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無理矢理神様に仕立てあげられて記憶も何もどっか行った夢主の話★



不思議世界観。
ベジットとかゴジータが普通に神殿にいる。
悟空とベジータと別物。
完全妄想。
ベジット寄り。





「シュエはなんでも知っていて、一緒にいるととっても楽しいのね!でも、シュエのおうちはここじゃないから離れ離れになるのは僕とっても寂しい…。あ、そうだ!シュエが神様になれば、ずーっとここで僕と遊べるのね!」


唐突に言われた言葉を処理しきれずにぽかん、と呆けた私とお父さんだけど、口からこぼれた言葉は「…え」だなんて間の抜けた平仮名1文字だけだった。


「ぜ、ゼンちゃん…?そりゃ一体どういう…」


いいこと思いついた!と言いたげに笑顔を見せる全王様。戸惑うようにお父さんが声を上げる。誰だ、この闇落ちした悟飯みたいなセリフ吐いているのは。シュエちゃんおっかなびっくり…。

だなんて、ボケてはみるものの私も相当戸惑ってるみたい。というか、戸惑う通り越してもはや無であった。

しかし全王はそれに気付いていないように小さな手で私の手を握った。


「人間はすぐに死んじゃうのね。けど神様になれば死なずにずっとずーっと僕と一緒に遊べるね。僕、シュエのことすっごく気に入ったからシュエがほしいのね!」

「う、うん…?」


そもそもの事の発端は、友達が欲しいから誰か紹介してくれみたいな事を言われたお父さんが、何を思ったかブルマさんの手伝いをしている私を担いでここに連れてきた事にある。
宇宙の神々の頂点に君臨しているらしいこのすっとぼけたお顔の全王様の言う通りに一緒に遊んでいたら、思いのほか私をお気に召した様子。そうして冒頭のセリフに至るのである。

………うん、さっぱりわからん。


「まいったな…。さすがにシュエをやるわけにはいかねぇし…」

「全王様、お2人が困っていますよ。また明日来ていただくわけにはいかないのですか?」

「そうだよ、私ならいつでも暇だからさ、また明日来るよ。ね?」

「うるさい。僕はシュエがほしいのね」

「おうふ」

「……ただ神様にするだけじゃダメなのね。思い出があるからシュエは僕と遊んでくれない。なら、シュエの思い出もなにも全部消えちゃえ」


ちょ、待て待て待て!なんだそのヤンデレた彼氏のようなセリフは!!マジでビビるわ!

なんて、戦慄いてはみるものの全王様は、ぱちん。まるでシャボン玉を弾くかのように私の額を弾いた。

仰け反りこそしなかったけれど、途端に目の前を真っ赤な光が弾ける。まずい。そういう顔をした大神官さんが視界の端で慌てて止めに入ろうと一歩踏み出したのが見えた。


そして、暗転。





* * *


最近シュエを見かけない。
そう思ったのはたまには体を動かさないと鈍りきってしまうためと、精神と時の部屋でゴジータと修行をして出てきてしばらくしてからだった。
いつもは2、3日に1回くらいのペースで神殿に遊びに来るシュエが、ここ数週間めっきり姿を見せないどころか、気さえも感じられない事に嫌に胸が騒ぐ。

あいつの事だから「気を完全に消した状態をいつまで継続できるか実験〜」だなんて飄々と言ってのけそうではあるが、どういう訳か胸騒ぎは収まるどころか逆に一層激しくなるばかりであった。


「…そんなに気になるのなら会いに行けばいいだろ」


ぽっかりと浮かぶ神殿の縁に腰掛け下界を見下ろしていた俺の背後から、ゴジータが呆れたように野次を飛ばしてきた。うるせーな、ゴジータには関係ないだろうに。


「露骨に目の前でソワソワされるのが嫌なだけだ。何を意固地になっている?」

「べつに意固地でもツンデレでも天邪鬼でもなんでもねーよ」

「誰もそこまで言ってない」

「……………」


しまった。俺としたことがいらんことまで口走ってしまった。
相変わらずいけ好かないツラして俺を見下ろすゴジータがなんだか癪だったが、ふん、と顔を背けてやって再び目線を下界にやった。


「………シュエの気を感じない」

「それは俺も気にはなっていた。デンデに聞いても、俺達が精神と時の部屋に入っている間に強大な敵が現れたわけではなさそうだから、死んだという線はないに等しい」

「そもそも、仮にシュエが死んだとしても悟空たちが黙っちゃいねぇだろ」

「だからおかしいんだ」

「…どういうことだ」

「…シュエの気を感じないと言うのに、悟空たちがシュエを探しているそぶりがない」


ゴジータの言葉を聞き終わる前に俺は神殿から飛び降りた。後ろでゴジータの気が動くのを感じながら空を翔ける速度を上げる。そうしてまずたどり着いたのはシュエの実家でもあるパオズ山であった。

