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ごめん、ありがとう






「ふざけるな。貴様、ここへ来る前にもそんなことを言っていたな。足手まといになるだけだ。とっとと失せろ」

「そ、そうだよシュエちゃん!いくらなんでも君は女の子…」

「私はッ!!」


クリリンさんを遮って声を荒げた。ここで、ここで意思表示をしなければ私は一生弱い女のままだ。
一度深く深呼吸し、口を開く。


「私はお父さんから武術も気のコントロールの仕方も教わった。脚力にも自信がある。私だってお父さんの子供だもの、鍛えれば1年後のサイヤ人とも少しは戦えるかもしれない。だから私にも修行をつけてほしいの」

「貴様に投資をしろと?冗談じゃない。貴様の父親でさえ命と引き換えにやつを倒したんだ。お前なんかが役に立つわけないだろう」

「まだ小さい悟飯を守るためにも、姉である私が強くならなくちゃ意味がない」

「そんな理由で連れて行けるか」

「ならば自分のために強くなる。守るためじゃなくて、守りたいって言う自己満足のために。お父さんの仇をとるために。それに私、ちゃんと舞空術はマスターしてるの。お父さんには内緒にしてたけど…
…置いてったって、絶対に追いついてみせる。だから私に、稽古をつけてください」


お願いします。
じっとピッコロさんを見つめる。けれど彼はフンッと鼻で笑い飛ばすと私に背を向けた。


「失せろ。貴様に用はない」


ぶちッと頭の中で何かが切れた音をどこか他人事のように聞いた。


「いいから…ッ、いいから黙って私に投資しろぉおおおおおお!!!!!」


足を振り下ろすとドゴォオッと凄まじい音を立てて足元の地面がへこんだ。立ち込める土煙に私以外の全員が腕で顔を覆う。
あぁ、思わず巨人を駆逐する少年のセリフを叫んでしまった…。

遠い目をしていると目をひん剥いていたピッコロさんが不敵に笑った。


「へ、面白い…自分で豪語するだけのことはあるみたいだな。いいだろう、連れてってやる。ただし使えないと判断したらすぐにでも帰らせる」

「望むところ」


そう言うとピッコロさんは心底面白そうに口を歪めた。ふわり、と彼が浮くのに続いて私も地面から足を離した。


「1年経ったら、こいつらと共にお前たちの家に行く。孫悟空が蘇ったら、楽しみに待っていろと伝えるんだな」

「みなさん、ご迷惑をおかけしますが、どうかお母さんによろしくお願いします」


眼下の3人に手を振り、先を飛ぶピッコロさんの後に続いた。
彼らが嘆いているのも知らずに。





*****


「この辺でいいだろう。お前は来るな、ここにいろ」


ピッコロさんが降り立ったのは言葉通り何もない荒野だった。ここにいろと言われ、疑問符を飛ばす私を置いてピッコロさんはどんどん下降していく。
まぁ、いるっちゃいるんだけど、なぜに?

広い水たまりに足を付けたピッコロさんは小脇に抱えた悟飯を何の前触れもなく水の中に落とした。
くッ、と息をのんで降りようとしたら、激しく咳き込みながら水面から顔を出した悟飯にほっと胸をなでおろす。よかった…溺死させるつもりなのかと思ったよ。
それから悟飯は水の中をしばらくバチャバチャと走り回り、私のところにまで聞こえる大きさで泣き始めた。
…ピッコロさんの意図がなんとなくわかった気がした。

あの人は、私がそばにいると悟飯の泣き虫で甘ったれが治らないと判断したんだ。確かにあの子を甘やかしてきた自覚はある。あの子が泣き虫なのは、私のせいでもあるってことか。


「…難しいもんだなぁ」

「うわぁああああああん…!!おねぇちゃあーん!!おねぇちゃあああああんッ!!!」

「ッ」


ぐっと服の裾を握りしめる。耐えろ、耐えるんだ。私が今行けばピッコロさんの計画がすべておじゃんになる。本当は今すぐにでも悟飯のところに行きたい。でも、それじゃダメなんだ…


「ごめんね、悟飯…」


それから少しゴタゴタして、ピッコロさんは悟飯を荒野に置き去りにして帰って来た。


「よく耐えたな」

「…あの子には申し訳ないですけどね。私がいればあの子をダメにしてしまうことくらい理解はしてるつもりです」

「わかってるじゃないか。お前はこっちだ、行くぞ」


後ろ髪を引かれつつ再び空を飛んでいくピッコロさんに着いて行く。辿りついたのは、悟飯がいる荒野から少し離れた砂漠地帯だった。
周りは本当に砂だらけ。砂、砂、砂。気が狂ってしまいそうになる。


「お前の修行場所はここだ」

「ここで、何をすればいい?」

「お前も孫悟空の息子のようにただ生きればいい。そうだな…貴様は4か月でいい。それまで生きていられたのなら本格的に修行をつけてやろう」

「…わかりました」

「ただしここはさっきの場所と違って水も食料も何もない。頭を使え。俺が貴様に言えることはこれだけだ」

「十分ですよ」

「あいつと違って少しは見どころありそうだな…じゃあな、俺は行くぜ。自分の修行もあるからな」

「はい。では、4か月後に」

「…ふん、つくづく可愛くないやつだな」

「放っておいてください」


ふん、ともう一度鼻を鳴らしてピッコロさんは今度こそ去って行った。…何もない砂漠、ね。初めての体験だけど、何とかなるだろうか。いや、何とかしなくちゃ。

そういえば砂漠にはオアシスというのがあるんだよね。とりあえずそれを探そう。


ザクザクと砂を踏みしめて私は砂漠の中を歩き出したのだった。






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