▼ 6:慣れっこだもの
港にやってきた私たちは、そこで偶然出会ったリッキーとショーンに誘われて公園へと向かっていた。
「2人は公園で何しようとしてたの?」
「クラスメイトで集まって遊ぼうと思っていたのさ」
「まだ何するか決めてなかったけどね」
「まぁね。でも、公園で待ってもらってるのは女の子2人なんだ。せっかくだしケイのこと紹介したくて。2人ともとっても優しい子たちだから、きっとケイも仲良くなれるよ!」
「そ、か…うん、ありがとう。仲良くなれたらいいなぁ」
「なれるよ!…あ、あの2人だよ。おーい!」
公園についたらしい私たち。ショーンとリッキーは遊具の下で話している女の子2人に向かって大きく手を振りながら駆けていった。それに気付いた2人も手を振り返す。私はゆっくりと、走っていった2人の後ろを歩いて行った。
「やあ、遅くなってごめんよ」
「平気よ。私たちも今来たところなの」
「あのね、2人に紹介するよ。彼女はケイ。最近この町に引っ越してきたんだって」
「えと…よろしく」
「ハァーイ、ケイ。私はイザベラ!」
「は、初めまして…。キャリーです」
快活そうなキャップをかぶった子、イザベラと、ちょっと控えめなくせ毛の子、キャリーと握手を交わす。わ、わ…ゆ、USAの女の子だ…。やっぱり美人さんが多いなぁ。
「ケイは俺たちと同い年だから、夏休みが明けたら同じ学校に行くんだろ?」
「うん、そうだよ。あそこのサウスモンドスクールだよね?」
「そうよ!なんだ、だったら一緒ね!」
「い、一緒のクラスになれるといいね」
「うん!」
USAでの友達が4人に増えた。しかも同性の女の子もいるから、これから生活するにあたってとても心強い。ここにやってくる前はUSAにいることにあまり気のりはしなかったけれど、いつの間にかここでの生活が楽しいものになっていた。早く夏休み明けないかなぁ。
「うわぁー!!どいたどいたぁあああ!!」
ほのぼのとした空気が私たちの間で流れる中、不意にそんな叫び声が聞こえた。一同何事かと騒然としたのもつかの間、振り返った私のすぐそばで一瞬人影が見えたと思った瞬間、ドッシーン!とすごい音と土埃を立てながら目の前に人が降ってきた。い、一瞬ラピュタかなんかだと思ったんだけど…
「いっててて…」
「マック!ちょっと、大丈夫!?」
イザベラが駆け寄り、マックと呼ばれた少年に声をかけるも、少年はけろりとした顔で立ち上がり笑った。
「シシシ、もちろんさ!」
…あれ、この少年どっかで見たことがあるんだけど…
「マック…?」
「あぁ、ケイは初めてだったよね。マックは僕たちのクラスメイトで、とってもすごいやつなんだ!」
若干興奮気味に話すショーンに耳を傾けながら横目で少年を見た。
「ケイちゃん、ケイちゃん」
「何?」
「彼じゃありませんか?先ほどケイちゃんを助けてくれたっていう少年は」
ウィスパーの言葉に改めて少年…もといマックを見る。赤毛で、黒と緑の服で、サングラス…
足元でジバニャンが完全に特徴と一致してるニャン、と呟いた。そうだ、この人だ。この自転車にも見覚えがある。まさかさっきの今でもう一度会えるとは思っていなかったから、すっかり油断していた。
そうだ、マックにお礼言わないと。それに落し物も返さなきゃだし。ショーンたちみたいに、仲良くなれるだろうか…
「よぉーし!それじゃあみんなで暴走自転車レースやろうぜ!!」
そんな希望を胸に、私はマックの肩を叩いた。
「あ?」
「あ、あの!さっきは助けてくれてありがとう!お礼言う前にどっか行っちゃったからから、ずっと気がかりで…」
「た、助けたってどういうこと?」
「トラックに轢かれそうになった私を助けてくれたんだよ」
「へぇー!!マックすっごいなぁ!!」
「てゆーか、よく助けれたわね…」
「まぁ、マックだから」
みんなの口ぶりからして、マックは相当すごい人なんだろう。何というか、運動も勉強もそつなくこなせてあまつさえムードメーカーの気質もあってっていう、そういう感じの。
私はポケットから彼の落し物であろう青い石のついたペンダントを、彼の手に乗せた。
「ッ!お前、これ…」
「ゴミ捨て場の近くに落ちてたの。あの場に私たちしかいなかったから、きっとあなたのかなって思って、持ってた。返すね」
ようやっと持ち主へと返すことができて一安心した私は、マックに右手を差し出した。
「改めまして、私はケイ。この街に引っ越してきました。よろしくね」
待つこと数十秒。握り返されることのない手に戸惑いながらもマックを見上げると、なんともまぁ冷めた目をして私を見下していた。
…あれ、私、何かしたかな…
「えと…こっちじゃ友達と握手するんだよ、ね…?」
背後でウィスパーとジバニャンが戸惑ってるのが分かった。私だって戸惑ってるよ。まさか握り返されないなんて思ってもみなかったから…
えっと…と視線を行ったり来たりさせていると、唐突にマックが口を開いた。
「いや、俺とお前、友達じゃねーし」
「え、」
まさか過ぎる発言に思考がフリーズした。私、面と向かって友達じゃないって言われたの初めて…
でもそっか…そうだよね。いきなり現れた日本人に友達になってよって、ちょっと気持ち悪かったよね。ショーンたちが普通に受け入れてくれてたから、ちょっと浮かれてたみたいだ。
ここは、日本とは違うんだから。
「そ、か…うん、ごめん。そうだよね」
握り返されることのなかった右手。震えそうなのを左手で押さえつけながら胸元に持ってくる。
「あ、私お母さんに郵便局言って来てってお願いされてたんだった。じゃあ、私行くね!」
「あ、うん…。郵便局の場所わかる?」
「大丈夫、昨日通ったから。またね!」
笑顔を崩さないように、ショーンたちに手を振って公園を後にする。大丈夫、こんなの低学年の時によくあったから、今更どうってことない。
「ケイ…」
「平気だよ。慣れっこだし、ただ久しぶりだったから打撃は大きかったかな。あーあ、ちょっとは新しい学校、楽しみにしてたんだけどなぁ…」
さっきまで楽しみだったのに、今じゃもうすっかり憂鬱気分だ。
USAにはフミちゃんやカンチくんたちはいない。私を引っ張ってくれていた5年2組の友達はここにはいない。だからここでは、私1人でどうにかしないといけない。
「寂しい、なぁ…」
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