▼ 4:蛇足蛇足のなんとやら
USAにて語源不自由と妖怪ウォッチが使えないことに打ちひしがれているところに、私が今まで苦労して集めてきた妖怪メダルと引き換えに全世界対応版の「妖怪ウォッチU1」とやらを手に入れてきたウィスパーを思わずぶっ飛ばしてしまったのがつい先日。知らない間に私の部屋のクローゼットに住み着いていたらしいヒキコウモリが最新型妖怪大辞典をくれたのが2日前。そしてお父さんに取り憑いていたらしいどんな言葉もペラペラな翻訳妖怪ことペラペライオンと友達になり、無事に現地住人と意思疎通できるようになったのが数時間前。スーツのよくわからない男女、確かFBYのカクリーさんとマルダーさんとか言ってたっけ…そんな人たちにUFOについて聞かれたのがついさっき。そんでもって…
「だからぁー!その一言が余計なんだよ!」
「なにをー!?」
「…ねぇ、」
「君もリッキーが一言余計だって思うだろ!?」
「なんだよショーン!僕の言ってることのどこが余計なんだ!全部ほんとのことじゃないかー!」
「…はぁ、」
とまぁ、さっきからずっとこんな感じなんだけれど…
せっかく夏休み明けから通うであろう学校の下見に来たっていうのに、どうしてこうも厄介ごとに巻き込まれてしまうのか。はなはだ疑問である。
「もの見事に巻き込まれちゃってるでうぃすね、ケイちゃん」
「あ、そうそう!ショーンがお小遣いをためてやっと手に入れたスニーカー、この前あっちのショッピングモールでワゴンセールしてたよ!」
ちょっと!またそんな火に油を注ぐようなこと言ってこの人は…!そんなこと言ったら…
「だーかーらー!!そういうのが余計だって言ってるじゃないかッ!!!」
案の定怒りを爆発させたらしいショーンはもともとの垂れ眼を吊り上げてリッキーを睨み付けた。あーぁ…
「…いつまで続くの、これ」
「まぁまぁケイちゃん、落ち着いて!どうやらこの喧嘩、この2人だけのせいではないみたいですよ?」
「というと?」
「このすぐ近くに妖怪の気配がするでうぃす。サーチしてみてはいかがです?」
「わかった」
もらったばかりのU1でさっそく周りをサーチする。本当は妖怪ウォッチなしでも妖怪は見えていたんだけれど、イカカモネ魔界議長との戦いの後、ウィスパーが妖怪エレベーターを封印するときに私が持つ人ならざるものが見える力も一緒に封じ込めてしまったのだ。…まぁ、あの時は状況的に仕方なかったしね、ウィスパーも私に危険が及ばないようにって思ってしてくれたことだから文句は言わない。…確かに、前まで視えていたものが急に視えなくなってしまったのには違和感があるけれど、慣れてしまったらどうってことないしね。
騒がしいショーンとリッキーの喧嘩を背中で聞きながらあたりをサーチすると、ちょうど彼らのど真ん中、つまり2人の間に青と黄色の妙ちくりんなニョロニョロがいた。
「…なんだお前」
「ケイ、言葉遣いが崩壊してるニャン…」
それは失礼。ニョロニョロは私が自分のことを見えていると理解したとたんちょこちょこと近寄ってくる。
「ニョロロ〜、君たち、僕のことが見えるみたいだねぇ」
「ウィスパー、名前わかる?」
「あれは…えっとぉ…イエローニョロニョロ小僧丘そんな感じ…」
「なんとなくのニュアンスで命名するのやめてくんない!?」
「ありましたぁー!あれこそ妖怪だソックス!取り憑いた人間に余計な一言をいわせて周りのテンションを下げる妖怪です!」
「なるほど、だから蛇足、ねぇ…」
こうなりゃ不祥事案は「最後の一言いらなくない?」が妥当かなぁ。とにもかくにも、さっさとダソックスをリッキーから離さないと。
「ねぇちょっと、ダソックス」
「ニョロ?」
「さっきからその2人が喧嘩して正直もううんざりしてるの。いい加減離れてくれない?」
「それは無理な相談ニョロ〜。この2人の喧嘩のネタ、出てくるわ出てくるわ面白いニョロ!」
「下衆いな…」
他人の喧嘩を面白がることほど性質の悪いものはないよ。本当は穏便に話し合いでどうにかこうにかしたかったんだけど…
まぁ今までの経験上無理そうだよね。うん、わかってた。ニョロニョロニョロ〜!と謎の笑い声をあげるダソックスを尻目に私は妖怪メダルをU1にセットし、螺旋状の光の中から出てきた私の友達はドシンッと土埃を立てながらダソックスの前に着地した。それを見てカチーン、と凍り付いたダソックスを見てどや顔一つ。
「ケイか、ワシを呼び出すなんて珍しいな。どうした?」
「スイカ食べてたのにごめんね?あのさ、あの2人に取り憑いてるこのダソックスなんだけれど…」
ギクリ、と体を揺らしたダソックス。それを知らない振りをして私はにっこりと笑った。
「追い払ってもらうことって、できる?」
「ご…ご…ごめんなさあああああああああああああああああああい!!!」
ばびゅーん!と、それは見事なドップラー効果を見せながら超高速で走り去っていったダソックス。よかった、バトルにならなくて。
「…あれ?」
「…?」
「ショーン、ごめんよ。僕、どうかしてたみたいだ…。つい余計な一言をいっちゃって、君を怒らせちゃった…」
「リッキー…ボクの方こそごめん。ちょっと怒りすぎちゃったかも…」
ようやっと仲直りできたらしい2人に胸をなでおろす。よかった、これでもう喧嘩に巻き込まれる心配はなくなったよ。お互いに笑い合う2人を横目にぽかん、と惚けるヤマトを見上げる。
「…さっきの妖怪は追わなくていい、のか…?」
「うん、いいよ。呼び出しといてごめんね?」
「いや、それは構わんが…。なぜワシがスイカを食べていたとわかったのだ?」
「口元についてるよ」
「………」
いそいそと口元のスイカを取ったヤマトはぽふん、と姿を消した。ヤマトってたまに天然だよね。見た目厳ついのにあぁいうことするから、たまにかわいく見えちゃうのは致し方ないと思う。
「いや、私的にはヤマトが天然なことよりケイちゃんの下衆い一面に脱帽したというかなんというか…」
「ん?」
「何でもないでうぃす…」
「弱ッ!」
それからというものの、ショーンとリッキーと仲良くなった私は今度2人に街を案内してもらう約束をし、夕日に照らされた帰路をたどっていった。
ちなみに余談だけど、今日の夕飯はご近所さんたちと一緒にバーベキューだった。
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