無理矢理神様に仕立てあげられて記憶も何も全部どっかいった夢主の話2★
俺は激怒していた。なんて、某物語の冒頭を引用するぐらいの余裕はあるものの完全に怒髪天をついていた。
あの後界王神様の元へ行き、なぜ俺とゴジータ以外の全員がシュエの事を忘れているのかを(半分脅して)問いただしたら白状したのだ。
「ゴジータ」
ゴジータの気を探り、界王神様と共に瞬間移動でゴジータの所まで飛ぶとビルス様とウイスさんが困ったように眉を顰めていた。
「ベジットか。どうだった?」
「当たりだ。界王神様がゲロった」
どうやらシュエは全王様に大層気に入られ、ずっと一緒に遊ぶために神様に仕立てあげられ、挙句に二度と帰りたくならないように記憶も何もかも全部消されたらしい。
それをゴジータに伝えると奴の額に青筋がビキリ、と浮かんだ。それを見た界王神様がどことなく気まずそうに目を逸らしたのを俺は見た。
「なぜ止めなかった、界王神様」
「む、無理に決まっているでしょう…!?全王様にそんなことしたら確実に消される…」
「だとしても、シュエの記憶が消されたんじゃ意味がない」
「ったく、揃いも揃ってお前たちは…。少しは落ち着け」
「ビルス様もビルス様だ。なぜ黙っていた」
「言う必要がないからだ」
「だから…!」
「はいはーい、頭に血が昇ってしまえば冷静になれるものもなれませんよ。ここで言い争うより、直接本人にお聞きになられてはどうです?」
「…悪い」
俺が言いたかったことを全部ゴジータに言われたからか、それともめったにこいつがここまで感情を露わにするのが珍しかったからか、きっと今の俺の顔はぽかん、と呆けている事だろう。
ふと目が合ったゴジータは、バツが悪そうにそっぽを向いた。
お前、やっぱりシュエの事大好きだろ。
「では、私が全王様の所に連れて行きます。くれぐれも穏便に…」
「…まぁ」
「向こうの出方と言い訳次第だよな」
「……………………」
当然だろう。俺たちの大事なシュエを奪ったんだ。下手に言い訳するようなら例え全王様だろうと容赦はしねぇよ。
* * *
カツカツ、独特の空間に4人分の足音が響く。なぜかウイスさんも着いてきていたが、建前は「俺たち2人が頭に血が昇らないように」だなんて言ってるけど、あの顔はどう見ても面白半分だと思う。
「お2人がシュエさんの事を忘れなかったのは、きっと精神と時の部屋にいたからでしょう。あそこは外部からの要因を完全にシャットアウトする作りになっていますので、全王様の力も精神と時の部屋にまでは影響をきたさなかったのだと推測します」
「なるほど、だから俺とゴジータ以外の人間がシュエの事を忘れてたのか…」
「…酷なことを言いますが、今から会うシュエさんはあなたたちの事はおろか、私たち界王神の事一切を忘れています。ただ彼女の中にあるのは全王様への絶対的な忠誠のみ。それをお忘れなきよう」
「…わかってるさ」
そうして辿り着いた大広間。全王様の玉座があって、その両脇に控える衛兵。そのすぐ近くで全王様と折り紙を折るシュエがいた。
「あれは、シュエなのか…?髪が真っ赤じゃないか。まるで…」
「超サイヤ人ゴッドみたい、でしょう?あれは神の気を纏っていますので、彼女が神へと成り代わった今、同じ現象が起きていても不思議ではありませんよ」
「そうか…」
「ねぇシュエ、ここからどうするのね?」
「次はここを開いて、そしたらこう折るんですよ。最後に翼を広げたら…ほら、鶴になった」
「わぁー!やっぱりシュエはすごいのね!次、次教えてほしいのね!」
「でしたら今度はくす玉を作りましょうか。これなら鶴より簡単ですし、完成したらとっても綺麗ですよ」
「本当!?作ろう作ろう!」
まるで幼い弟の面倒を見る姉のような光景にひどく懐かしさを感じた。シュエもああやって幼い頃、悟飯の面倒を見ていたな。
「ベジット」
ゴジータが頷く。そうだ、ここで地団駄踏むために俺たちは来たわけじゃねぇ。多少なりとも、一切俺たちの方に顔を向けないシュエにショックは受けたけれど、もしここであいつを取り返さなければ一生後悔する。
一度、深く深呼吸をしてシュエと全王様の方へ足を踏み出した。
「シュエ」
「?」
きょとり。シュエの赤い双眸が瞬きながら俺を見上げた。やっと認識してくれたとか、俺を見てくれたとか、思うことは色々あるが今はそれらを全部胸にしまいこんで床に座り込むシュエと同じ目線までしゃがんだ。
「こんにちは。全王様にご用事ですか?でしたら申し訳ありません、私が遊んでいたばかりにご来訪に気付かず…」
「…いや、俺が用があるのはお前だ」
「私、でしょうか…?」
聞きなれないシュエの敬語。他人行儀。まるで心の壁。否、それどころか今の俺は記憶がぶっ飛んだシュエからしたら初対面なわけで。がしがしと後頭部をかいた。
