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▼ 7:黒い影


「う…」

「気が付かれましたか、ケイちゃん」

「ウィス、パー…?ここは…」

「あなたのお部屋でうぃす」

「え!?」


がばッ!と起き上ると見慣れた家具や置物が目に入った。すこし足がいたんだけれど、歩けないほどじゃない。ベランダのカーテンを開けると、外は雨が上がったのか夕焼けの赤い空が広がっている。


「…私、どうして…」


死んだと思った。ネクラマテングの妖気が迫ってきて、それから…だめだ、思い出せない。私は一体どうしたんだろうか…。


「そうだ、バクロ婆とヤマトは…!」

「ババーン!」

「あぁ、よかった…」


ひょっこりと現れたバクロ婆の頭にヤマトがくっ付いていて、ヤマトはぶぅん、と私の肩に飛んで来た。よかった、みんな無事みたい。


「…ウィスパー、私、どうしてここにいるの?さっきまでネクラマテングと…」

「そ、それはですね…」

「ウィスパー」

「…私たちは助けられたんでうぃっす」


渋るウィスパーから今まで起こったことを聞いた。





「ぐぁあああああッ!!」


渦巻く妖気の向こうでネクラマテングのものと思わしき悲鳴が聞こえた。飛んで来たバクロ婆を顔面で受け止めていたウィスパーは地面にバクロ婆をおろしつつ妖気の先を見た。


「……」


晴れた妖気の中から現れたのは、黒い二頭の龍と、気絶しているであろうケイ。…と、彼女の前に立ち塞がる黒い人影。背中を向けられているため、ウィスパーたちが影の顔を見ることは叶わなかったが、その影の足元に蹲るネクラマテングは、恐怖に引き攣った表情をしていた。


「ひぃいい…!た、助けてくれ…!」

「……………去れ」


短い、凄まじく威圧感の込められた一言にその場にいた全員が震え上がった。じかに影の殺気を浴びたネクラマテングは、それはもう顔面蒼白にして弾かれるようにその場から消えた。
沈黙が下りる。先に動いたのは影だった。影は地面に横たわるケイをそっと抱き上げ、ウィスパーを見る。


「………どこだ」

「へ!?」

「こいつの家はどこだと聞いている」

「ははははいッ!こ、こっちでうぃす…」


そこでようやく体を動かすことができたウィスパーたちは、それまで影の殺気で自分たちが動けずにいたことを知った。ケイを横抱きにする影を案内するようにバクロ婆を抱えて空を飛ぶ。


「………」


突如現れた黒い影。そっと後ろを覗き見たウィスパーは、その影の目が冷たいのもであるはずなのに、ケイを見る時だけは予想以上に優しいものであることに気がついた。二人に何かしらの接点はあっただろうかと首を傾げながら飛んでいると、いつの間にやら自分が居候しているケイの家へ着いていた。


「ここでうぃっす」

「………」


がらり、とベランダの窓を開けたウィスパー。部屋に入る前に、影は器用に片手でケイの着ていた合羽を脱がし、ベッドにそっと横たえた。


「あ、あの!ケイちゃんを助けて下さってありがとうございますでうぃす。ですが、あなたは一体…」

「………」


教える義理はない。冷たくそう吐き捨てた影は言葉通り音もなく消えた。しばらくの静寂が部屋を包む。


「…彼は一体、何者なのでしょうか…」

「ババーン…」





「ごちそうさま」

「もういいの?ケイの好きなから揚げまだあるのに?」

「うん。今日はちょっと…」

「そう…?」


さっさと部屋でお風呂の準備をした私は、熱い湯船に鼻の下まで沈んだ。大体の話をウィスパーから聞いた。そのすぐにこぶた銀行と公民館に言って結界を元に戻したんだけど、逆に何とも言いようのない不安に駆られた。これから何か起こりそうな、そんな嫌な感じ。
結界は全部で4つ。そのうちの3つを元に戻したわけだから、残りはあと1つ。場所はなんとなくわかっている。バクロ婆はサラリーマンが小学校の方からやって来たと言っていた。ならば最後の1つは小学校なんだと思う。…さすがに今日は行けなかったから、明日にでも行こうと思ってる。

そういえば、ウィスパーが言っていたネクラマテングを退けてくれて、私を助けてくれた黒い影。私にはなんとなく心当たりがあった。学校に行くときやお使いの時。行く先々で時たま感じる気配はきっとそうだと思う。


「…あーあ、もしそうなら、会ってみたかったな」


助けてくれたお礼もしたいし。あとでウィスパーからその人の特徴でも聞こう。
…なんて、妖怪相手にお礼だなんて、変な話だ。きっとすこし前の私ならこんなこと言わない。なんだかんだウィスパー影響されているのかな。






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