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沙羅様からリクエスト



夢主の姉視点




「う…」


目が覚めると、知らない天井がぼやける視界に入ってきた。なんだかぼんやりとする起き抜けの頭を動かし、ここがどこかを認識する。どうやら私はベッドに寝かされていて、ここは知らない部屋のようだ。知らない天井、壁、家具……一体ここは…?

そこまで考えて、私の脳裏に今までに起こった出来事がフラッシュバックした。生活費を稼ぐために始めた風俗の仕事。別れた彼氏。そして…たった一人の妹の頬を打ち、その彼女が出て行った部屋で首を吊って自殺したこと…
あの時私は確かに死んだはず。首が荒縄によって圧迫され、苦しみながら息絶えようとした感覚は今この瞬間でも覚えているもの。

…なぜ、私は生きているのだろうか。


「あら、起きたのね」


そんなことを悶々と考えていると、この部屋のドアが突然開き、ここの主であろう女性がドアからひょっこりと顔を出した。きれいに切りそろえられた髪に、快活そうな顔。彼女は私の傍まで歩み寄ると、サイドテーブルに水の入った透明グラスをことり、と置いた。


「水だけど、飲める?」

「ぁ…は、い…」


彼女に手伝ってもらいながらどうにか上体を起こし、ゆっくりとグラスに口を付ける。乾ききった喉を通り抜ける水の感覚が何とも言えなくて思わず眉間にしわを寄せる。


「あなた、うちの庭で倒れてたのよ?」

「そう…なんですか…?」

「覚えてない?」

「…なにがなんだか…目が覚めると、私はここにいたので…」

「そう…」


彼女は名前をブルマと名乗った。彼女…もといブルマさんはここ、カプセルコーポレーションと言う会社の、社長の娘さんのようで、彼女も同じくしてここで働いているのだそう。若いのに偉いなぁ…。なんて思った。


「私は的場深月と言います。"深い月"と書いて、深月」

「へぇ…いい名前ね」


お互いに自己紹介をし、私は自分の状況を多少なりともぼかしながら彼女に詳しく話した。彼女曰く、世界的に有名であるはずのカプセルコーポレーションのことを私は知らないこと。私が住んでいた場所にはカプセルだなんてものは存在しないこと。ここには私のと席が存在しないこと。たった一人の妹がいたこと。そして、それらを踏まえて信じてもらえないかもしれないけれど、私が違う世界から来たこと。

私の話を聞いたブルマさんは考え込んでしまったようで、うーん…と顎に手を当てて唸る。


「…やっぱり、変な話よね…違う世界から来ただなんて、私自身信じられないのにそんな…」

「いえ…信じられるわ」

「え?」

「1人心当たりがあるの。あなたと同じように違う世界から…正しくは、違う世界の記憶を持って生まれた子を。その子と会えば、もしかしたら何かわかるかもしれないわ」

「ほ、本当に!?」

「確証はないけどね。ちょうど今日、その子がうちに来るの。その時に紹介するわね」

「あ、ありがとう・・・!」


ブルマさん曰く、その子の名前はシュエちゃんと言うらしく、つも明るく元気な子で、時々ブルマさんがシュエちゃんの勉強を見てあげているらしい。


「ブルマさぁーん!」


その子のためにいちごパフェを用意したブルマさんと、今後の私についてどうするかを話し合っていたら、ふと遠くの方から可愛らしい女の子の声が聞こえた。私が振り返るのと、女の子がバルコニーに降り立つのはほぼ同時だった。


「えッ・・・!?今、空から・・・!?」

「こんにちはブルマさん、ちゃんと宿題やってきたよ」

「やってきてなかったら拳骨じゃすまないわよ」

「怖い!」


見た感じ14歳くらいの年齢だろうか・・・彼女がシュエちゃんかな?私はドキドキと早鐘を打つ心臓を抑えて彼女に話しかけた。


「あ、あの・・・」

「あ、そうそう。シュエちゃんに会わせたい人がいたの。紹介するわね」

「合わせたい人?」


ついに、私とシュエちゃんの目が合う。黒曜石にはめ込んだ様なくりくりとした大きな目、それらを縁取る長いまつげが目元に影を落とし可愛らしい顔立ちを際立たせていて、同じ同性なのに思わず息を呑んでしまった。