コンコン。扉をノックすると聞きなれた高い声。視界の端でゴジータが降り立った。程なくして開いた扉の向こうからミニマム悟空が姿を見せる。


「よ、悟天。元気か?」

「あ、ベジットさん!ゴジータさんも!どうしたの?お父さんならお母さんと買い物に行ってるけど…」

「まぁ、あいつにも用はあるがまずはお前に聞きたいことがある」

「なに?」

「シュエを知らねぇか?あ、いや別に心配してるとかそんなんじゃなくて、ただ最近姿を見かけないからどうしてるかなと」

「シュエって、だれ?」

「思って…だな………………は?」


一瞬なにを言われたか理解できなかった。聞き間違いか。俺も歳か。なんて。


「悟天、お前の姉さんだぞ?知らないはずは…」

「え?僕にねーちゃんなんていないよ?」

「……悪い、邪魔するぞ」


ひどく嫌な予感がした。固まる俺を押しのけてゴジータが家の中に入っていく。どうにか我に返った俺も後に続き、勝手知ったるシュエの部屋に近付くにつれ嫌に心臓が騒ぎだす。
そうして、とある部屋の前で立ち尽くすゴジータの後ろから部屋を覗き込んで、絶句した。


「なん、で………ここ、あいつの部屋だろ…?なのに…なんで物置になってんだよ…!」


壁一面にぎっしりと本が詰まっている本棚も、シュエがお気に入りだと言っていた人をダメにするソファも、子供の頃から使っているらしい勉強机も、全部が全部、初めからそこに存在していなかったかのように何もかもがなくなっていた。


「どういうことだ…」

「そこは昔から物置だよ?」

「そんなはず…」

「悟天ちゃん?姿が見えねぇけどもちゃんとお勉強して……って、ベジットさんたちじゃねぇだか!」

「お、二人とも来てんのか!?なんだ、来るなら来るって言ってくれりゃいいのに!どうしたんだ?そんな怖ぇ顔して」

「お、おいチチ、悟空…!シュエは…!シュエはどこに行った!?ここはあいつの部屋で、なんで物置になんて…!これじゃあまるであいつが…!!」

「おい、落ち着けベジット!」


思わず悟空に掴みかかった俺をゴジータが引き剥がす。相当取り乱していたらしい俺はとりあえず深呼吸するものの、一向に落ち着ける気配がしなかった。


「そ、そうだべ!話が全く見えねぇし、そもそもそこは悟飯ちゃんが生まれた時からずーっと物置だ!?」

「さっきから悟天もお前も何言ってんだよ!シュエはお前の…!お前らの娘だろ!?なのになんでそんなこと…」

「なぁベジット、シュエって誰だ?」


そう言い放つ悟空に今度こそ頭が真っ白になった。





「…………誰も、シュエを覚えていない…」


あの後、知り合いという知り合いを片っ端から訪ねてシュエの所在を聞いたが、帰ってくる答えは全員同じだった。
そのあとは、自分がどうやって神殿に帰ってきたのかさえよく覚えていない。

悟空のすっとぼけたあの顔。初めこそたんなるおふざけかと、今この状況でと怒り狂いそうになったが、よくよく考えると悟空はそんなしょうもない嘘はつかないことを思い出した。
亀仙人の爺さんも、クリリンも、ブルマも、ベジータも、あいつの親友であるエマでさえ誰1人としてシュエを覚えている人間はいなかった。それどころか、初めっからシュエという人間は存在していなかったかのようにあいつに関する痕跡全てが消えていた。

そこで浮かび上がるのが、じゃあ逆になんで俺とゴジータだけはシュエを覚えているのか。


「なんで、あいつばかり…」


つくづく、あいつはそういう星の巡りなのかなんなのかと思う。けれど、これしきのことでこの俺が諦めるわけがない。


「…宛はあるのか」


ふと背後にゴジータが立っていることに気付いた。こいつが近付いている気配すらも感じれないほど考え込んでいたのか。くそ、なんか癪だな。


「ないと言えば嘘になる。デンデには誰かの記憶を消すことはできないし、地球に何者かがやってきたわけでもない。それなら、界王神様たちに話を聞くのが手っ取り早いと思った」

「ま、妥当だな。なら俺はビルス様のところに行ってきてやる。お前は界王神様を当たれ」

「仕切ってんじゃねーよ」

「ふん」


ゴジータは鼻を一鳴らしすると、瞬間移動でビルス様のところに行った。なんだかんだ、あいつもシュエが絡むといつもの澄まし顔崩れるくらいには焦るらしい。






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