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▼ 8:あなたは誰ですか?

「行ってきます」

「あれ、ケイ?今日も出かけるの?」

「うん。ヤマトとお散歩」

「最近よく外に出るわねぇ。ヤマトと遊びに行くのもいいけど、自由研究ちゃんとしなさいよ?」

「わかってるよ」


行ってきます。ともう一度言い、今度こそ家を出た。自由研究で思い出したんだけど、そう言えば私学校に宿題取りに行けてないじゃん。うわぁ、ミスったなぁ…
まぁ、いっか。どうせ今から学校行くんだし。結界を元に戻すついでに取りに行こう。


「小学校はまだまだ先のはずなんですけどねぇ…」

「…すごい嫌な感じがするんだけど。私聞いてないよ?」

「私もこれほどまでとは…腹をくくりましょう」

「…まぁ、やるって言ったからにはやるけどさ…」


近付くにつれ小学校から漂ってくる大きな気配に冷や汗が流れる。こんなの、夏休み前にはいなかったのに…いたとしても、これほど大きな力の持ち主なら私が気付かないはずないのに。

強い妖気はどうやら駐輪場の傍にある銅像から漏れているようで、昼間にも関わらずその銅像の周辺は異様な空気を醸し出していた。


「どうやら、この町を包んでいる強烈な妖気はここから出ているようです」

「うぅ…近付くだけでもしんどい…ウィスパー、早く元に戻しちゃおう」

「お任せください!それではさっそく…」


そう言ってウィスパーが銅像に手を伸ばした瞬間、恐ろしいほどの妖気が吹き荒れた。あまりに力が大きすぎて、地面が揺れているような感覚に陥る。


「う、ウィスパー!ここから離れよう!」

「ひとまず退散しなければ…うぃすー!!?」

「えぇえ!?」


いきなりウィスパーが吹っ飛んだ。振り返ると、私の身長の何倍もある大きな3つの頭…
え、何あれ気持ちわるッ!!


「我が眠りを妨げるのは…誰ぎょろり…」

「ぎょろりって…」


なんか語尾とかおかしい気がするけど、さっき感じた嫌な妖気の正体はきっとこいつだ。それと、封印されていた妖怪って言うのもこいつだろう。町の結界は元に戻したはずなのに、なんで復活してるの…!?


「あれはミツマタノヅチでうぃすー!!」

「み、みつ…なに!?」

「うるるぁ…力が、みなぎってくる…!数百年ぶりの自由、ぎょろ…!」


な、なんだかやばそうな雰囲気なんだけれど…
ぎょろり、と真ん中の頭が目をひん剥き、その目玉が後ずさる私を捕えた。あ、詰んだかも。


「まずは貴様を食ろうてやるぎょろ!!」

「うわぁあああ!!」


咄嗟に後ろに飛び退くと、さっきまで私がいた場所にミツマタノヅチの3つの頭が地面を割った。あ、あぶな…!!


「うううウィスパー!!あれどうすんの!?」

「戦うしかないでうぃす!!さぁケイちゃん!今こそ妖怪ウォッチで友達妖怪を…!!」

「馬鹿言わないで!いくら妖怪でも、友達をあんなやつと戦わせるわけないでしょ!!」

「ケイちゃん…!」


なんか感動しているらしいウィスパーを放置して、攻撃してくるミツマタノヅチから逃げる。あいつ、頭が3つもあるから、避けたと思ってもすぐに別の頭が突撃してくるんだよね…そもそもただの人間の私が、妖怪に太刀打できるわけないじゃないの!

一体どうすれば…


「ッ…」

「ふふふ、追い付いたぞ…散々走り回ったからなァ、疲れただろ?」

「…舐めくさっとる」


校庭の端っこに追い詰められた私。絶賛ピンチです。3つの頭が舌なめずりするさまを直視して全身に鳥肌が走ったのだけど…
てゆーか、最近妖怪に追いかけられたり殺されかけたり、こんなんばっかりなんだけど…


「逃げ場はないぞ…?大人しく我に食われるがいい…!!」

「う、わ…!」


ミツマタノヅチの頭が大口を開けて一斉に襲い掛かってくる。思わず腕を突き出した瞬間、視界の隅で茶色い物体が動いた。


「え!?」


茶色い物体、もといヤマトは小さい体でミツマタノヅチに向かっていく。だ、ダメだよヤマト!そんな小さい体じゃ食べられちゃう…!戻ってきて!


「や、ヤマト…!!」


瞬間、ヤマトの小さな体がボンッと煙に包まれた。瞬く間に風に流された煙から大きななにかが飛び出し、今にも襲いかからんとしていたミツマタノヅチに突っ込んでいった。鈍い音と潰れたような悲鳴を出しながら後方に吹っ飛んだミツマタノヅチを呆然と見つめていると、私の前に大きな巨体が着地した。


「ヤマ、ト…?」

「…すまない、ケイ」


赤い鎧を着た大きなヤマト。ヤマトは申し訳なさそうに目を細めた後、キッとミツマタノヅチに向き直った。


「ぐぅッ…だ、誰だお前はぁあ…!!!」

「…ケイに手を出さないでもらおうか。この子はワシの主人なんでな。悪いがお前にはもう一度眠ってもらう」

「そうはさせるか…!そいつを食えば、我はぁああ…!!!」

「させんと言っただろう!…必殺、暴走ツノブレイク!」

「ぎゃッ…あぁあ…あ゛ぁ゛あああああ……!!!」


ヤマトの必殺技を食らったミツマタノヅチは、耳が痛くなるような断末魔を響かせて地に伏せた。ぽかん、とヤマトの背中を見ていると、今まで静かだったウィスパーが「あぁああ!!!」と大きな声を出した。