だから、彼女の大きな目が一瞬驚愕に見開かれたことなんて私にはわからなかったのだ。

私は精一杯の笑顔を浮かべ、シュエちゃんに向き直る。


「、・・・ま、的葉深月です。ブルマさんからあなたの話を聞いて、会ってみたかったの」

「深月さんはね、多分シュエちゃんと同じ世界から来たみたいなの。だから、彼女が帰れるまで話し相手になってあげてくれないかしら?」

「話し相手・・・ですか・・・」

「えぇ。・・・シュエちゃん?大丈夫?」

「へ?・・・あぁ、うん、大丈夫。話し相手だよね?大したものは話せないけど、私でよければ」

「わ、本当?嬉しい!ありがとうシュエちゃん!」

そう言って私はシュエちゃんの手を握った。彼女の手は私よりも小さいのに、所々マメがあって少し固かった。

それからというものの、ブルマさんは私が元の世界に帰れるまでカプセルコーポレーションで働く代わりに衣食住を提供してくれたり、シュエちゃんのご家族と仲良くなったり、どちらとも私にとてもよくしてくれてほんの数日しか経っていないけれどとても濃い日々を過ごしている。
シュエちゃんはあの日言った通り、わりと細かい頻度で私の元へと来てくれている。その日あった出来事とか、彼女の知人のクリリンさんがどうこうしたとか、亀仙人さんという方はセクハラ魔人だとか・・・
初対面であるはずなのに、シュエと会話が途切れることはなかった。なぜならシュエちゃんは話上手で、同時に聞き上手でもあったため相手の話に上手に相槌やコメント、話す時はおもしろおかしく。とにかく彼女は会話が上手だった。
私も、シュエちゃんにいろんなことを話した。たった1人の大切な妹がいたことや、私の身の上話とか。

・・・そういえば、妹も口下手に見えて誰かと会話するのがとても上手であった。だからか、シュエちゃんとお話していると、時々妹と会話している錯覚に陥る時がある。


「それでね、悟飯ってばずーっと同じことで説教してくるんだよ」

「へぇ、そうなんだ」


シュエちゃんの話からはよく悟飯くんという男の子の名前がよく出てくる。悟飯はシュエちゃんの弟さんの名前で、姉弟そろっていつも仲良し。楽しそうにじゃれあう2人を見ていると、私と雪がまだ仲違いしていなかった時期を思い出して時々心臓のあたりが痛くなるときがある。


「お姉ちゃん!」


噂をすればなんとやら。例の如く空を飛んでやってきた悟飯くんはなんだか切羽詰まったような感じがした。そして地面に降り立つや、一気にシュエちゃんに詰め寄った。


「うわッ!悟飯どうしたのさ?そんな怖い顔して・・・」

「・・・何もない?」

「へ?」

「どこも、何もない?」

「怪我のこと?いや、どこも怪我してないけども・・・」

「・・・・・・そう、ならよかった。じゃあ帰ろう」

「え?」

「は?ま、待って悟飯、私はまだ・・・」

「僕が気付かないと思ってたの?ダメだよ。そんなの幻想でしかないんだ。お姉ちゃんはもうあっちの人間じゃないんだから」

「けど・・・」


・・・いまいち話が見えないけれど、いつも仲良しの2人がこうして言い合いをするのは珍しい。悟飯くんはちらりと私を一瞥したあと、シュエちゃんの腕を掴んで少し強引に引っ張って行った。


