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エマニュエル・リプカ






「ああああああ!!緑の獅子が…!惑星を束ねた遺産がぁああ!!」


遠くの方でレブルの悲痛な絶叫が聞こえる。なんだか全身が怠くて重たくて、瞼を開けるのも億劫だった。


「シュエ…シュエ、起きて」


不意に優しい声が鼓膜を揺らした。優しくて、あったかくて、私の大好きな親友の声。


「エ、マ…?」

「!!シュエ…!よかった、目を覚ましたのね…!」

「ここは…あの後ってどうなって……いたッ」

「動いちゃダメよ。火傷で左腕が爛れているの」


エマに言われた左腕を見ると、なるほど、これはエグい。肩から手首にかけて真っ赤っかである。てか、あの悟飯のかめはめ波の中に自分から飛び込んだとはいえ、エマを守りながらこれだけですんだってある意味奇跡じゃね?
なんて。


「お姉ちゃんッ!!またあんな無茶して…!!こんな怪我まで…!僕がお姉ちゃんに怪我させるとか…死んでも死にきれないって言うか…!!もう!!もうッ!!」


おうふ、あまりの怒りに悟飯の語彙力が低下してきる…。これはマジのマジで怒っているやつじゃなかろうか。


「まずいですね…」


ぷんすこ怒る悟飯を宥めていると、ふとロゼさんがこぼした。


「ロゼ、どうかしたの?」

「…皆さん、あれを見てください」


そう言ってロゼさんが指をさした方を向く。そこには半壊した緑の獅子がばちんばちんと、何やら不穏な音を響かせていた。

…………あれ、もしかしてお約束のやつじゃなかろうか。


「膨大なエネルギーをコントロールしていた姫様がいなくなったことで、行き場をなくしたエネルギーが暴走を起こしています。このままでは暴走、のちにとんでもない規模の爆発を起こしてしまいます」

「エネルギーごとあれをぶっ飛ばすわけにはいかないの?」

「そんなことをしては、この大地は向こう永遠に焦土になってしまう…」

「そんな…」


一体どうすればあのデカブツをどうにかできる?
どうしたら……考えろ、考えろ、考えろ…!!

そしてふと思いついたのが、どうしたってまた誰かを悲しませるような答えなわけで。


「…あの、さ、一つだけ方法があるんたけど、聞いてくれる?」


小さく挙手して言い放つと、途端に集まる視線。悟飯に関しては何かを察したのか目が怖い。お姉ちゃんちびっちゃうぞぅ…


「あれをさ、地球外に持っていければどうにかなる?」

「地球外にって…そんなことできるわけないじゃない…!確かにあんたたちのすごい力には驚いたけど、地球外って宇宙なのよ!?どうやって…」

「瞬間移動って、知ってる?」

「は…?」

「お父さんも瞬間移動できるんだけど、あれは人が発する気を辿ってできるもので、私のは行ったことのある場所に行ける劣化版みたいなものなんだけど…」

「……お姉ちゃん」

「…悟飯、昔にナメック星に行く途中に不時着した星覚えてる?」


偽物のナメック星人に騙されて痛い目みた懐かしきかな、あの星である。悟飯も思い出したのか、若干苦い顔をした。


「あそこに緑の獅子持っていけばいいんじゃないかなって思ったんだけど…」

「…けど、仮に持っていけたとして、そこに住んでいる人はどうするの?」

「それなら大丈夫。あそこに人は住んでいないし、住めるような環境じゃないしね。…それに、もう手段は選んでられない」


さっきより一層輝きが増している緑の獅子は、どうやら爆発までそう時間はないらしい。悩んでる時間は本当にない。


「…お姉ちゃんは、帰って来れるの」

「…悟飯」

「前みたいに、一方的にいなくなられたら…。それに、地球外なんて、もう、迎えにだっていけない…」

「だったら、私も行く」


エマがとんでも発言を投下していった。
え………え…!?