「な、なに!?何よ!!」

「あ、あの妖怪は…!かぶと無双ではありませんか…!!」

「かぶと無双…?」

「6つに分けられた妖怪ランクの最高峰、Sランクを誇る妖怪でうぃっす!!まさかケイちゃんが飼っていたカブトムシに化けていたなんて…!」


や、ヤマトが、Sランク妖怪…?実感がないんだけど…だ、だって今までカブトムシとして一緒にいたわけだし、そんな急に妖怪だって言われても…
ヤマト…もといかぶと無双を見上げると、彼はそっと俯いた。

「お前を騙すつもりじゃなかった。いつかはちゃんと打ち明けようと考えてはいたのだ。だが…あまりにもお前と一緒にいる時間が心地よくてな。ずっとこのままでいたいと思ってしまった…
言い訳だと言うのは重々承知している」

「………」

「…ケイちゃん、かぶと無双もこう言ってることですし…」


…別に私は怒ってはいない。ただちょっと頭がこんがらがっているだけで、まだちゃんと整理できていないだけなの。


「……ヤマト、私…!」

「、!ケイ!!」

「え…?」


ドンッと私の前に立ち塞がったヤマトが吹き飛ばされた。見れば、さっきヤマトの必殺技によって倒されたはずのミツマタノヅチが立ち上がっていた。


「ふ、ふふ…食うぞ、お前を食ってやる…!!そうすれば我は、我は…!!ぐああああああああああああああああ!!!!」

「ひッ」

「に、逃げろケイ!!早く!!」


ヤマトが何か言ってる。に、逃げないと、こんなのに食われるなんて嫌だ…!!けれど、私の体はまるで金縛りにあったみたいに動いてはくれなかった。大口が3つ眼前に迫る。
わ、私、食われてしまうの…?
後ろでウィスパーが引きつった悲鳴を上げた瞬間、私の真横をいくつもの青い何かが横切っていった。よく見るとそれは龍の頭のようで。


「…!」


不意に私の肩に手がまわされた。弾かれたように隣を見ると、水色のマフラーをまいた黒髪の男の子がいた。男の子はちらりと私を一瞥した後、ミツマタノヅチを鋭い眼光で睨み付けた。


「…行け」

「「シャァアアアアアッ!!!」」


もう一度いくつもの龍を繰り出し、それをもろに受けたミツマタノヅチは今度こそ紫の煙と一緒に消えてしまった。


「あ…あなたは…!」

「…う、ウィスパー、知り合い…?」

「この方がネクラマテングからケイちゃんを助けてくれたんですよ!よかったぁ、私ももう一度お礼が言いたかったと思って…あれ、なんか雰囲気変わりました?」

「…!そうか、あいつが…なるほどな…」

「…あの」

「…いや、こっちの話だ。…ケイ」

「あ、はい」


私の肩に手を置いた少年は一瞬ヤマトを見たのち、私の顔を覗きこんできた。お月様みたいな金色の瞳がとてもきれいだった。


「…かぶと無双を責めないでやってくれ」

「へ…?あ、」


ポンッと軽い音を立てて、少年もミツマタノヅチと同じように煙に紛れて消えた。


「…お礼言えなかった」

「…ケイ、無事か?」

「あぁ、うん…大丈夫…って、それよりヤマトは!?」

「掠り傷だ。ワシはあの程度でやられはせん」

「そっか、よかったぁ…」


崩れ落ちそうになった私をヤマトが支えてくれた。


「…ありがとうね、ヤマト。助けてくれて」

「…いや、ワシは何もできなんだ。結果オロチに助けられてしまったがな」

「オロチって、さっきの?」

「あぁ」

「あのですね、ケイちゃん、あなたをネクラマテングから守ってくださったのは彼に間違いはないと思うんですよ、ただ…」

「ただ…?」

「…さっきも言った通り雰囲気がですねぇ…というか、今思えば全体的に色が違った気しなくも…あれ?どういうことでしょうか…うーん…」

「…いいよ、別に。きっとそのうち会えると思うから、今は待っていようよ」

「そうでうぃすか?」

「うん」


改めてヤマトに向き直る。前までは私の手の平サイズだったのに、今じゃ私が見上げなきゃ目が合わないんだもん。ばつが悪そうに目をキョロキョロさせるヤマトがなんだか面白くて、思わず笑った。


「私怒ってないよ。びっくりはしたけど、ヤマトが心配してることなんて何も考えてないから。だから、さ…また私と一緒にいてよ。カブトムシでも今の姿でもどっちでもいいから」

「……いいのか?」

「うん。私こそ、またヤマトって呼んでもいい?」

「お前がワシにつけてくれた名前だろう?主が呼ばなくてどうする」

「…そっか」


まだまだ気になることはたくさんある。ミツマタノヅチが執拗に私を食べたがったことやあの不思議な少年、オロチくんのことも。それと、ウィスパーが言う私を助けてくれたオロチくん似の人のことも。
まぁでも、少しはこの町に起きた異変とか言うやつに抗ってやろうなんて思ったわけでして。私自身なんの力も持たないけど、さっきの私みたいに誰かが襲われる方が私は嫌だ。

…でも今は、ヤマトやウィスパーとなんでもない時間を過ごしたいな。





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カブトムシ、ヤマトの正体がここで明かされたわけですが。かぶと無双かっこいいですよね。管理人が好きなんです。
書きたいことを詰めすぎて、なんだかよくわからないことになりそうですが、後々こっそりと書き直そうと思っている次第であります。

そしてなんとなく以前からちょくちょく描写されていた"影"も、わかる人はすでに分かっているはず…!









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