「ちょっと、悟飯!」

「あと一つでドラゴンボールが全部集まるから」

「、・・・」

「変に情が移らないうちに、今から離れるべきだと思う」


悟飯くんがシュエちゃんになんて言ったかは聞こえなかったけれど、彼にとって私がよろしくない存在だということはなんとなくわかった。


「深月さん、ごめんね!また今度!」

「うん、またね」


それを境に、私がシュエちゃんと再び出会うことはなかった。カプセルコーポレーションにいる間、時々は見かけたりするのだけれど、私がシュエちゃんに話しかけようとすると、決まって誰かが先に彼女をどこかへ連れていく。まるで私とシュエちゃんを合わせないようにしているみたいで、なんとも言えない虚無感が胸に蔓延る。私は異物なのだと突きつけられたようだった。

ブルマさんたちはとてもよくしてくれている。けれど、今までに感じたことがなかった警戒心が私に対して時々滲み出るのはどうしてか、考えても考えてもわからなかった。


そして数日後。


「ドラゴンボールがようやく集まったの」

カプセルコーポレーションでのお手伝いをしている時だった。ふとブルマさんが近付いて来たかと思えば、そんなことを言った。ドラゴンボールとは一体何なのだろうか・・・

ブルマさん曰く、ドラゴンボールとは7つ全部を集めるとなんでも2つまで願い事を叶えてくれる魔法アイテムらしい。この世にそんなものが存在していたなんて少しチートだと思ったり思わなかったり。


「ドラゴンボールで元の世界に戻りたいと願えば、神龍なら叶えてくれるわ」


ブルマさんはそう言うけれど、今よく考えてみれば、私は元の世界でもう既に死んでいる人間なのだ。今更戻ったところで私の魂はあの世界にはない。なんなら、存在すら消えてなくなっているのかもしれない。死んだ人間が元の世界に帰るとどうなってしまうのだろう。考えれば考えるほど、未知なる恐怖に全身が震えだしそうであった。

・・・けれど、それでも私は帰らないといけない。なぜなら私は死者で、シュエちゃんは転生者。もともとこの世界に存在していた子。いくら同じ世界で生きていたと言えど、私たちの間には生と死の大きな違いがある。


「そっか・・・。寂しくなっちゃうな、せっかくみんなと仲良くなれたのに」

「・・・そうね」






そして、次の日。今日は私がドラゴンボールで元の世界に帰る日。同時に、私と言う命が輪廻転生の輪に還る日。
カプセルコーポレーションの広い中庭に置かれた7つのドラゴンボールを囲むように集まるブルマさん一家と、孫家のみなさん。けれど、その中にシュエちゃんの姿はなかった。

ブルマさんが神龍を呼び出す。龍の神と、その名に相応しい神々しさに怖じ気付くけれど、後ずさりそうになる足をどうにか地面に縫いとめる。


「願いを言え。どんな願でも2つ叶えてやろう」

「深月さん」

「・・・はい、」


昨日、ブルマさんに神龍への願いは2つとも私が使ってもいいと許可を貰った。だからずっと考えていたんだ。


「1つ目の願いは・・・この世界の人たちの記憶から、私の存在を消すこと。2つ目は、私を元の世界に戻すこと」

「いいだろう、叶えてやる」


そうして神龍の目が赤く瞬く。するとブルマさんや孫家の人たちの様子ががらりとかわり、神龍の力によって私の記憶がなくなった彼らは敷地内で神龍を召喚する見ず知らずの私を不審な目で見てきた。・・・これでいい。私はどうせ死にゆく運命なのだから、どうせなら変に名残惜しくならないようにしないと。


「1つ目の願いは叶った。2つ目の願いも叶えてやろう」

「うん、お願い」

「ちょっと待って!」


そう神龍が言った。瞬間、私と神龍の間に小さな影が飛び込んできた。小さな影・・・もといシュエちゃんはざわつく周囲を気にもせず、一直線に私の目の前にまで歩み寄ってきた。
相も変わらず強い意志のこもった黒曜石が私を射抜く。


