▼ 3:初めての妖怪
とまぁ、色々ありまして現在帰り道。
「いやぁ、楽しみですねケイちゃんのおうち!ウィッス!」
結局、着いてきました。
まぁ、承諾したのは私なんだけども…
「ねぇウィスパー」
「はいはーい!なんでしょうかケイちゃん!」
「うち、一応ペット飼っちゃダメなんだけど」
「ぺぺぺペット!?ペットおおおおお!?私妖怪でございます妖怪連れてきちゃダメって言われたことあります!?あります!?」
「な、ないけど…」
「ならオッケー!てゆーか、ペットダメならカブトムシ飼えないじゃないですか」
「あ…」
ウィスパーの一言で肩にいるヤマトを見やる。あ、ヤマトっていうのは捕まえたカブトムシのこと。さっそく名前つけちゃった。ちなみに名前の由来は「日本武尊(ヤマトタケルノミコト)」から。
だって、かっこいいじゃない。
「…や、ヤマトのことはちゃんと私がお世話するし!!それに、お母さんに自由研究だって言ったらきっといいよって言ってくれる!!……多分」
どうしよ、なんだか自信なくなってきた…
しょぼん、とヤマトを見れば目が合い、まるで「大丈夫だよ」と言ってくれてるみたいで…
「うぅ…大丈夫だよヤマト…君を捨てたりなんかしないんだから…!」
「…あの、私のこと忘れてません?」
「あ、ごめん」
ついつい自分の世界に入っていたようだ。完璧にウィスパーの存在忘れてた…
「と、とにかくさっきのことですけど!そもそも私、他人には見えませんからご安心を!」
「え、そうなの?」
「そうなんです!まぁ誰かれぽんぽん妖怪が見えていたらたまったもんじゃありませんしね」
しみじみとウィスパーが言った。
…それもそうか。
*****
「ただいまー」
夕方、玄関を開けてみたらなんだかリビングが騒がしかった。これは…お父さんとお母さん?え、何?喧嘩?喧嘩してるの!?あのすっごく仲のいい二人が!?
「どうしてあなたはいつもそうなの!?」
「目の前にあったんだから仕方ないだろ!?」
「あたしのプリン食べて!!」
「プリンプリン言うな!!」
「…え、そんなことで?」
リビングに続くドアを開ければ案の定、お母さんが楽しみにしていたプリンをお父さんが食べてしまったことについて喧嘩してるみたいだった。
「喧嘩、ですか?」
「い、いつもすごく仲がいいんだよ!?なのにどうして…」
「どれどれ…はっはーん、どうやらあやつめの仕業ですねぇ」
「え?」
ドアの隙間からリビングの様子を窺う。けれど、ウィスパーの言う“あやつ”ってのがどこにいるのかわからなかった。
「…だ、誰かいるの?」
「あー、やっぱりケイちゃんには見えませんか…ならば、さっきケイちゃんに渡した妖怪ウォッチの出番です!」
「腕時計のこと?…これ?」
ポケットから某見た目は子供頭脳は大人な少年がつけてる腕時計型麻酔銃みたいな腕時計を出す。
時計に丸い蓋がついてるだけで、見た感じ普通の時計とそう変わらない。
「そうそう!それは、私たち妖怪と人間を繋ぐいわばコミュニケーションツールなのです!使い方は、さっき教えましたよね?」
「…この、右のボタンを押すんだよね」
「はい、そして、妖怪ウォッチからの光をあの二人に当てて…」
言われたとおりに光をお父さんとお母さんの方に向ける。すると、二人の背後になんだか紫色の大きい物体が姿を現した。
「うわぁ!なにあれ!!」
「あの妖怪は“ドンヨリーヌ”!場の雰囲気を悪くする妖怪です!これは妖怪不祥事案件で言う、突然の夫婦喧嘩ですなぁ。悪化すれば、家庭崩壊につながる危険も…」
「そ、そんなぁ!
