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「ねぇ俺薬飲んでた!?飲んでた!?ねぇ!誰か教えて!!」


あぁ、またやってる。
那田蜘蛛山での任務で無事に生きていた隊員は、怪我の大小を問わず全員この蝶屋敷にいったん集められる。
その中でも特に重傷者を収容している部屋があるのだけれど、そこに入院しているとある隊員が毎日毎日毎日毎日うるさくて仕方がない。


「ねええええええー!!!!!」

「あーもう、うっさいですね!!重症人なんだから大人しくしてなさい!!」

「名前ちゃああああああん!!ねぇ教えて!!俺さっき昼の分飲んでた!?」


ばたばたと短くなってしまった手足をばたつかせて私にしがみついてくるこのたんぽぽ頭…我妻隊士。顔中の穴という穴から出るもの全部出てて正直汚い。


「いい加減にしないか、善逸。名前が困ってるだろ」

「炭治郎おおお…!だって薬めっちゃくちゃ苦いんだもん…!!」

「良薬口に苦し、だぞ」

「えッ、嘘嘘待って!待って炭治郎行かないで!!」


悲しきかな、泣き叫ぶ我妻さんににこやかに手を振って竈門さんは機能回復訓練へと行ってしまった。
めそめそめそ。我妻さんが私の腰に巻きついたまましとどに涙を降らす。


「ええい離しなさい!昼間のは飲んでたでしょうが!」

「本当!?嘘じゃないよね!?」

「ですが!!」

「何!?」

「今から3回目のお薬です」

「イヤアアアアアアアッ!!!」


まるで絹を引き裂くような悲鳴に思わず耳を塞ぐ。ほんっと…!ほんっとうっせーなこの人!!


「仕方ないでしょう!きちんとお薬飲んで、太陽の光いっぱい浴びないといつまでも手足が短いままですよ!!」

「それもやだッ!!」

「じゃあ飲む!!」

「う…だって…苦いんだもん…」

「…逆に聞きますけど、どうしたら飲んでくれるんですか」


きょとり。そんな事聞かれるとは思わなかったと言いたげに我妻さんは目を瞬かせた。…ら、すぐさまだらしなく顔を緩ませて、くねくねと器用に体を揺らす。


「え〜?そりゃあ女の子に優しく飲ませてもらってぇ、ちゃんと飲めたら褒めてもらうとか?もっと言うと口移しなんてしてくれたら俺もう本当に頑張っちゃうんだけどぉ〜」


くねくね。くねくね。
我妻さんの爆弾発言にドン引き&硬直した私は決して間違っていないと思う。この人は看護担当に一体何を求めているんだろうか。


「そうですか。はい、頑張ってください」

「え!?今の質問なんだったの!?してくれる流れでしょ今のは!!」

「なんで私が口移しなんぞあなたにしなきゃいけないんですか!!」

「そうだけど!!わかってますけど!?けど一回は憧れるじゃん!!口移しは望み激薄なの知ってるからせめて頑張って飲めたら褒めてほしいの!!褒められたいの!!頑張って飲んだねって褒めてもらいたいのおおおおお!!!」


今度は寝台の上で子供のようにじたばたと暴れだした。じたばたじたばたギャンギャンギャンギャン。あまりにもやかましくて煩くて、私の額にビキビキ青筋が次々と浮かんでいくのがわかる。


「もう薬飲みたくないー!!!!!」


そう叫んだ瞬間。ぶちッ!!と盛大に私の中の何かが切れた音がした。


「え、何今の音…」


机に置かれた薬の入った湯のみを鷲勢いよく煽る。全部それを口に含んで、私をぽかん、と見上げている我妻さんの頬を両手で鷲掴み、そのまま口付けた。


「…………………!?」


顎を掴み、下にぐいーっと引っ張ればすんなりと開く。そのまま口に含んだ薬を流し込めば、ごくん。喉が鳴った。
唇を離し、薬の苦さに眉をしかめながら口を袖で拭う。…たしかに、これは苦い。我妻さんが喚きまくるのはわかるけど、飲まない事には治るものも治らないのだから。


「いいですか。次からはちゃんと自分で飲んでください。じゃないと薬の量を二倍に増やしますからね」


未だ呆然としている我妻さんを横目に、私は空になった湯のみを回収して部屋を出た。「えッ!!?!?!?何!?!?なんだったの!?!??ちょお…名前ちゃあああああんんん!!!?」我に返った我妻さんのやかましい声が聞こえる。


「何やってるんだろ、私…」


今になって後悔やら羞恥やらが滝の如く胸に押し寄せてくる。やかましいのをどうにかしたかったのと、早く薬を飲んでほしい気持ちが綯い交ぜになってあんな行動をしてしまったんだ。そう、あれは一種の血の迷い…疲れてたのよ…

だから、こんなに顔が熱いのは気のせいなんだから…