▼ 12:信じること
「ここだよね」
ずっと前から工事中のこの場所。いつ完成するのかわからないここは、人間は知らないけれどよく妖怪が出入りしているのを見る。きっとたまり場になっているんだと思う。かげむら医院にいたたちの悪い霊たちより断然こっちの方がましだ。
「キュウビの話からすればここで間違いないはずでうぃっす。…行きましょうか」
「うん」
囲いの隙間をぬって、従業員たちに見つからないよう積み重なった鉄骨なんかを盾にしながら中に
入る。所々赤いランプなどはついているものの、ほとんど真っ暗だ。うわ、危ないなぁこれ。足元もあまり見えないよ。
「うぅッ…ぐすん…ぐすん…」
不意にそんな泣き声が聞こえてきた瞬間、体が硬直した。ウィスパーにも聞こえたようで、キョロキョロとあたりを見渡している。待って、ねぇ待って。心霊現象って言うかなんというか、さっきと言い今と言い連続でそんなのいらないよ!!
「ぐすッ……ぐすッ…」
「…ウィスパー…泣き声、聞こえない?」
「聞こえますねぇ。多分あっちでうぃっす!」
「やめて指差さないで!!」
「だ、誰かいるズラ…?」
うわわ気付かれた…!!ねぇウィスパーここはいったん退散しようよ。私今のこの状況で奥に進みたくないよねぇウィスパー。
「あ」
「何も言わないでお願いだからそれ以上言葉を発しないで!!」
「いましたよケイちゃん」
「ウィスパー?」
バチーンッとハリセンでウィスパーをぶっ飛ばし、肩にいるヤマトを胸に抱いて振り返る。ぼうっと暗闇の中に浮かぶ青白いそれはまさしく火の魂…
「誰ズラか…?」
をくっつけた小さな可愛い犬。え、なにこの子可愛い。
*****
「うわぁ!!」
ズシン、と2、3回揺れた建物に驚いたコマさんは、勢いよく私の腕の中に飛び込んできた。めちゃくちゃ可愛いんだけど。
「今、ちょっと揺れたね」
「もんげー!!怖いズラぁー…!」
「もう止まったじゃありませんか。大丈夫ですよ」
「うぅ…」
「怖いのは仕方ないよ。私も怖いし」
「ケイも怖いズラ…?」
「うん。けどね、コマさんやウィスパーやヤマトがいてくれるから不安にはならないかな。コマさんは一人でここに来てるんじゃないんだから、大丈夫大丈夫」
「…オラ、頑張るズラ!絶対キュウビを見返してやるズラよ!」
「一緒に頑張ろうね!」
「うん!」
私の腕から降りたコマさんは、ちょこちょと前を歩く。そんな彼の後姿を見つめながら続く私の心境は穏やかじゃなかった。歩く度に左右に揺れるコマさんの尻尾がすごく可愛い。思わず見てしまうレベルで。
「へぇ、コマさんには弟くんがいるんだね」
「コマじろうって言うズラ!とっても優しくて頼りになるいい弟ズラ!」
「そうなんだ。いつか会ってみたいなぁ」
「ケイならきっと弟と仲良くなれるズラよ!そうだ、今度紹介してあげるズラ!」
「本当?」
「ズラ!」
可愛いなぁコマさん。にこにこと笑顔なコマさんに私の顔はきっと緩みきっているんだろうなぁ。
「…ちょっとケイちゃん、おしゃべりに花を咲かせるのはいいんですけどね、ちょっと緊張感なさすぎやしませんか?」
「コマさんが可愛くて…」
「もうすぐ最上階ですよ?そんな調子だとキュウビに何を言われるやら…」
「大丈夫だよ。コマさんはちゃんとここまでこれたんだからキュウビだって認めてくれるよ」
「そうだといいズラが…」
「大丈夫!ね、あと少し。頑張ろ」
「…ズラ!」
「まったく…」
時々何かに見られているような嫌な気配はしたものの、私たちは最上階のさらに奥。外に突き出るようになっているそこにキュウビはいた。私たちを見るや否や、にやりと口元を歪めた。
「これはこれは、弱虫で泣き虫のコマさんじゃありませんか。ケイにエスコートしてもらったのかい?」
「うぅ…」
…あれ、私キュウビに名前教えたっけ…?首を傾げるも一向に答えは出てこないので、考えるのはやめた。まぁ、たまにあるしねこういうこと。低学年の時とか、見ず知らずの霊や妖怪に教えたはずのない名前を呼ばれたこともあるし。涙目になったコマさんの頭をなでながらキュウビを見上げた。