「え、エマ…!?今なんと仰りました…?」

「だから、私も行くって言ってるの」

「そんな、ダメだよ!だって、地球外なんだよ!?エマにそんな危険なことさせられないし、私なら…」

「国の不手際を、これ以上なんの関係もないシュエにだけに任せられない。それに、私が一緒なら、シュエが途中で帰るのを諦めたりしないでしょ?」

「ッ…!全くもう…とんでもない親友だこと…」

「こういうのは嫌いかしら?」

「ううん、エマらしくて大好きだよ」

「ならよかった」


差し出された手をぎゅっと握る。エマの手が小さく震えているのだって、私の胸に燻る不安だって全部気付かないふりして手に力を込めた。


「だから悟飯くん、絶対にシュエは連れて帰るから、信じて待ってて」

「…わかりました。エマさん、お姉ちゃんをよろしくお願いします」

「うん、任されました」


エマを抱えて空を飛ぶ。あっという間に緑の獅子の近くにやって来て、エマを支えている反対の手で装甲に触れた。


「貴様ら、一体何を…!」

「レブル、これ以上あなたにこの世界を壊してほしくない。…シュエ!」

「おっけ、こっちも見つけた!移動するよ!」


脳裏に浮かぶは、小さい頃に沈められたクソでかいオウムガイがいる惑星。一瞬視界がぶれ、次の瞬間には見覚えのある、けれど懐かしいあの惑星の地に私たちは立っていた。


「やった、来れた…!正直遠いから結構微妙だってけど…!」

「ちょっと、どういうことよそれ!」

「うえッ…だ、だってぇー!」


ボンッ!
エマと言い合っていると突如大きな爆発音が響いた。やば、こんなことしてる場合じゃないって…!


「エマ行こう!……エマ?」


ふと、エマが項垂れているレブルに近付いているのが見えた。緑の獅子の近くにいたから、一緒に飛んできちゃったんだね。
私は2人の様子を黙って見つめた。


「レブル、このままここにいてはあなたも爆発に巻き込まれてしまうわ」

「…もう遅い。たとえ地球から遠く離れた星に装置を持ってきたところで、世界の破滅は免れない」

「…どういうこと?」

「お前も見ただろう、小娘。あの装置は7つの惑星のエネルギーを集め、1つに束ねたもの。ゆえに7つ分のエネルギーがあれに詰まっているということだ。惑星1つどころか、この宇宙自体を消すことは造作もないことだ」

「そんな…!だったら、私がしたことって…」

「無駄なことだ」


初めっから、世界の消滅を回避する方法なんてなかったってことだろうか。せめて地球じゃない別の惑星でと思って緑の獅子をここまで持ってきたけれど、それも…


「……だが、それはこのまま何もしなければの話だ」

「え…?」

「…何か方法があるの?」


レブルは無言で懐から私の拳大の大きさの宝石を取りだした。
赤のような紫のような、不思議な色彩を放つそれを見たエマは、つり目を大きく開いた。


「これは、賢者の石…!?それも完全な結晶体の!?レブル、あなた…!」

「たった一度だけ、錬成に成功した物がこれだ。ロゼも持っていたようだが、あれのは単なる欠片に過ぎない。これを私が作った特別な弾丸で砕き、飛び散る破片を繋ぎ合わせて緑の獅子を覆い、抑え込む」

「……信じろって言うの?父や母たちを殺したあなたを」

「信じなくていい。ただ、見届けてくれ」

「、………」


黙りこくる私たちを一瞥したレブルは、足元に緑の魔法陣を出現させるとふわっと緑の獅子の方へ行ってしまった。


「…エマ、どうするの?今ならあの人、止められるけど…」

「…いえ、いいえ。ここであの人を監視するわ。少しでも変な動きをしたら、許さないんだから」

「ふふ、はいはい」


やっぱりエマは、素直じゃない。






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