほしいんだけど。
「ありましたでうぃすー!ささ、マオくん。よろしくお願いします」
「う、うん…。ここに鍵を使えばいいんだよね…?」
「はい!」
私を振り返ったマオくんに大丈夫の意味も込めて頷きを一つ。意を決したらしいマオくんは、恐る恐る鍵を現れた石碑に差し込んだ。
「わッ…!?」
「、…!」
瞬間、ご神木を中心に青白い光が渦巻いた。視界が真っ白になるほど激しく輝くそれに思わず目を覆う。そして少しするとパンッとはじける音と共に光はなりを潜めていったのだった。
ゆっくりと目を開けると、そこにはもともとあったガシャがきれいさっぱりとなくなっており、代わりにご神木の太い幹に幾何学模様の書かれた扉が存在していた。
「あ、ガシャが…」
「これが妖怪エレベーターでうぃす!これに乗れば妖魔界まであっという間です!さあ、行きましょう!」
意気揚々と開いたエレベーターに乗り込むウィスパーに続き、私たちも足を踏み入れる。動き出した妖怪エレベーターはこれと言って揺れもせず、音を立てるわけでもなく静かに動き出した。上に昇っていく青い螺旋状の光を見上げながら私はポツリ、とこぼした。
「なんか、変な感じ…」
「僕たち、本当に妖怪の世界に向かってるんだね…」
「さぁさぁお二人さん、感傷に浸っている場合ではありゃあせんよ!もうすぐ妖魔界に到着でうぃす」
ちーん、とゆっくり動きを止めたエレベーターから降りると、まず目に飛び込んできたのは満開のたくさんの桜の木たちだった。春の桜町の桜もきれいだけど、妖魔界の桜も負けず劣らずすっごくきれい …
「きれいだね…」
「うん、すっごくきれい…。でも、なんだか懐かしいような…」
「懐かしい…?」
意味深なマオくんの言葉を聞き返そうとしたが、同じタイミングでウィスパーが話し出したので結局何も聞けずじまい。…まぁ、別に今じゃなくてもいいしね。あとでもう一度聞けばいいか。
マオくんがなぜこの場所を夢に見たかはわからない。けれど、この先で水晶に見た奴が待ち構えているというのはわかる。人間界がそいつに乗っ取られる前に、なんとかしなきゃ…
「…行こっか」
「うん」
“歓迎”と書かれた提灯が並ぶ大きな門に触れる。足がすくみそうになるほどの威圧感を放つこの門を開けるのを思わず躊躇しそうになるけれど、頭を振ることによってそれらを全部振り払う。少しずつ、ゆっくりと開いていく門の先を見つめた。
「…なぜ、ここへ来た」
そして、その先に佇む彼に、彼の眼光に思わず立ちすくむ。
「オロチ…」
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