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霊幻さんと合流したあたしと影山くんは、そのままファミレスに連れていかれた。霊幻さんが食べたいものを頼んでいい、なんて言いながらあたしにメニュー表を手渡すから、思いっきり気を遣わせてしまったことに申し訳なさしかなかった。
とりあえずメニューの中で一番安かったオムライスをお願いして、それぞれの料理が届くまでに霊幻さんと影山くんにあたしの諸々の事情を話した。

超能力が使えること、クラスメイトに怪我をさせてしまったことから始まり、お父さんは家を出ていって、心を病んだお母さんが入院中であること諸々をざっくりと。

前の学校から転校したものの、なんだかなぁ、制服を見る度にいろんなことを思い出しちゃうんだよ。


「まぁ、そういう事です」


そこまで話し終わったと同時に、まるでタイミングを見計らったように店員さんが料理を持ってきてくれた。「いただきます」ぱちん、両手を合わせて一匙救ったオムライスを口に入れた。柔らかくてふわふわの卵とケチャップライスの程よい酸味が口いっぱいに広がって、インスタント麺じゃない久々の食事にほっこりとした。


「なんとなく気付いてはいましたけど、悠さんやっぱり超能力者だったんですね」

「まぁ、そうだね」

「黙っていたってことは、知られたくなかったんだろ?」

「別に知られたくないってわけじゃないです。聞かれなかったから言わなかっただけ」

「じゃあどうして…」

「…影山くんが言ってくれたから。それと、影山くんがあたしを超能力者だって気付いてたように、あたしも影山くんが超能力者だってわかってたから」

「なるほどな」

「…ずるいって思いますか。こんな、後出しみたいなの…」

「別にいいんじゃないか?悠ちゃんが言おうが言わまいが、最終的にそれを決めるのは俺たちじゃない」

「……」


あっけらかん、と言い放つ霊幻さんに気が抜ける。なんというか、良くも悪くも人を尊重してくれる人だなって思った。


「悠ちゃんは普段何してるんだ?」

「何もしてないですよ。かといって引きこもりではないので、散歩したり、河川敷でぼーっとしたり、最近じゃ夕方は影山くんが話し相手になってくれまるので楽しいです」

「楽しい…」

「楽しいよ、影山くんとお喋りするの」

「そっ、か…へへ…」

「…なら、昼間はわりと暇なんだな?」

「?まぁ、そうですね」


ふむ、と顎に手を当てて考え込む霊幻さんに首を傾げる。一体どういう意味の確認だったのだろうか。霊幻さんの意図を汲み取れなくてちらッと影山くんに視線を投げかけるも、当の本人はハンバーグセットに夢中であった。ほっぺにソースついてる…。


「よし、悠ちゃん、明日から事務所においで」

「へ」

「え?」

「どうせ暇なんだろ?それなら、昼間事務所手伝ってくれた方が気が紛れるだろ」

「でも、霊幻さんの事務所って…」

「霊とか相談所。まんまその意味だ」

「…なら、手伝えません」

「なんでだ?」

「霊とかってことは、お祓いとかするんでしょ?あたし、除霊できないので」

「……え、そうなの?」


霊幻さんのこの様子を見るに、超能力者はすべからく除霊ができるものと思っているみたい。まぁ、影山くんがいつから霊幻さんの元でバイトをしているかはわからないけれど、こんなに大きな力を持っている人と一緒にいたのならそう思うのも無理ないのかも。


「…すみません…」

「なんで悠ちゃんが謝るんだよ。そんなの気にしなくてもいいって」

「けど…」

「世の中には色んなやつがいるんだよ。同じ人間なんて絶対にいないんだから、悠ちゃんは悠ちゃんのままで気軽に生きていけばいいんだって」


まるで目から鱗。だって、気ままに生きていいなんて言われたのは初めてだ。達観しているかと思いきや、面倒見がよかったり、よくわからない。

それに、普通ならば大なり小なり力を持っていたらそれを使うことを強制する人間が大半だ。自分のものじゃないにしても何かしら力を所有していれば強欲にも傲慢にもなるもので。あたしはそういう人間を見たことがあるし、知っている。
「ちょっと飲み物とってくるわ」コップを持って席を立った霊幻さんの背中をぼーっと眺めた。なんというか、不思議な人だ。


「ねぇ、影山くん」

「はい?」

「霊幻さんって不思議な人だね」

「…けど、とてもいい人です」

「…うん」


付け合せのコーンをフォークでつつきながら、どこか誇らしげに頷く影山くんが羨ましく思えた。信頼を全面に寄せているのが見てわかる。そういのいいなって。


「あたしも……」

「悠さん?」

「なんだ?どうしたどうした、そんな辛気臭い顔して」

「辛気臭いって…そんな顔してませんよ」

「あの、霊幻さん」


かちゃり、スプーンをテーブルに置いて霊幻さんに向き直る。霊とか、そういうのには関わりたくないってのは今も思ってる。だけど、霊幻かんにほんの少しの同情が混ざっていたとしても、無性にその差し出された手に縋り付きたくなってしまったんだ。「お、おう…」急に改まったあたしに困惑しながらも居住まいを正す霊幻さんと、不思議そうな影山くんの視線を受けながら言った。


「もし霊幻さんがいいのなら、お手伝いさせてください」

「え、い、いいの?悠さん…」

「うん。あたしに何ができるかなんてわからないけど、少しでもお手伝いができるのなら」

「なら、さっそく明日からよろしくな。事務所の場所はわかるか?」

「住所教えてもらえば行けます」


それなら、と手帳の紙を破いた霊幻さんはさらさらとそこに事務所の住所を書いて渡してくれた。


「明日からよろしくお願いします、霊幻さん、影山くん」

「おう、よろしくな」

「よろしくお願いします、悠さん」


霊幻さんを見て、影山くんを見て、噛み締める。明日から今日とは違う日常が始まるんだ。ちゃんとお手伝いできるだろうか。役に立てるだろうか。そんな不安を抱えながら、けれどそれと同じくらいの楽しみだという気持ちを胸に、妙に恥ずかしくなったあたしは俯いて頬を押さえた。







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