キュウビはぴこぴこと耳を動かしながら口を開く。
「そう言えば、僕に聞きたいことがあったんじゃないのかい?今なら答えてあげよ」
「…あのさ、これまでに何回かあったボヤ騒ぎとかって、本当にキュウビがやったの?」
「随分確信を持っていないようだけど、ケイはどう思ってるんだい?全部、僕の仕業だと思うかい?」
「うーん…正直わからない。けど、私はキュウビがそんなことするような妖怪には見えない。ましてやキュウビは守り神なんでしょ?守り神が自分の土地を荒らすなんて思えないから…」
「ふふ、及第点かな。でもまだ答えを教えるわけにはいかないよ」
「ちょっとあーた、話が違うじゃありませんか!」
「僕は聞きたいことには答えてあげると言っただけで、全てを教えるとは言ってないよ」
瞬間、建物全体が揺れた。それはどんどんこっちに近付いてきているようで、それに比例してミツマタノヅチの比ではない嫌な妖気が大きくなる。キュウビを見ると、金色の目をにんまりと細くさせて笑っていた。
「ケイ、あいつを倒してごらんよ。桜町を守りたいんだろう?」
「ま、待ってよキュウビ!!ねぇ!」
キュウビは至極楽しそうに高笑いしながら消えて行った。代わりに現れたのは、この建設中のビルほどもある大きな人型の妖怪。そいつは大きく腕を振り上げて、私たちがいる足場を強く叩いた。
「わぁッ!!」
「ず、ズラぁあ…!!」
「ケイちゃん、ここは戦うしかなさそうでうぃっす!ぼーっとしていれば、やられるのは私たちですよ!」
「わ、わかってるけど…こんなの…」
「友達を大事にするケイちゃんはとても偉いと思います。けど、今はそんなこと言ってる場合じゃないでうぃっす!さぁ、ほら!」
「あ…」
手に握らされた妖怪メダル。今までに友達になってきたみんなのメダルがとても重く感じた。妖怪はあまり好きではない。なぜなら昔っから私に意地悪しかしてこなかったから。けど、改めてこうやって触れてみて見方が変わったのは事実だ。妖怪でも友達には変わりない。そんな友達をあんなのと戦わせるだなんて…
「…でき、ないよ。ウィスパー…」
「ケイちゃん…」
不意に服の裾が後ろに引かれた。振り返るとコマさんがいて、どこか怒っているような感じがした。
「コマさん…?」
「友達って言うのは、信じることズラ。ケイはオラたちを信じてないズラか…?」
「そ、そんなことないよ!そりゃ最初のウィスパーなんかは胡散臭くて仕方なかったけど…」
「言うに事欠いてそれでうぃすかッ!?ひどいでうぃっす!!」
「今はなんだかんだ好きだよ。みんな友達だもん」
「ケイちゃん…!」
「なら、信じて待っててほしいズラ」
「…!!」
叫んだり感動したり忙しいウィスパーを尻目に納得した。そっか。そうか。ヤマトがマオくんに言ったことと同じじゃん。マオくんは待ってくれていると言った。それはきっと信じてくれているから。私が夜の廃病院という危険な場所から帰って来るってことを。自惚れかもしれないけど、多分そう。だって友達だもん。
「…私の友達、出てきて」
妖怪ウォッチにメダルをセットして、友達妖怪を呼び出す。ジバニャンにメラメライオン、ホノボーノ、ノガッパ。そしてここにいるコマさんとヤマト。
「…決まったか、ケイよ」
「うん。…ねぇ、みんな。私に力をかしてほしいの。一緒にあの妖怪を倒してくれる…?」
ウィスパーがおぼろ入道と言った妖怪を見た妖怪たちはその大きさに怯むものの、意を決したらしい彼らはぐっと親指を立てた。
「ケイが初めてオレっちたちを頼ってくれたニャン!応えないわけにはいかないニャ!」
「ボーノ!」
「…ありがとう…!」
月を背に佇むおぼろ入道。それに向かって、ジバニャンたちは自分たちの技を繰り出したのだった。
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書きたいこと詰め込んだら支離滅裂になった。
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