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▼ 3:後は野となれ山となれ


得てして私たち天野一家は、長時間飛行機に揺られてUSAにある私たちの新しい家、セントピーナッツバーグ、サウスモンド地区にやってきた。荷物はすでに届けられていたらしく、玄関に積まれた段ボールの中から私のものを探し出して2階の自室へと運ぶ。

…にしても。


「部屋、広ッ!」

「ベッドもふかふかニャーン!」

「こらジバニャン!来て早々遊ばないの!」


日本の私の部屋より少しばかり広いベッドにさっそく飛び乗ったジバニャンにため息一つ。


「ケイちゃん、ため息ばかりついてると幸せ逃げますよ?」

「誰のせいだと思ってんの」


私!?何もしてなくないですか!?喚くウィスパーを放置して段ボールを開ける。中身を一つ一つ出していると、部屋の前に置いていた荷物をヤマトが運んできてくれた。


「これはケイのか?」

「うん、ありがとう。わざわざごめんね?」

「構わん」


種類別に段ボールを並べてくれてるヤマトにお礼を言いつつもう一度部屋を見渡した。ベッドで未だ飛び跳ねるジバニャン。端っこでいじけるウィスパー。荷物整理を手伝ってくれるヤマト。彼らには彼らの生活があるというのに、こうしてUSAまでついてきてくれるなんてすごく嬉しい。…まぁ、口には出してやんないけれど。


「新しいお部屋だニャーン!広いニャー!」

「ちょっとジバニャン、せっかく片付いてきたのに散らかさないでよね」

「そんなことしないニャンー。どっかのふよふよと違って」

「んだとコラジバ野郎ー!!」

「喧嘩すんな!!」


ぺいッと部屋の外にジバニャンとウィスパーを放り出す。あの2人はすぐに喧嘩する。いい加減にしてほしい。もう一度深くため息を吐いて段ボールからイルカとアザラシのぬいぐるみを取り出し、ベッドの枕元に飾る。自分で言うのもなんだけれど、ぬいぐるみ一つ置くだけでこうも女子っぽさが出るなんて思いもしなかった。ぬいぐるみ強い。

…みんな、今頃何してるかなぁ


「ケイ、そろそろ家の外に行ってみてはどうだ?一日荷物整理ばかりじゃつまらんだろう」

「うーん、そうだね。せっかくだし行ってみようか」


ぽふり、と妖怪からカブトムシに変わったヤマトを肩に乗せ部屋を出る。私を見つけたとたんヤマトと同じように肩に飛び乗ってきたジバニャンをそのままにしつつ外に行くことの趣旨を伝えると、行く気満々のジバニャンと言葉を濁すウィスパー。


「それでしたらジバニャンとヤマトの3人でどうぞ」

「ウィスパーは行かないの?」

「えぇ、まぁ…私は妖怪通販で注文していた荷物をここで受け取らないといけませんので…」

「そうなんだ。じゃあ、私たちだけで行くから、お留守番お願いね」

「お任せでうぃっす!」

「行ってくるね」


行ってらっしゃいー!の声を背中で聞きながら階段を降りる。リビングで一息ついているお父さんとお母さんに外に行くことを伝えてから私たちは家を出た。
にしても、さすがUSA。同じ地球上に存在するのに車はおろか、犬までもが別のものに見えてくるから不思議だよね。


「さてと、どこに行こうか?」

「とりあえずはご近所を歩いてみるニャン。自分の家、しっかり覚えとくニャンよ?」

「迷子にならんようにな」

「ちょっと、不安を煽るようなこと言わないでよね!」


ニャハハー!と笑うジバニャンに一瞬イラッとしたけれども、とりあえずいったん落ち着いて深呼吸。


「…よし、行こっか」

「ニャン!」

「うむ」

「Hey,girl!」


いざゆかん見知らぬ土地!そう思いながら一歩を踏み出した瞬間、水を差すように背中に流暢な英語が飛んできた。ぎくり、と体が強張るのが嫌でもわかってしまった。まずい、非常にまずい。何がまずいのかと言うとどうか察してほしい。切実に。ぎぎぎ、とブリキ人形のように後ろを振り返ると、なんとも素晴らしいアメリカンスマイルを浮かべたお兄さんが手を振って…ギャーこっち来た!


「Did you just move into this house?」

「ケイ、なんて言ってるニャン?」

「わ、わかるわけないでしょ!スピードなラーニングやっても所詮は付け焼き刃なんだから!」

「えー…」

「…ともかく無視をするわけにはいくまい。ケイよ、とりあえず挨拶をしてみたらどうだ?」

「あ、挨拶、挨拶ね…!えと、えーっと…は、ハロー…?」

「hellow!my name is john.nice to meet to!」


あ、これはわかるよ!「僕の名前はジョンです。よろしく」だよね!えっと、確か…


「あっと…My name is kei.nice to meet you to…?」

「Oh, kei!It’s very cute name!」

「は、はぁ…」

「I live next door.So,let’s be friends!」


え、どうしよう全然わかんないんだけど…。あまりにわからなさ過ぎて閉口してしまった私を不思議そうに見つめるお兄さん。ちょ、首をかしげないでこっちはあなたの言葉がわかんないんだから!!


「い、イエスニャン!とりあえずイエスって言っとくニャン!」

「えぇ!?ちょ、そんな適当でいいの?!」

「仕方ないニャン!とりあえず言っとけ!」

「えッ、い…イエス!」


ジバニャンに言われるがまま叫ぶような形で言ってしまったけれど、ほ、本当にあっているのだろうか…。は、果てしなく不安だ…。
恐る恐るお兄さんを見上げると、初めこそきょとん、としていたけれど次第に満面の笑顔になっていって、何を思ったかがしり、と私の手を握った。ひぃいい…!


「Thank you!See you later, kei!」

「わ、わかった、わかったから離して怖い!勢いが怖い!」


私のあまりの必死さが伝わったのかお兄さん、基ジョンさんはパッと手を離すとぶんぶんと手を振りながら去っていた。
…あ、嵐が去ったかのよう…


「日本人にはない勢い、だな」

「あー…ケイ?大丈夫ニャン?今日はもう帰るニャン?家から4歩しか歩いてないニャンが…」

「…ごめん、今日はやめとくよ…」


せっかくジバニャン楽しみにしてたのにごめんね、私が不甲斐ないばかりに…!でも、さすがに英語が話せない理解できないそんな場所に挑むほど私は度胸があるわけではないのだ。


「こんなんでこの先やっていけるのかなぁ…」

「なぁに、心配せんでもどうとでもなる。後は野となれ山となれ、だ」

「ヤマトってこんなこと言う人だっけ…」


疲れてるんだ、私。






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