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777777キリ番リク
善逸と夢主のお買い物デートのお話




誰かとでーとなるものをするのは、過去に何度かあったりする。だけど、その時付き合っていた子たちは全員が俺に貢ぐだけ貢がせてさようなら、なんてのはわりとざらだったし、俺も俺で当時はよかれと思ってしていた事だから別に今更恨んだり怒ったりなんて事はしていない。

…なんて、ぼーっと青空を流れる雲を眺めながら昔の事を思い出した。
今日はピカ天。所々に羊雲があるくらい。


「善逸、ごめん!待たせちゃって…!」


振り返って、息を飲む。ざわめき立つ街の雑踏が一瞬にして遠のいて、代わりに馬鹿みたいにばくばくとうるさい自分の心臓の音に紛れて彼女ーーなまえの弾むような軽やかな音が鼓膜を揺らした。
見慣れた隊服じゃない、落ち着いた色合いだが帯の色で全体が纏まりのある着物を着て、いつもは一束に結ばれた髪を綺麗に結い上げたなまえによく似合っていた。
借金取りに追われて、じいちゃんに拾われて、鬼殺隊になって、今日この日まで色んな事があったけど、そんな中でも最高に幸福だと思ったのはなまえと出会えた事。

なまえは同期の鬼殺隊員だ。出会いなどその他諸々は割愛するけれど、俺の大切で大好きな恋人である。


「いいいいいいよ!!気にしないでッ!!俺も今来たとこだし!!」

「本当…?」

「ほんとほんと!」

「へへ、ありがとう」


ングッ…今の…見ましたか…笑顔が輝いてた…俺後光が見えたもん…眩しい…太陽どころか自然の摂理全てが彼女に味方してた…。「善逸?どうかした?」なんでもないよ…眩しいなって、思ったんだ…


「じゃあ、行こっか」

「ハイッ!!…あ、」


なまえから差し出された手をとって、気付く。ぱ!ッと手を離してしまった。何度かでえとしたとしても、俺は腕はおろか手すら繋いだ事はない。…否、繋がせてくれなかったの方が正しい。


「ご、ごめん…!」


だから、咄嗟とはいえ思いっきり握られてなまえは嫌じゃなかっただろうか…なんて。

自分の手をぽかん、と見つめるなまえに申し訳なさで死んでしまいそう。「ご、ごめん…」情けなくも絞り出した声は彼女に届いただろうか。いや、届いていようがいまいが、せっかくのでーとなのに初っ端から嫌な思いをさせてしまった事に変わりないのだから。
…怒った、よね…あぁ、俺の馬鹿。


「……もお!」

「ッ!」


手が暖かいもので包まれたと同時に、ぐいッと前に引かれる。「うわッ…!」前につんのめった俺は咄嗟に反対の足で地面を踏みしめ、どうしてかしたり顔で笑うなまえをぽかん、と見つめた。


「ほら!行こう善逸!」


満面の笑みを浮かべるなまえは、眩しい。俺に触れる手が暖かくて、心までぽかぽかするようだ。だからか、何だかすごく泣きそうになって、だけど、ここで泣いてしまえばなまえを困らせてしまう。

今にもこぼれてしまいそうな涙を目をきつく閉じ事で防ぐ。


「うん…!」


今度はちゃんと、しっかりなまえの手を握り返し、俺たちは賑わう街の中へと繰り出したのだった。





雑貨を見て、洋服屋でなまえに似合うものを見繕って(けれど彼女は着る機会がないからって買わなかった)、硝子館、なんて店もあったから、そこで俺たちはお揃いの硝子玉の根付を買って休憩がてら喫茶店に行くことになった。

なまえにとって街とは物珍しいらしく、しきりにきょろきょろと周りを見てはぶつかりそうになっているから、正直気が気じゃない。前を見て歩くよう言っても、やっぱり気になってしまうのか気がそぞろになっている。


「なまえ、危ないって!」

「ご、ごめん。つい気になっちゃって」

「もぉ、しっかりしろよ」

「へへ」


ぐぅ…かわいい…そんなふうにはにかまれたら許すしかなくない?
えへえへと幸せを噛み締めていると、唐突にぐいッとなまえと繋いでいる方の手が引かれた。またもや前につんのめって、けれど俺のすぐ後ろを割と勢いよく車が通り過ぎて行ったのが横目で見えた気がした。
ドサッ。手を引かれたそのままの勢いでなまえを巻き込んで尻もちをついたのだけど…


「っぶないな、あの車…」

「………」

「善逸?大丈夫だった?怪我してない?」

「………」

「?…善逸?」

「へぁッ…!」

「もー、さっきから呼んでるのに。ねぇ、本当に大丈夫?」


両手で俺の頬を包んで顔を覗き込むなまえに体が石化した。
なまえはきっと俺に怪我がないか見ているだけなのだろうけど、それでも、俺の手を引いた時に一瞬見えた顔や、今こうして俺の顔を覗き込んでいるなまえの真剣な、それでいて心配してくれている顔に心臓が高なったのは事実で。
待って…ねぇほんと待って。ときめきで俺の心臓の音めっちゃうるさい。うるさすぎて街のざわめきなんて聞こえないくらい。おかしい。俺の心臓の音となまえの音だけがはっきりきこえる。「だい、じょぶ…」情けなくも震える声でそれだけ返すと、さっきまでの真剣な表情はどこへやら、なまえはふにゃりと眉を下げて笑った。


「善逸に怪我がなくてよかったぁ。立てる?」

「うん…」

「さっきの車本当に危ないよね。ちゃんと前見ろってんだ」

「うん…」

「喫茶店で何食べようか。甘露寺さんがね、パンケーキ美味しいよって言ってたんだよ」

「うん…」

「…善逸、聞いてる?」

「うん…」

「聞いてないな」


もう!とかわいくぶすくれるなまえ。かわいいよ、かわいいんだ。仕草がいちいちかわいいんだけど、さっきみたいな、急に鬼気迫るっていうか、見たことない真剣な顔されたら心臓にくるよね。ほんと、心臓潰れそう。


「ぶぇ"ッ…なまえす"き"ぃ"…」

「なんでこのタイミング?私も善逸が大好きだよ」

「ア"ッ」


過度なときめきで俺が心臓を抑えて崩れ落ちるのはまた別の話。





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