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ちゅーがしたい






わけがわからない。
そう言いたげに眉を顰めた帆波先生がもぞり、と手を動かすから、俺はその手が動かないようにぐっ、と力を入れ、机に押し付けた。

事の発端は、別段どうってことはない。いつもは小間くんやマタロウたちと一緒に食べる昼飯を断って、帆波先生と一緒に食べようと購買で買ったパンを片手に意気揚々と保健室へ行っただけだ。
そうしたら園等先生が、学園長に用事があるとかで保健室を出て行って俺と帆波先生2人っきりになった。初めこそ楽しく(俺が一方的にではあるが)喋ってて、それに先生も相槌を打ってくれて、けど、帆波先生が唇を動かす度にそれが気になって気になって仕方がなくて、なんとなく、ちゅーしたいな、なんて。
気付いた帆波先生を机に押し付けてた。


「…寺刃くん、ここがどこだかわかってるのか」

「ごめん、先生…けど…」

「百歩譲ってなつきちゃんが戻ってくるのはいいとして…いやダメだけど…。万が一誰かが入ってきたらどうする」

「ッ…」


わかってる、わかってるよそんなこと。俺たちの関係を知っている園等先生ならまだしも、もしこんなところ誰かに見つかろうものなら、帆波先生はきっとこの学校にいられなくなる。俺だって停学になるかもしれない。
…でも、それでも…


「俺、帆波先生とちゅーしたい…」

「、…」


じ、と帆波先生の目を見つめて言うと、わかりやすくたじろいだ。なんだかんだ、先生が俺には弱いことを知っている。それと、先生は目を見て話すのが苦手だから、こうしてまっすぐ目を見つめると…ほら、ほんのりほっぺが赤くなった。


「だめ?」


眉を垂らしてそう言えば、先生はきゅ、と唇を噛んだ。そんなに強く噛んだら痕になってしまう。そう思って先生の噛み締めた唇に触れようと顔を近付けた。


「…ダメだ」


…ら、唇に触れる寸前で帆波先生がさっと手を差し入れたから、俺は帆波先生の唇じゃなくて手のひらにちゅーをしたことになる。
それがすごく面白くなくて眉を顰めてみても、先生はまるで取り合ってくれないみたいに俺の顔を押し返した。


「何度も言うけど、ここは保健室だ。それに、もうすぐ昼休みが終わる。予鈴が鳴る前に教室に帰りなさい」


…先生は俺を子供扱いしてばかりだ。たしかに先生からすれば俺はずっとずっと年下で、弟みたいなものだけど、俺は先生が大好きだからちゅーもしたいし、それ以上のことだって先生とできたらなって。

しゅん、と俯けば先生が動揺した気配がしたけど、ちょうどそのタイミングで予鈴が鳴ってしまったため、それに気付かないふりをして先生から離れた。


「じゃあ帆波先生、また放課後!」


にっかり、いつものように笑う。じゃないと、なんとなく泣いてしまいそうな気がした。全くもって俺らしくない。


「、…ジンペイくん」

「何?帆波せんッ…」


ついさっきまで机に座っていた帆波先生が気付いたら目の前にいて、唇に柔らかいものが触れたと思ったらゆっくりと先生の顔が離れていった。え?


「え????」

「そんな…泣きそうな顔をしないでくれないか…君がそんな顔をしていると…どうしたらいいかわからない…」

「…」


思わず口を押さえた。だって、だって、だって!!
身体中の血液が沸騰してるみたいに全身が熱い。今にも燃えだしそう。もしかして、これが所謂人体自然発火ってやつなのかな。
呆然と帆波先生を見上げていると、先生も恥ずかしいの限界が来たのか茹でダコみたいに顔が真っ赤になった。


「…ぅ〜……!」

「!ど、どうしたんだ…?もしかして、嫌だった…?」

「嫌じゃない…も…先生好きぃ…」

「!!」


とうとう帆波先生が顔を抑えて蹲ってしまった。いや、でも、俺も蹲りたいから。浜があったら泳ぎたいくらいだから(穴があったら入りたい、ね。byマタロウ)。けど、それしたら収拾つかなくなるから我慢してんの。

あーでも、俺先生のおかげで午後の授業頑張れるかも。
未だに床に蹲る帆波先生と同じ目線にしゃがみこんで肩におでこを乗せると、少ししてから帆波先生の頭がすり、と俺の頭に擦り寄ってきたから、俺このままずっとここにいたいな、なんて。


「…ちょっと、いつまでやってるのよあなたたち」

「「うわああああああ!!!!!」」

「(ほんと面白いわねこの子たち)」








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