「もういいッ!!」
「こっちだって!!」
「ッ!」
お互いに背を向けた二人に焦りを感じた。ま、待ってよ、家庭崩壊とかそんなのシャレにならないんだけど…!何とかして浸りを仲直りさせないと。
「ど、どうしたら出て行ってもらえる…?」
「う…そ、そんな泣きそうにならないでくださいよ…こういう時の対処法は、交渉か力ずくですね」
「じゃ、じゃあ普通に交渉がいいな…」
「なら、執事である私がツルツルーっと解決して見せましょう!」
「う、うん…」
リビングに入って行ったウィスパーを見守る。
どうしよう…お父さんとお母さん、喧嘩なんてしてほしくないのに…
俯いてぎゅっと服の袖を握っていると、ちょんちょんと頬をつつかれる感覚がした。
「ヤマト…」
「(すりすり)」
「…ありがと。そうだよね、私まで暗くなっちゃダメだよね」
そして再びリビングに視線を移すと、なんかウィスパーがファイティングポーズをとっていた。
……え?
「ちょ、ウィスパー何してんの!?」
「こ、交渉決裂しました…こうなったら武力行使あるのみ!!」
「やめてよねそういうの!!いいよ、私が話すから!!」
こうして私が妖怪、もといドンヨリーヌと話することになったんだけど…
「実はアタシ…旦那と喧嘩して家を出てきたジュバーン…」
「、………」
予想以上にドンヨリーヌの事情が重すぎた。てゆーか妖怪も夫婦喧嘩するんだね…
「もう、あの人はアタシのこと…」
「…そ、そんなことないと思います」
「ジュバーン…?」
「仲がいいから喧嘩するんですよ、きっと。それに、話してみたらお互いわかることもあるんです!大丈夫、仲直りできますよ!」
テレビの横に立てかけてある二人の写真をちらりと見た。青い海をバックに、二人ともとっても素敵な笑顔で写っている。この両親は、世界一仲のいい両親だって私いつも思ってるもん。
「でも、アタシは旦那がどこにいるかなんて…」
「連れてきましたよー!」
「「!?」」
ばーん、お開け放たれたドアから黄色い物体が…
けれど、大きすぎるせいでつっかえてるみたい…だ、大丈夫かな…
「ぷはぁ!こんなところにいたボノ!私が言いすぎたホノボーノ!」
あ、この妖怪の名前ってホノボーノだ。直感でそう思った。
「あれが旦那さん?」
「ええ、あれは妖怪ホノボーノ」
やっぱりそうだった。
彼は名前の通り、周りをほのぼのとさせる妖怪らしい。空気をどんよりさせるドンヨリーヌ、ほのぼのとさせるホノボーノ。二人は一緒にいることで、二つの空気を調和させるらしい。その証拠に、さっきまでとても険悪だったお父さんとお母さんの雰囲気が柔らかくなった。
「あなた…ごめんなさい、本当に。言い過ぎたわ」
「母さん…俺こそごめん。いつも家のことを頑張ってくれてるのは母さんなのに…」
「!仲直りしてる…!」
「…私たちも帰ろうボーノ」
「はいジュバーン。…ケイちゃん、だったかしら?」
「あ、はい」
「迷惑をかけたお詫びに、これ上げるジュバーン」
はい、と手渡されたメダル。ドンヨリーヌ曰く、これは人間と妖怪の友達の証として渡すものらしい。
「困ったことがあれば、力になるジュバーン」
ご迷惑をおかけしました。そう言って出ていく二人の姿を見送った。
「やりましたね、ケイちゃん!ご両親の喧嘩を解決したのと一緒に妖怪メダルももらえて!」
「…よくわからないけど、やっぱりあの二人は仲良しなのがいいよ」
あーん、とプリンを一緒に食べているお父さんとお母さんを横目に、私は自分の部屋へと戻ったのだった。
今日の晩ご飯は、なんだか少し豪華になりそう。
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