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▼ 9:穴二つ

「うーん、私にもなんの紋章やらさっぱりでうぃす…」

「だろうと思った」

「呼んどいてあんまりじゃありゃーせん?」


だってそうじゃん。口から出そうだったけれど言ったが最後面倒くさいのが目に見えてるから寸でのところで留まった私すごい。ウィスパーの何かに火が付いたのか、一心不乱に妖怪パッドを操作しているのを横目で見ながらため息を吐く。今日ため息しか吐いてないや。


「…ケイよ、それは昨日まではなかったのだな?」

「へ?あー、うん。なかったと思う。もしあったとしても多分気付くし…」

「そうか…」


それっきりヤマトは黙り込んでしまった。黙るっていうより、考え込む?とにもかくにもヤマトの邪魔にならないよう少し離れておこう。
そういえば、さっきからジバニャンが部屋の隅っこに行ったっきり一言も話していないことに気付いた。珍しいね、普段ならいの一番にウィスパーに突っ込んだりするのに。


「ジバニャン?なんでそんな隅っこにいるのさ」

「…くさいニャ」

「失礼な。さっきお風呂入ったばっかじゃん」

「違うニャ。ケイじゃなくて、それ」


ジト目で指をさすのは…私の、首元?どのみち私がくさいんじゃん。文句を言ってやろうと口を開く前に、ジバニャンがぱかりと口を開いた。


「その痣、キツネくさいニャンよ」

「へ?キツネ…?」

『妖怪になれど猫は猫。本能的に自分の嫌いなにおいは理解しているようだねぇ』

「うわッ!」


不意に響いた声に思わず飛び上がってしまった。耳で聞くというより、頭に直接響いてくるこの声にはとても聞き覚えがある。


「もしかして…キュウビ?」


ぽつり、呟くとキュウビはご名答、というように高笑いをする。ちょ、頭に響くからやめてほしいんだけど。


「やはりそうか…」

「やはりって、どういうことでうぃす?」

「おかしいと思ったのだ。ケイはここに越してからというものの、視る目を失った分あまり多くの妖怪と関わってはいないし、呪いを施すような邪悪なものとも出会っていない。そうなれば、以前ケイと契約したお前しかおらん」

「で、でもウィスパーが妖怪エレベーターを閉じたから、あれは破棄になったはず…」

『バカだねぇ、誰が破棄するって言ったんだい?それはケイの勝手な思い込みだろう?僕は君を依代にすること、諦めたわけじゃないよ。確かにあの時、ケイの中にある僕の力はなくなった。けれどそれはほんの一部に過ぎない。君の奥深くに根付く妖気は本来誰にも気づかれることはなかった。君の首元に浮かぶ二つ巴も、何かの拍子に妖気が増幅しない限り』


キュウビの言うこと。つまり、イカカモネとの戦いの時に交わした契約は、破棄されずに未だ存続していたということ。本当ならば私の中にキュウビの妖気があることに私はおろか、ウィスパーやヤマト、ジバニャンでさえ気づくことはなかったこと。けれど私の奥深くに封じられていたキュウビの妖気が、何かの拍子に膨れ上がり周囲に露骨にわかるようになってしまった挙句、本来ならば浮かばないであろう契約印が私の体に浮かび上がってしまったこと。

心臓が耳のすぐ近くにあるのではと勘違いしそうなくらいに激しく脈打つ。私の焦燥を目敏く感じ取ったらしいキュウビが、にやりと笑ったような気がした。


『…ケイ、君は一体何に触れたんだい?』


問いかけてくるキュウビに焦りだけが先走っていく。だって、私、何も知らない。触ってない。人ならざるものが視えなくなったとして、邪悪なものがわからなくなったわけではない。自分のことなのに何も知らないことが、ただただ怖かった。


「ケイ…」

「…わか、らない。わかんないよ…!」

『…まぁいいさ。契約内容はあの時と変わらない。僕の力を本当に使いこなしたければ、受け入れることだね。自分が“キツネ憑き”であることを』


それっきり、キュウビの声は聞こえなくなっていた。受け入れる、か…。確かキュウビは言っていた。キツネ憑きを受け入れているようで、深層心理では拒絶していると。人外になることを恐れているのだと。誰だってそうだ。人外になんてなりたくはない。けれど、これは私が自分で選んだんだ。あの時の浅はかな選択肢のツケが、今回ってきたのだ。


「どうするのだ。キュウビの口ぶりから、あいつはそう簡単に契約など破棄しないぞ」

「わかってるよ」


どっちにしろ、いずれ私は大切な友達を守るためにこの力を使う日が来ると思う。怖がってる暇なんてない。自分で蒔いた種だもの、自分で何とかしないと。






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