「私だけ仲間はずれだなんて、ずるいよ」

「シュエちゃん・・・あなた、記憶は・・・?私のこと覚えてるの?」

「・・・深月さんが何を思ってるかだなんて私にはわかんないけれど、私と深月さんは同じだよ。今住んでる世界が違っても、元々の私たちの根本は同じなんだから。だから、例えみんなが深月さんのことを忘れても、私は絶対に忘れない。それは神龍の力を持ってしても覆せないことだから」

「シュエちゃん・・・」

「あと、これ」


そう言ってシュエちゃんが私に手渡したものは、ビーズ細工の施された細身のブレスレットだった。それは、私が生前彼氏からの初めての誕生日プレゼントでもらったもので、その事は彼氏と妹しか知らない。そして、ましてやこの世界では誰ひとりとして知る者はいない。なのに・・・


「これ・・・」

「あげるよ。・・・雑貨屋さんで似たようなもの見つけたから、思わず買っちゃったんだよね」


瞬間、私の中でパズルのピースがかちり、とはまる。


「神龍、深月さんの2つ目の願い、叶えてあげて」

「いいだろう」

「ま、待って・・・!待ってシュエちゃん!私、まだあなたに聞きたいことが・・・!」

「聞かなくてもわかるよ。だって私たちは同じなんだから」


途中からなぜシュエちゃんと会えない日々が続いたのかようやく理解した。それは、きっとブルマさんやチチさん、悟空さん、そして悟飯くんがシュエちゃんの転生前のことを知っていて、なおかつみんながみんな、今のシュエが大切で大好きだから。だから原因である私を彼女に近付けさせたくなかったんだ。


「私はあの時、大切な人を最悪な形で傷付けてしまった。取り返しようのない悪夢のようなあの時。・・・私、きっと深月さんと同じことを思ってる」


意識がどんどん薄れていく。ふと自分の両手を見下ろすと、意識だけではなく体も透けていっているようだった。


「今さら許して欲しいだなんて思わない。けれどこれだけ言わせて。・・・私は、今までもこれからも、なんと言われようと姉さんが大好きなんだから」


視界がほとんど白んで見えない中、私は最後の力を振り絞って叫んだ。


「私も・・・!!私も大好きよ!ーーー・・・雪!!」





「お姉ちゃん、終わったー?」

「だから、あんたは来るの早すぎなんだってば。私んとこ今授業終わったところだから」

「シュエ、ちんたらしてるとおいて帰るわよ」

「ちょ・・・エマまでどんだけなの!?どんだけ帰る用意早いの!?」

「なぁシュエ、俺ここわかんない」

「また明日なナガト。私は今お前に構ってる暇はない」

「ひどい!」


今日も今日とてシュエちゃんの周りは大変賑やかです。相変わらず授業が終わった瞬間にやってくる弟の悟飯くん。シュエちゃんの一番の親友のエマちゃん。最近わんこ化しつつあるナガトくん。
私の趣味は人間観察。それと、最近はいつ見てもおもしろい彼女たちのやり取りをこっそりと横目で見るのが塾に来る時の私の楽しみとなりつつある。


「てんてーばいばい!」

「こらシュエ!ちゃんと“先生”と発音しろ!」

「先ちゃんばいびー」

「悪化してるぞ!」

「気にしない気にしない!あ、またね!



ミツキさん!」

「はい、また明日!」


だって私は、大切な妹を見守るしがないクラスメイトAですから。
いつの日かあの子から貰ったブレスレットが右の手首できらり、と瞬いた。





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沙羅様、この度はリクエストしてくださってありがとうございました!そしてたいへん長らくお待たせいたしまして本当に申し訳ありません…!!
シュエちゃんのお姉さん視点でのお話は、本編を執筆中はそういえば考えていなかったなと思い書かせていただき、とても楽しかったです。

そして本編にてセルゲーム編で執筆した際にさりげなく出てきたモブAさんが実は・・・っていう話。
ご希望に沿っているかはわかりませんが、こんなものでよろしければどうぞお納めくださいませ…!!

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