水底に落とす気持ち
リクームへのベジータの猛攻は凄まじかった。多分私があれを食らっていたら間違いなく死んでいたであろうレベルで。一瞬で倒してしまったと内心喜んだけど、リクームは見た目はかなりボロボロなのに実際は対してダメージを負ってなかった。
「はぁーい!」
ちょいちょいリクームの言動に笑いそうになったけれど。
「い、生きてる…!なんてやつだ…」
「まるで不死身じゃん…」
「へへ、さーぁそろそろ始めましょうかー!」
あれで準備運動というのだから酷い話だ。リクームのベジータへの反撃、と言っていいのか不明だが、ともかく彼はあのベジータを子供扱いだ。
「…よ、よし、シュエ、悟飯、行くぞ!ベジータはもうあいつの素早い攻撃を避けるほどの体力は残っていない…!」
「はい…!」
「わかってますよ!」
体制を低くして脚に力を込める。そしてリクームが口からエネルギー波を吐き出した瞬間私たちは飛び出した。クリリンさんはリクームに真上から踵落とし。私と悟飯はベジータの両脇を支えてエネルギー波の着地地点から離れた。凄まじいエネルギーが真後ろを通り抜け、遠くの山にぶつかる。瞬間、広範囲に広がる爆風から守るように悟飯とベジータに覆いかぶさった。
こ、こんなところにまで爆風が届くとか…!なんて威力なんだろう…!もしあれに当たっていたら…あぁ、考えただけでもおぞましい。
「ぐぅッ…」
「お、おねえちゃん大丈夫!?」
「私は平気、ベジータは…」
「よ、余計なことしやがって…!この、まぬけ…!」
「なッ…」
「えぇー…」
「お、おれを助ける暇が、あれ、ばッ…!なぜリクームに攻撃しなかったんだぁ…ッ!!」
「おねえちゃんが庇ってくれたのに、そんな言い方しなくてもいいだろ!」
「ふんッ…お前たちの甘さには…反吐が出る、ぜ…!」
そう言って立ち上がるベジータぽかん、と見上げる。うん、別に気にしてないよ。ベジータってばこういう人だから。ツンデレだよツンデレ。ツン9割のデレ1割。けしからんよ全く。
ベジータに対してぽこぽこ怒る悟飯をよしよししてからリクームを見る。あぁ…ちゃんと立ってらっしゃるよあの人…本当やってらんない。
「おぉーい!バーダ、ジース!このチビ3匹も俺にやらせてくれぇー!いいだろ、なぁー!?」
「ちぇ、しょうがねぇなぁ」
「まぁいい!お前の好きにしろ!その代わり!あとで俺たちにチョコレートパフェを奢るんだぞー!」
「チョコレートパフェ、だと…」
「どこに反応してやがるバカッ!!」
珍しくベジータの悪態が可愛かった。だって特戦隊の人たちがパフェだなんて言うから。ぜひとも私にも奢っていただきたいのだがいかんせんそれは無理な相談だ。
そう言えばしばらくパフェ食べてないなぁ…帰ったらお母さんに作ってもらおう。とびきり大きいの。
…無事に帰れたらの話だけど…
突きつけられた現実に胃が痛くなった。
「そぉーい!!」
「ぎゃぁああッ!!」
「く、クリリンさぁーんッ!!」
吹っ飛んで行ったクリリンさんに私の頭の中のパフェが一瞬にして霧散した。呆然としていたらベジータさんに拳骨されたんだけど。めっちゃ痛いし…
「あいつ骨が折れたぞ…!多分もう動けないはずだ…!」
「せめて仙豆があれば…」
ギリッと唇を噛む。
「ベジータ、私行くね」
「…ふん」
とんッと軽く跳躍して悟飯の隣に並んだ。
空を仰ぐようにでかいリクームは私たちを小馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
「そうだなおチビちゃんたち。やれるだけやってみなさい。このリクームさんがね、じーっくりお相手してあげるからねぇ」
「舐めとる…!」
め、めちゃくちゃ腹立つでこいつぅう…!わ、私たちがどこまでこいつとやりあえるかわかんないけど、絶対にぎゃふんと言わせてやる…!