「シュエ、俺はお前を迎えに来たんだ」
「私を…?」
「君、誰?どうしてシュエを覚えているの?どこへ連れて行く気?シュエは僕のなのね。君の事は知らないけど、シュエを連れて行くのなら消しちゃうよ」
「孫悟空の友達だって言ったら、どうする?」
「悟空の…?」
「そうだ。俺は孫悟空の友達で、あいつの娘であるシュエを返してもらいに来た。ただそれだけだ」
「悟空は好きなのね。けど、それよりもっともっと僕はシュエが大好きなのね。だから悟空の頼みでもシュエはあげない。それに、皆シュエの事知らないし、シュエも皆の事を知らないから、シュエが帰ったって誰も何も思わないのね」
「俺たちは覚えている!!」
幼い頃から見守っていた。彼女の前に姿を現し、交流した時間こそ短いとはいえ、少なくとも俺にとってシュエはかけがえのない存在に変わりはない。
くるり。ぽかんと何を考えているのかわからない顔をしているシュエに向き直り、そっと両手を握った。
「ッ…!」
「シュエ、俺はお前を一度たりとも忘れたことはない。子供心を忘れないようないたずらも、人を小馬鹿にした腹立つ物言いも、呆れたようなため息も、悟天たちと一緒になってはしゃぐ姿も、ふとした瞬間に見せる柔らかい笑顔も、全部、全部覚えている。それどころか、お前がいなくなって、俺の中でのお前がどれほど大切な存在になっていたか逆に思い知った。
…なぁ、シュエ…愛しているんだ。お前を愛してしまった。お前がいないと寂しいんだ…。お前を思い出にしたくない。お前がいないと意味がないんだ」
こつり、シュエの額に自分のそれをくっつける。ふと、間近で見開かれた赤い目から一粒、また一粒と涙が零れ落ち、そしてしとどに溢れ出ているのに気付いた。
「帰ろう、一緒に。そして俺と未来を歩いてくれますか?」
「………………ぅ…」
「…!シュエ…?」
「…かえり、たい……」
「!!」
バッ!とシュエを見下ろす。依然髪や瞳は赤いままだけど、いちごジュースみたいな涙を流すシュエは確かに“俺”を認識していた。
「わた、し…かえりたい…みんなのところに、帰り、たい…いつもみたいに馬鹿して…ブルマさんの手伝いして…ゴジータさんやデンデくんとお茶して…ベジットさんと、なんでもない事で言い合ったり、笑ったり、泣いたり…」
じわり、じわりとシュエの髪が赤から黒へ。
そして…
「ベジットさんの未来に、私をいさせてくれますか…?」
完全に赤が消えた時、シュエは不細工に泣きながら笑っていた。
「馬鹿じゃねぇの…。男に二言はないんだよ…!」
そうして騒動は終焉へ
あの後、どういうわけか消えたはずの記憶が戻ったシュエは駄々をこねる全王様をどうにか説得し、俺たちと一緒に地球に戻った。
全王様によって記憶の消された人間たちはドラゴンボールで記憶を修復してもらい、今ではあの騒動がなかったかのように今までと変わりない生活を送っている。
……は?そんなことはどうでもいい?欲張るねぇ、あんたも。
「なんか、変な感じだなぁ。いつも神殿で会ってるベジットさんと改めて街で会うなんて」
「そう言うなって。女ってこういうの好きなんだろ?」
「いや、私は別に今まで通りでも構わないんだけど…」
「………お前、本当に女か?」
「失礼なッ!れっきとした生物学上女じゃい!」
「へーへー」
「ぐッ…ハラタツぅう…!!」
まるで子供のように地団駄を踏むシュエが心底面白い。
くつくつと喉の奥で笑ってやると、それに気付いたシュエはぷんすこと怒り出していよいよ手が出てきた。
いて、いてッ…!ちょ…!
「本気で殴ることないだろ…!」
「ワタシ、サイヤ人、ホンキチガウ」
「腹立つ…!そんなこと言う奴にはこうだ!」
「むッ…!?」
小憎たらしい言葉しか吐き出さない口を塞いでやれば、途端に顔を真っ赤にして黙りこくるシュエが心底愉快でたまらない。
これだからお前って奴は可愛くて仕方がないんだ。なんて、さすがに照れくさいので口には出さない。
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ベジットさんに夢見た産物。あの人絶対こんなこと言わなさそう。
果てしないコレジャナイ感が否めない方は申し訳ありませんでした。が、管理人は反省も後悔もしておりませぬ。
ちなみに捕捉ですが、ゴジータさんがシュエちゃんに向ける感情は恋愛とかではなく、庇護と言うかほっとけない妹みたいなそんな感じのふわっとしたもので、かと言ってベジットさんに対して「貴様にシュエはやらん!」みたいなところもあったりラジバンダリ。
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