ちらりと悟飯とアイコンタクトをとり、私たちは気を開放した。
「「ぐぅぅ…!!はぁああ!!」」
最初に飛び出した悟飯は高く跳躍しリクームの頬に拳を叩き込む。けれど受け止められた悟飯はそのままぶん投げられた。
「私を忘れんなぁあ!!」
「お?」
「でぇえいッ!!」
下からリクームの腹に蹴りを入れ、そのまま体を強引に捻って足払いを仕掛けるが、それよりも早くリクームのつま先が私の顎を蹴りあげた。
「ぎゃぶッ」
「そぉれ!避けれるかぁ?」
連続で放つエネルギー弾を至近距離で躱しながら一度距離をとる。
「魔閃光ーッ!!」
悟飯の魔閃光をリクームが両手で受け止めた。よし、今なら…!
「魔貫光殺砲ッ!!」
魔閃光の威力に魔貫光殺砲がプラスされれば、結構なダメージになるはずだ。立ち込める煙が晴れたころ、リクームは平然とで両手についた汚れをぱんぱんと払った。な、なんてやつ…まるで虫を払い落とす感覚で私たちの技を打ち消しちゃったよ…
「いやぁ、やるやる!おててが汚れちまったぜぇ!」
「、悟飯離れッ、ふぐぅ…!」
「おねえちゃん!」
咄嗟に悟飯の前に立った私の目の前に一瞬消えたリクームが姿を現し、横に凪いだ腕が私の腹に当たった。岩にぶち当たり、崩れ落ちてくる瓦礫に下半身を挟まれる。
リクームの標的は私から悟飯へと移り、楽しそうに殴り蹴りを繰り返した。
「ひ、人の弟をおもちゃみたいに…ッ!!く、くそぉ!!動け、動けぇえ!!」
びくともしないがれきに涙が出そうになった。また2か月前のように、私はただ悟飯が痛めつけられる様子を見ているしかないの…!?…違う、最長老様に言われたじゃないか、限界は自分で決めるものじゃないって!私の限界はここじゃない!まだできる!まだ戦える!!
「ッ、例え片脚がなくなったって、私はッ…!!波ぁあああーッ!!」
下半身を埋める瓦礫目がけてエネルギー波をぶちこむ。幸い予想に反して私の脚は吹き飛ぶことがなかったため、瓦礫から飛び出したと同時にすべての力を脚に込めた。立ってるだけでもやっとなのに悟飯は立ち上がり、リクームに突っ込んでいった。
「ダメだ悟飯やめて!!」
なんだかとても嫌な予感が背筋を駆け抜けた。このまま悟飯がどこか遠くへ行ってしまうようなそんな気が。
嫌だ、お願い間に合って…!!
「負けてたまるかぁああああああッ!!!」
「ごは、」
ぼきり。
もう少しで悟飯に手が届く距離でリクームの脚によって悟飯の首の骨が砕ける音が響いた。一瞬で周りの音が私から遠のく。悟飯が地面に落ちる様子がひどくスローモーションで、まるでどこか別の世界から見ているような錯覚に陥った。
「ごはん…?ねぇ悟飯、ごは…」
「ごぶッ…」
「ッ!!」
悟飯の口から噴き出た鮮血が私の頬にかかった。さぁーっと全身の血が引いて行く音が耳元でする。あぁ、私はまた同じことを繰り返すのか。どうしていつもこうなるんだ。どうしてこの子ばかりがこんな目に。最長老様に力を上げてもらっても、守れないんじゃ結局は同じだ。
たとえ限界を超えたとしても、弱ければ何の意味もないじゃないかッ!!
頭の中でぶちんと切れる何かの音を聞いた気がした。
「あ…ああああああああああああああああ!!!!!」
「へ、どいつもこいつもつまらねぇカスどもだぜぇ」
リクームがそう吐き捨て、ゆっくりと近付いてくる。やめろ、来るな…来るな来るな来るな来るな…ッ!!
この子に近寄るな…!悟飯に近寄るなぁああああ!!!!!!
「おのれ…ッ!!おのれぇ!!!よくもよくもよくも悟飯の首を折ったなぁああああああ!!!!!!許さない!!許さない!!!お前ら全員…ッ!!!!」
「殺すッ!!!!」
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